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俳句の鑑賞《64》


凍星をひとつ弾きぬ神の指

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.136

季語:凍星(三冬・天文)

季語「冬の星」の子季語「凍星いてぼし」、使われている漢字と音から、非常に寒々しさの感じられる季語のひとつと思います。
氷りつくような寒さの空に美しく光る星、青きシリウスかもしれません。そのような星ひとつを弾く、という措辞は非常に詩的。しかも、それは、「神の指」だという驚きの着地。

神々しく、清く澄んだ音が、脳裏に響き渡ります。
作者の心もまた、澄んでいるに違いありません。


日向ぼこ目をつむりても池ひかる

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.136

季語:日向ぼこ(三冬・生活)

「日向ぼこ」、寒さ厳しき冬の中、縮こまった身体を緩ませてくれる、とてもほっこりとした季語であります。

リラックスした作者には、やさしい微睡まどろみも訪れたことでしょう。
そっと目をつむる、その眼裏まなうらには、少し前に見ていた、暖かな陽射しを受けて光る池が、貼り付いているのです。

本日の一句目、二句目、対照的な光の印象であります。


踵から正す骨格雁渡し

津川絵理子句集「夜の水平線」P.153

季語:雁渡し(仲秋・天文)

「雁渡し」とは、初秋から仲秋にかけて吹く北風のこと。この頃に雁が渡ってもくるので、この名がつきました。
まさに秋らしさを感じる風、すと身体も伸びて、気持ちも整うような気がいたします。

注目は、「踵から正す骨格」という措辞。確かに全身をしっかり意識して立つ、一歩を前に出す、とき「踵を意識する」ことは大切だと、改めて感じました。

津川顧問は、とても姿勢が良い方、と私は感じました。(今年の、南風新年句会・於大阪、でお会いいたしました)正に、顧問らしい発想であります。


木犀や自転車のまだ傷持たず

津川絵理子句集「夜の水平線」P.154

季語:木犀(晩秋・植物)

木犀、色は、金・銀・薄黄、と様々ですが、いずれにせよ、非常によく香る花を持つ木。街中であっても、わりとよく植えられているので、香りで季節の訪れを知ることのできる植物、の代表のひとつでもあります。

そのような「木犀」への取り合わせの措辞が、まだ傷を持たない新品の自転車。
春でしたら、新しい自転車に喜ぶ女生徒などが浮かびますが、季節は晩秋。恐らく、載り慣れた自転車を手放しての、新車なのではないでしょうか。
ふと、自転車に乗った人が、木犀の香りに気付き、自転車をとめて木犀を探してい景が浮かびました。間もなく木犀の場所に自転車を押して近づき、花と香りを楽しみます。
そのうちに、新しい自転車にも、愛着がわいてくるように感じます。

そして、その初々しい自転車と、香りを楽しんでいる人を見つめる、作者の優しい目をもまた感じます。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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