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俳句の鑑賞㊷


逃げどころなし寒林に光充ち

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.84

季語:寒林(三冬・植物)

逃げどころなし、と言い放たれた始まりに、読み手は「何?何処?」と疑問に思い、直後、それは、光りに充ちている寒林、であると知ります。

葉をすっかり落とした裸木ばかりの「寒林」。夏であれば、葉葉に日光を遮られる、暑さを凌げる涼し気な場所でありましょうが、冬には、燦々と日の光が注ぎ、正に光の充ちる、暖かな空間であります。足元に広がる落葉たちも光輝いていることでしょう。
その様子を、「逃げどころなし」と表現することで、圧倒的な光に読者は包まれます。
倒置法の効果が、絶大であります。


掻き出しし砂乾ききる蟻の穴

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.86

季語:蟻(三夏・動物)

蟻たちが、巣穴からせっせと掻きだした細かい砂が、その穴の周りにこんもりと、まるでドーナツのように積もり、すっかりと乾いて色が変わっている様子は、だれもが一度は目にしたことのある景と思います。その景をしっかりと描写。

その穴の周りには、蟻の姿は既になく、真夏の太陽から逃れるために、穴のなかに潜んでいるのかもしれません。
しんとした、灼熱の夏の庭の様子が目に鮮やかであります。


春近し屋根よりのぼる海の星

津川絵理子句集「夜の水平線」P.99

季語:春近し(晩冬・時候)

春が少し感じられる冬の終わり。まだ、空は澄んでいます。
家より少し離れたところから、空を見上げている作者には、星々がまるで屋根からのぼっているように見えたのでしょう。
そして、その家の向こうには、広い海が広がっているのです。
海の星、との措辞に詩心がとても感じられます。


青空の雲梯をゆく冬木の芽

津川絵理子句集「夜の水平線」P.99

季語:冬木の芽(三冬・植物)

私自身、幼い頃、雲梯で遊ぶのが大好きでした。学校で、公園で、暇さえあれば、雲梯で身体を揺らせていたように思います。
雲梯の梯子の隙間から見える空は、身体の揺れ具合によって、近くなったり遠くなったりいたします。
ですから、「青空の雲梯をゆく」に大いなる共感、冬の青空がよく見えます。
季語、冬木の芽、にはそんなふうに遊んでいる子どもの、成長をも感じられます。


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「遅日の岸」より、村上主宰ご自身の「自選十句」を、YouTube 「ハイクロペディア」で順に見ることができます。
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第一回目は、

暗算の途中風鈴鳴りにけり 村上鞆彦

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.3


第二回目は、

花の上におしよせてゐる夜空かな 村上鞆彦

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.16


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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