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技法考察 Vol.1 「ダブルリフト」

このnoteでは、いわゆるマジックの種明かしはいたしませんので「ダブルリフト」(以下DL)をご存知の方にしか意味がわからない文章となることをお許しください。

カードマジックにおける「DL」の存在はあまりにも大きなものなので、本格的にマジックの世界に足を踏み入れた方でこの技法を知らない方はいないでしょう。

今回は「DL」の有用性と弊害、現場で耐えうる最低限のクオリティについて考えてみたいと思います。

DLの有用性


DLの有用性は様々な言い方で語ることができると思いますが、あえてシンプルにまとめてみると以下の2点ではないかと思います。(他にも様々な切り取り方があるとは思いますが、記事をシンプルに保つため割り切ります。)

  • 1つの技法で様々な現象を表現することができる
    (変化/交換/出現/消失/コントロールなど)

  • トランプを扱う自然な動作の中に技法を埋め込むので怪しさが少ない
    (逆に言うと自然な動作に見えなければ致命的な欠陥となる)

たった1つの技法を覚えるだけで、カードの移動、位置の交換、出現、消失などの現象を表現することができ、さらにコントロールにも使える点は見逃せません。他の多くの技法は、それぞれ特定の現象に特化されたものが多いのに比べ、この幅の広さがDLの特徴と言えるかもしれません。

また、トランプをめくるという自然な動作そのものに技法を埋め込むことができるので、如何にも何かテクニックを使った!という印象を与えることなく不思議な現象を起こすことができる点もDLの強みではないでしょうか。(その強みがリスクにもなり得るので、そちらは後述します。)

DLの弊害


では、次にDLを使用することで生まれる弊害についても考えてみましょう。

  • ある程度質を高めないと怪しさの方が際立ってしまう

    自然に見えるまで技術を洗練させないと、本来自然な動作であるはずの「トランプをめくる」という動作そのものが不自然になってしまうため、演技全体が極めて怪しい印象になり易い。

  • 乱用されがちで、不必要にカードを何度もめくる動作が増えてしまう

    これはプロアマ問わずよくある現象なのですが、「一つの演技の中でそんなにトランプを何回もめくる必要があるか?」と思ってしまうくらい、置く前にめくる、変化する前にめくる、確認するためにめくる、魔法をかける前にめくる、終わった後にまためくる、、、そんな演技をよく見かけます。

    カードをめくることが悪いわけではないのですが、客観的に見て、違和感を感じるほどになると弊害と言って良いのではないでしょうか。

    問題なのは、一つのパフォーマンスの中で「出現」「変化」「消失」などに加えて「カードの確認」さらには「カードのコントロール」までDLというたったひとつの技法で解決してしまおうという発想です。

    便利かつ優れた技法ではありますが、演技においてはその瞬間に必要かつ最適な技法を取捨選択していく知識量と技術を持ち合わせた上で使用していく必要があります。適切なシーンのみでDLを使ってこそ本当の意味で価値を発揮する技法なのではないでしょうか。

    逆に言えば、その辺りを俯瞰して自身の演技を客観的に見る感覚が麻痺してしまう程に便利すぎる技法だということなのかもしれません。

  • ある程度一般の方にも基本原理を知られてしまっているため、一定のクオリティを超えるまでは実際はバレバレ

    昨今の種明かしブームによってカードマジックを代表するほど有名な技法になってしまったため、少しマジックをかじった程度の人がDLを知っているケースが多々あります。そのため、そういった方々が認識できないレベルのクオリティに達しない限り、けっこうな確率でバレてしまいます。

    幸か不幸か、日本人はストレートに「わかった!」と言わないお客様が多いため、バレてないと勘違いしたまま乱用し続ける痛々しいパフォーマンスが日々垂れ流されています。

    残念なのは、一度「やっぱりあの技を使ってるんだ!」と思われてしまうと、仮にそれが間違った認識であったとしても「これもあれもどうせあの技を使ってるんでしょ。」という思い込みが出来上がってしまい、その相手にとっては魔法は絶対に成立しないという悪循環に陥ってしまう点です。(もちろん、そのことに気づいて認識を改めていただく戦略もあるわけですが、そのような認識を持たれてしまう程度の技量しか持っていない方は、相手の認識を改めさせるための技量も足りないというのがシビアな現実かもしれません。)

DLに求められる最低限のクオリティ


では、DLが本当の意味で効果的に機能するためにはどのようなのクオリティが求められるのでしょうか?素人はもちろん、DLの存在を知っている人をも欺くことができるレベルとは?

