友達
俺さぁ、ちょっと精神的に参ってた時期があるんだよ。
受験に失敗して、私立に行くことになったのが原因だと思う。ふさぎ込んじゃって、部屋にこもってネットばっかりやってたんだ。
ある日部屋の掃除してたら、小学生の時に流行ったカードゲームのカードが出てきた。懐かしいなぁ。あの頃、毎日デッキ作って友達と勝負してたっけ。
で、今もこれやってる奴いるのかな? と思って、ネットで検索したわけ。
そしたら意外にもまだやってる人がいるってことが判明。なんか嬉しかったね。
そんで、このゲームの掲示板みたいなのがあって、ネッ友ができたのよ。
同い年の男でさ、チャットしてるとすげえ気が合うなっ思った。
お互い都内在住だし、カードゲームの大会に一緒に出ませんかって誘われた。
もちろんOKしたよ。俺も誘おうと思ってたし。
大会では俺のデッキが少し変わった構成だからなのか、結構周りからなんか奇異の目で見られた。でもそいつは「いいじゃんそのカード」と褒めてくれた。
最近じゃ毎週のようにそいつとカードゲームしてる。今日も一緒に勝負したんだ。
俺が勝って、そいつは「勝者の言うことなんでもひとつ聞いてやるよ」って言った。
俺も、勝負する前から同じこと考えてたからさ、ほんとにこいつとは気が合うんだよな。
俺は「うちで飯食ってけよ」って言った。母ちゃんがさ、料理うまいんだよ。
それに、ふさぎ込んでた俺を元気にしてくれたこいつを、心配してくれた母ちゃんに紹介したかった。
母ちゃんに電話した。
「夜、友達一人連れてくから飯よろしく。最近一緒に遊んでるカードゲームのやつ」
「えっ? あぁ・・・うん、じゃあ夕飯一人分多めに作っとけばいいのね」
と、戸惑いながらも承諾してくれた。
あんまり嬉しそうじゃない感じの声だったな。喜んでくれると思ったんだけど。
昔は俺が友達連れて来たりすると、喜んで飯作ってくれたんだけど。
ウチに着いて母ちゃんにそいつを紹介した。
丁寧に頭を下げて挨拶するそいつを、母ちゃんは戸惑いながら見つめた。
最初はそいつと目を合わせてくれなくて、俺が困惑したよ。こういうの久しぶりだから、緊張してんのかな。
そいつが帰って、「あの・・・その子はどこで知り合ったの?」って母さんが聞いてきた。
「ネットだよ」と答えると、「そう・・・」とだけ答えて洗い物を始めた。
洗い物が済んで、スマホでそいつとやりとりしてる俺をしばらく見つめていた母ちゃん。今日はどうしたんだろう。
「ねぇ、もし答えたくないなら答えなくていいんだけど。
もう高校落ちたこと気にしてない? あの頃、相当参ってたみたいじゃない」
「え? あぁうん、もう全然。あいつと遊ぶの楽しくてさ、そんなの忘れてた。毎日頭がどうにかなりそうだったけど、もう全然大丈夫」
俺はハハッと笑った。
「そっか。じゃあ今、幸せなんだ?」
「そうだね〜来週も遊ぶし。あ、ウチ呼んでいい?」
「・・・うん、いいよ」
俺はあいつにメッセージを送る。
「来週俺んちで勝負しようぜ! 勝っても負けても、飯また食ってけよ」
リビングから部屋に戻ろうとして、台所のゴミ箱に捨てられている今日の夕飯と思しきものがあった。なんだろう。あいつ、飯残してなかったし・・・母さんが残したのか? 具合でも悪いのかな。