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俳句の鑑賞《68》


雀みな梢を下りて梅雨夕焼

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.145

季語:梅雨夕焼(晩夏・天文)

私の散歩道の途中、とあるマンションの植え込みに、雀のおしゃべりがよく聞こえる木があります。他にも木はあるのに、何故か、その木が雀には大人気。天気の良い日は、出入りがあるのですが、雨の日は、じっとそこに籠っている様子。

作者は、恐らく、そのような木を見ているのだと思います。
夏、梅雨ももう終わりそうな日の夕方、降っていた雨が上がり、雀たちは、頃合いをみて一斉に木から下り立ちます。そのあたりに美味しそうなものがあるのでしょう。
空には、美しい梅雨夕焼。ほころんだ作者の顔も見えるようであります。


抱きあげし子の夏帽子落ちにけり

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.145

季語:夏帽子(三夏・生活)

初見、まあ、なんてかわいらしい光景!と思いました。
抱きあげられた子の様子、抱きあげた大人の様子、が生き生きと目の前に見え、そして、その子の頭から夏帽子がスローモーションで落ちてゆきます。
ああ、、、落ちちゃった。子も大人も、周りの人も、思わず声が出るようです。
そして、子を抱えつつ、屈んで、その落ちた夏帽子を拾う様子までもが見えます。

あまりに微笑ましくて、目頭が熱くなるほどです。
「落ちにけり」の詠嘆の威力は絶大であります。


立春や腕より長きパンを買ふ

津川絵理子句集「夜の水平線」P.166

季語:立春(初春・時候)

フランスパン、まるごと一本ですと、とても長いものが多くあります。
それを、「腕より長き」と表現した作者。確かに!と思わず相槌。
観察からの、この発想が、抜群と思います。

立春を迎えた道々、その長いパンを抱えて、いそいそと家路につきます。
焼きたてのパンの香りと共に、どんなふうに食べようか、と心躍らせているに違いありません。


ちよつと腰うかす挨拶シクラメン

津川絵理子句集「夜の水平線」P.167

季語:シクラメン(三春・植物)

小さな事務所、を想像いたしました。例えば、会計事務所。
作者を客として丁寧に迎え入れる、受付の方。そして、その後ろの机には数人の事務員の方が座っています。それぞれの仕事を、ほんの少し止め、少し腰を浮かせて、丁寧に頭をさげます。
その心遣い、きちんとした事務所だな、と作者も安堵したのではないでしょうか。

受付のシクラメンもまた、丁寧に手入れをされた美しい鉢植えに違いありません。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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