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俳句の鑑賞㊳


塗りたてのペンキを踏んで春の蠅

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.75

季語:春の蠅(三春・動物)

「ペンキ塗りたて注意」などの表示がされている場合、人間の大人ならばペンキを踏むようなことは敢えて・・・はしません。
ここでペンキを踏んだのは、なんと、春の蝿!
成虫のまま越冬をしていた蠅が、その眠りから覚め、人間でいう「寝ぼけた」状態で、ペンキの匂いを気にせずに踏んでしまったのでしょうか。

ペンキの塗りたて具合にもよりますが、蝿の足がペンキに貼りついて動けなくなったとしたら。あるいは、飛び立てた後、蝿の小さな足跡が残ったとしたら。あれこれを想像するとくすくすと笑えます。春の蠅が愛おしくさえ思えます。


たんぽぽの絮をこはさず雨のふる

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.76

季語:たんぽぽ(三春・植物)

老若男女誰もが知っているあの、たんぽぽの絮。丸いまんまの絮もあれば、もう半分以上欠けてしまっている絮、もう殆ど残っていないもの、よく見ると様々です。
ですが、やはり一番魅力的なのは、丸い絮。そのままの姿であったらいいなあ、と思ったり。

その日は、雨。もしかしたら、かなり強い雨なのかもしれません。その雨すらも、完璧な絮を「こわさないように」降っているというのです。絮の先についた雨粒も、また美しい光景であります。
このような優しさ、にとても惹かれます。


鳥籠に青菜絶やさず文化の日

津川絵理子句集「夜の水平線」P.90

季語:文化の日(晩秋・生活)

私も幼い頃から、鳥だけはよく飼っていました(マンション住まいが長かったので、他の生き物はなかなか飼えず)。
鳥の種類にもよりますが、大抵の鳥は、青菜が好きです。ただし、朝、青菜入れに青菜を入れても、夕方には、美味しい先っぽを食べられた青菜がしんなりと残っている、残念な状態になります。

「青菜を絶やさず」にいるのは、できそうでいてなかなかできないこと。飼っている鳥への深い愛情と、休日の「文化の日」だからこそ、より丁寧に青菜を足してやれるのだなあ、と思います。


冬ぬくし吹けば無毛の鳥の腹

津川絵理子句集「夜の水平線」P.90

季語:冬ぬくし(三冬・時候)

これもまた、恐らく飼い鳥のことだと思います。
親鳥から生まれた雛でしょうか。或いは、新しい幼い鳥を迎えたのでしょうか。まだ飛ぶこともままならぬ雛を、作者は、掌のなかに優しく包んでいるのでしょう。
伝わってくる鳥の体温、そして、そのお腹のあたりの薄い毛にふっと息を吹きかけます。そこには、まだ毛の生えていない、薄桃色の腹が。
優しい穏やかな時間の流れる、あたたかな冬の一光景です。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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