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俳句の鑑賞㊵


空はまだ薄目を開けて蚊喰鳥

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.79

季語:蚊喰鳥かくいどり(三夏・動物)

蚊喰鳥とは、蝙蝠のことです。
昼間は巣で休眠、日没直後、待ってましたとばかりに餌を求めて集中的に行動をします。

まだ、空には沈んだ太陽の余韻が十分に残っている空を、「空はまだ薄目を開けて」と表現する詩心、圧巻であります。


枯蟷螂人間をなつかしく見る

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.81

季語:枯蟷螂かれとうろう(初冬・動物)

夏の蚊喰鳥に続き、冬の枯蟷螂。
蟷螂の越冬は卵の状態。冬前に交尾を終えた雌は雄を食べ、産卵の後に死を迎えます。

冬の初めに、生気を失った蟷螂を見つけた作者は、あの独特な眼を覗き込んだに違いありません。その眼は、作者を、ひいては「人間をなつかしく」見ているように感じたのでしょう。何とも言えない哀しみが宿っています。
恐らく、作者の方もまた、夏のあの蟷螂の生に対しての果敢な様子を、なつかしんでいるに違いありません。


小春日や如意棒仕舞ふ耳の穴

津川絵理子句集「夜の水平線」P.92

季語:小春日(初冬・時候)

伸縮する如意棒をマッチ棒ほどの大きさに縮めて耳の穴に収めているのは、「西遊記」の孫悟空のこと。

立冬を過ぎたものの、まだ本格的寒さは訪れず、穏やかな春のような日。ふと、気も心も穏やかになります。仕事や家庭での日頃の忙しさ、厳しさから自分を解き放ち、戦いを終えて如意棒を耳の穴に仕舞う孫悟空のように、その日を過ごしてもいいですよね。
こういう俳句もありなのだなあ、とハッとした御句であります。


ジェット機の音捨ててゆく冬青空

津川絵理子句集「夜の水平線」P.93

季語:冬青空(三冬・天文)

大きな音をたてていくジェット機、場所によってはよく聞こえます。
音がする方向の空を見上げても、そこには当然何も見えず、その音のかなり前方をゆく機体。その状況を、「音捨ててゆく」と表現していることが眼目であります。
また、冬の空、でなく、冬青空の六音のゆったり感で、大きな空とジェット機との対比がより生まれるのだと思います。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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