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「南風・六月号」を読む。

「南風・六月号」より、好きな句、気になる句。
(句順は掲載順、*=特に好きな句)


村上主宰「一気」十句より

ボタン点して待つ春寒のエレベーター

雛あられひとつ拾うて灯を消しぬ*

蘆の芽の水面破りてより一気

春風や尾長の屍尾の長く*

春月の真下に海の膨らみぬ


津川顧問「視野」十句より

目薬に逸らす瞳や鳥の恋

七菜子忌の遠き雲より春の雹

初蝶見送れり一句くちずさみ

抽斗にしやもじがふたつ春の山*

花の昼双眼鏡の視野しづか*


「雪月集」より(敬称略)

剪定の松の匂ひの湯が沸けり    小野 怜

会はざれば薄るる情残り雪     中村君永

美女に逢ひ年寄に逢ひけふ彼岸   井手千二

春の虹ひとに告げむと立ち止まる*  団藤みよ子

雨しとど吸ひける古墳草青む    池之小町

鳥の糞拭ひし玻璃戸山笑ふ     武田佐自子

耕して夕暮の空ほこほこす     駒田弘子

古民家の土間のでこぼこ竹の秋   田村紀子

桃咲いて鳥が遊んで庭の樹木    板垣悦子

母の意に添へなく生きて花の雨   腕野辰平

穴を出し蛇に相談したきこと*   河田陽子

啓蟄や鹿のにほひを抜けてきし   𠮷村冨恵

野を焼くや火は火を襲いつつ膨れ  小野義倫

小鳥の蛇口ひねつてみれば春の音* 林 里美

大干潟たびたび子らを数へつつ   帯谷麗加


「風花集」より(敬省略)

あたたかや言はれてシャツの裏おもて* 澤木恭子

永き日や母の尾掴む象の鼻*     日野久子

建売のパタパタ並ぶはこべかな    日野久子

鳥除けが紫羅欄花あらせいとうの奥に照る     若林哲哉

食い初めは父の釣果の桜鯛      上田和子

神馬舎の小さき馬場や梅ひらく    深水香津子

茎立のカリフラワーの大爆発     桑原規之

しやぼん玉歪に伸びて大空へ*    小玉みづえ

なきがらの鹿より洟や春の山*    板倉ケンタ

春昼の牡鹿牝鹿を重ね積む      板倉ケンタ

万愚節グッピーの青赤を産む     太田美沙子

早春のからだまはせば腕しなふ*   今泉礼奈

剪定の庭に新たな風の道       田上美喜子

春塵や日付貼られし忘れ傘      片岡智子

縁先の木の芽を数へ入院す      東 尚道

マヤ族の球戯場跡草青む       山蔭渙子


「南風集」より(敬省略)

沸騰の泡の大きく山椿       延平昌弥

ボクサーを囲む鏡も花の冷     大熊光汰

罅のまま使うスマホや花の雨*   陰山 恵

採血の目つむりをれば薔薇芽吹く  陰山 恵

図書館のにほひ変はらず花の昼   磐田 小

倒壊の家にお飾付きしまま     山本こうし

肉の日の長き行列花ミモザ     横田朱鷺子

囀やきれいな肺を二つ持ち     鈴木隆次郎

標本の仕切りたてよこ春寒し    ばんかおり

花ミモザまだ先輩と呼ばれおり   五月ふみ

ちぎつても麺麭ちぎつても春の雲* 水野大雅

ドーナツの穴も甘さう蝶の昼    加藤 修

君の説く物理と春の波の音     佐々木依子

その歌のときは手を止め春灯    市原みお

生ぬるき春昼の闇視野検査     山中宏子

春愁やうしろからくる笑ひ声*   山中宏子

啓蟄や眼鏡に重ね虫眼鏡      堤 あこ

春の月柩の顔に眼鏡なく      青居 舞

液晶に吸はるる指や春の闇     菅井香永

分解のマネキン積まれ花曇     一瀬達也

黒板のベクトルの跡春夕焼     岩本玲子

春雨に立ち尽くしたる野球帽    宇野悦耳

玉椿包帯になき裏おもて      宮本 菫

花の窓同じ病の四人部屋*     佐藤典子

ネモフィラの空まで続く青さかな  小田毬藻

雛段の赤見えてゐる八百屋かな   堀内照美

春暁や胎盤を食む猫の舌      久住智子

廃校の百葉箱に雀の子       金谷千鶴

あんぱんにほのと酒の香目借時   藤本智子


「摘星集・兼題、蛇の衣」から

水草を離れて迅き蛇の衣     一瀬達也

蛇の衣まだ温かき光あり     水野結雅

枝先のあやふきところ蛇の衣   加藤 修

置き手紙見つけし心地蛇の衣   五月ふみ

あくる日も風の吹くまま蛇の衣  堤あこ


     ・・・・・

卯月紫乃 載せていただいた句

「南風集」(五席)
蕾より蕊放たれてたびら雪
軟膏を押し出す指に蓬の香
風光る少年の顎尖りをり
春愁の唇に貼りつくウエハース

「摘星集・蛇の衣」
古布に包まれてゐる蛇の衣
蛇衣を脱ぎて去りゆく碧光り


一句目は、主宰推薦「今月のニ十句」入選、講評もいただけました。

蕾より蕊放たれてたびら雪  卯月紫乃

まず花弁が開き、次に蕊が張り出すというのが順序かと思うが、花弁は略して蕊に注目している。「放たれて」も大胆。よほど作者は蕊に惹かれたのだろう。「たびら雪」の頃ならば、梅か。開花の様が大写しでドラマチックに描かれた。

村上鞆彦主宰「南風集選後に」から
「今月のニ十句」に入ると、同人・団藤みよこ様より、書が送られてきます。
非常に嬉しいです。


追記:たびら雪の句は、主宰の講評のとおり、梅の花の景です。
たびら雪が、その蕊の上にふわりと降りたちました。

いただいたサポートは、次回「ピリカグランプリ」に充当させていただきます。宜しくお願いいたします。