『あなたが好きだよ』 【400】
「ねぇ、これって音楽を聴くものだよね?」
白に限りなく近い銀髪の青年が小型の音楽プレイヤーを見せながら問う。
「んー?あ、それ、私の…!」
(昨夜、バタバタと慌てたように自分の部屋に戻ったから、きっとその時落としたんだ…)
「拾ってくれたんだね?ありがとう」
にっこりと笑顔で受け取る。
「…ごめん。拾ったときに何処か触れてしまったみたいで音楽が聴こえてきたから…」
彼はそう言うと、罰が悪そうに下を向いてしまう。
「聴いたの…?」
私は少し嬉しくなる。私のいる世界の音楽に興味を持ってくれたなんて。
「うん。聴いたことのない曲ばかりだった。…ねぇ、キミって歌、上手いよね?」
凛とした、透き通ったようなアメジスト色の瞳がこちらに向けられ、低音のクールなその声にさり気なく褒められて思わずドキッとした。
「え…?」
「キミの部屋の前を通るとたまに美しい歌声が聴こえてくるから」
(ぇええ!!私の歌声聞こえてるの…!?)
心の中では嬉しさと恥ずかしさで大忙し。
先程の褒め言葉をまだ消化しきれぬままの私に、さらに追い討ちのような褒め言葉に答えられないでいると重ねて青年が言う。
「その中から聴こえてきた音楽があまりにもキレイで、楽譜に起こしたから」
青年はそこまで話すと踵を返し、自身の部屋のドアを開き足を一歩踏み入れると止まって振り返る。
「…待ってるから」
そう言い残してドアを閉めた。
慌てて私はドアの向こうの彼に向かって叫ぶ。
「コーヒー持って入れてくるね…!」
私はキッチンへ急いだ。
* * *
コーヒーミルに豆を入れて挽きながらぼんやりと考えていた。
きっと彼は私のiPodを拾って一晩中書き起こしていたんだと思う。
でもこんな遅い時間なのに眠ることよりも「今すぐ」と私に声を掛けてくれたことが何よりも嬉しかった。
まさか、毎晩歌っている私の声が彼の部屋まで聞こえているなんて思わなかったけれど。
「さて、急ごう」
私はトレーにマグカップを2つ乗せてキッチンを後にし、彼の待つピアノ室へと向かった。
***
ガチャリ。
ドアを開け、真っ白い部屋へと足を踏み入れる。
トレーに乗せてあるコーヒーを溢さないようにピアノの近くのテーブルまで慎重に運ぶ。
「お待たせ」
ピアノに座り、楽譜とにらめっこしている彼に声をかけると振り向いて、
「ありがとう。それで、この曲なんだけど…」
楽譜を手渡され見てみると私がよく聴いていた曲のメロディーだった。
「これ、私の好きな曲だよ。ピアノで弾けるの?すごいよ!」
嬉しくて思わず一人で盛り上がってしまい、ハッとして彼にそっと向き直る。
「ごめんごめん。私が歌って良いの…?」
彼に問う。
「うん。お願い出来る?」
その言葉に、いろんな思いが湧き出てきて息が詰まりそうになりながらも私は。
「任せて!」
私はピアノの前に立つ。
大きく息を吸い、そして歌い出す。
***
--明けない夜はないと教えてくれたこと
私の手を引いてくれたこと
「あなたを忘れないよ」--
ボクがピアノを弾き、キミが歌う。
キミの歌声は透き通っていてとても綺麗。
変な機械を昨日廊下で見つけた時、偶然手が触れて音楽が流れ出したのは運命かな?
ずっとキミを見ていた。
ボクがキミに伝えたい言葉があるんだよ。
でもね、伝えたらキミは困ってしまうだろう。
キミには既に…。
これは、叶わない恋なのだから。
--「ねえ 僕 ほんとに 君が好きだよ」
あとがき。
叶うこともない切ない恋と、切なく心に響いた音楽を合わせてみました。
彼の住む時代にスマホもパソコンも存在してないでしょう。なので、iPodも分かりません。
ただ触れたら音楽が流れた、何だこれ…?でも素敵な歌だなぁって。
よし、いまから練習しようって思えた原動力は彼が伝えたかった、たった一つの言葉が聴こえてきたから。
そして、、、
note投稿数400突破致しました✨
ここまで続けて投稿出来たのは、読んでくださる皆様あってのことです。
いつも本当にありがとうございます😊💕
実は、少し前から後いくつで400だ…(๑°ㅁ°๑)‼✧ と思っていて、ちょうど400の時にこの物語を投稿する予定でした。
しかし、それは叶いませんでした。
でも、お祝いはいつだって出来る。
本当は昨日だけど今日お祝いしたっていいじゃない。
残業から帰ってきたらクワちゃんが亡くなっていて、400というのが頭の中から抜け落ちてしまっていた。。。
投稿してバッジ獲得が表示されて思い出すなんて…。
仕方ない、仕方ないことなんだ。
そんな感じに自分に言い聞かせました(笑)
ここまで読んでくださりありがとうございます😊 いつも、温かいコメントやハートにいつも励まされています✨ これからも何卒よろしくお願い致しますm(_ _)m💕