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俳句の鑑賞《54》


靴べらに滑らすかかと鵙の晴

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.114

季語:鵙の晴(三秋・動物)

鵙という鳥には、私自身、可愛らしい見かけとは少し異なる、キツイ鳴き声の印象と、「鵙の贄」という季語からの印象と、を持っているのですが、「鵙の晴」という季語には、鵙の声の上に広がる真っ青な空、澄み切った空気を強く感じます。

そのような爽やかな秋の日、作者は、出かける際の靴べらの使い心地が、いつもよりもずっと滑らかだと気づきます。
鵙の高らかな声と高い空、乾いた空気に、すくと背筋を伸ばして、その日の一歩を踏み出すに違いありません。


雨あしのやがて揃ひぬ冬紅葉

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.115

季語:冬紅葉(初冬・植物)

雨は、その降り出しは、地に落ちる間も、肌が感じる水滴も不規則ですが、やがて、テンポも強さも揃ってきて、本格的に降り出したな、と感じられるようになります。傘を持っていたら、開かずにはいられませんし、持っていなかったら、どこかに雨宿りをすることでしょう。

私には、作者が雨宿りをしている景、が浮かびました。
もう今は、しっかりと「揃った雨あし」を眺めている作者。その雨の中、冬紅葉の紅さがしっとりと浮き出し、時には、雨の強さに少し霞んでも見えるのかもしれません。雨の音だけが聴こえてくるような、ゆったりとした時間の経過です。


病院の廊下つぎつぎ折れて冬

津川絵理子句集「夜の水平線」P.129

季語:冬(三冬・時候)

初見、最後にぽつり置かれた「冬」という季語が、非常に印象的に私の中に響いてきました。
「病院の廊下」といっても、時間帯や外が見える窓の有無によって、かなり違った印象の廊下が見えてまいりますが、恐らく、ざわめく廊下ではなく、人気ひとけのない、検査室の階の廊下なのではないかな、と想像いたしました。
すっと冬の寒さが身に沁みます。

季語の力の重さ、を改めて感じます。


成人式ビニール傘の雨の艶

津川絵理子句集「夜の水平線」P.130

季語:成人式(新年・生活)

現代の若者は、布の傘よりも、ビニール傘をさしている人が多いように思います。気軽であるし、視界も広くて便利なのでしょう。

雨の日の成人式。新成人たちのさすビニール傘には、雨粒と一緒に、とりどりの正装の華やかな色が透け、作者の目には、艶めいて見えたのです。
今という社会も一緒に見えるようであります。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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