  • 不自然な動きをしない

    「ただカードをめくる」という誰にとっても意識せずに自然に行うことができる簡単な動作であるにもかかわらず、なぜか「一生懸命にカードをめくる」マジシャンが多すぎます。人が何かを「一生懸命にやる」のは、「難しい動作や慣れない動作をする」ときです。真剣さや、一生懸命さ、緊張感が出てはいけません。当たり前のように「ただカードをめくった」ように見えなければならないのです。以下でもう少し具体的に考えていきましょう。

  • 不自然な力みを取り去る

    「ただカードをめくる」というシンプルな動作が怪しく見えてしまうのにはいくつかの理由がありますが、一番良くないのは不自然に力んでしまうことです。

指先が力んでいれば、「カードを1枚めくっている」ようには見えません。手首や肘が力んでいれば、「何かをやっている」ような気配を相手に感じさせてしまいます。本人は気づいていなくても、客観的に見ている他人から見ると極めて不自然に見えてしまいます。自分の演技をビデオに撮影して確認することで自分自身の姿を客観的に観察することで少しずつ違和感を削ぎ落としていくことができます。

  • 不自然なスピードの変化をなくす

人が自然な動きをしている時には、そのスピードに違和感を感じることはありません。何も考えずに動いているので、そこには不自然さが生まれる余地が無いからです。

しかし、何かやましい動作をしようとする時には、必ず動作が早くなる傾向があります。「早く終わらせてしまいたい!」という思いが身体の動きに反映されてしまい結果的にその瞬間だけ ”妙に早い” 動きとなってしまうのです。

また、技法の直前に一瞬動きが固まってしまう人もいます。脳内で一生懸命に次の秘密の動作に備えるためのシミュレーションをするため、身体が一瞬フリーズしてしまうのです。

これら不自然さは、誰がみてもわかりますので、「何をしたかはわからないけれど、今何かしたんだね。」という印象を与える結果となります。

DLに関しては、少しでも技法感を感じさせてしまった瞬間に失敗だとみなして良いと思います。「何をどうしたのかはわからないけど、何かやった!」と思っている観客にとって、その後どのような現象が起きたとしても、それは「魔法」ではなく「何か怪しいことをやった結果」でしかないからです。

これに関しても、自ら意識的にスピードを制御しながら練習することに加え、ビデオで客観的に自分の動きを観察して調整することを繰り返すことによって少しずつ修正していくことが可能になります。

  • 動作に一貫性を持たせる

これは上記のスピードの話にも通ずるところがありますが、自然な動作にはスムーズな流れがあります。不器用な人にも、不器用な人なりの一貫したスムーズな動きがあるのです。

ところが、「やましい動作」をしなければならないことが確定している人間は、その「やましい動作」をするための心の準備や、シミュレーション、失敗しないかという不安や恐怖心、様々な思考が発生するためそのノイズが身体動作の流れにも表出してきます。

・突然スピードが変わる
・なんとなくぎこちない動き
・なぜか違和感を感じる動き

そんな風に、失敗したわけでもないのに相手には「何か」が伝わってしまうのです。

「失敗してないからバレないだろう」という考え方を捨てない限り、マジックの技術や演技の質は向上しません。失敗しなくても、未熟な技術というものは多くを観客に語ってしまうものです。

一貫性のある動きをするためには、「技法を使わない本来の自然な動作」とはどのようなものなのか?を何度も確認して行ってみることが大切です。その上で、「技法を使っても同じ区自然な動きができるように」心がけながら技法の練習をしていきます。そこで必ずスムーズに進行できないウィークポイントがいくつも見つかりますので、それらのウィークポイントを一つずつ自然な動きになるよう調整していく作業に入ります。すべてのウィークポイントをクリアしてから、再度全体の動きを確認して、、、

そのエンドレスループをひたすら繰り返すことで少しずつ技術を磨いて行くことで一貫性のある自然な動きをつくりあげていくことができます。

今申し上げたこの練習方法は、不思議な力みをとる練習、不自然なスピードを無くす練習にも共通して応用できる考え方です。

鍵は、「無意識化」


自然な動きを求めて練習をするにあたって、大切なことの一つに「動きの無意識化」という考え方があります。

一言で表現すると、「何も考えずに身体が勝手にその動作を行う」レベルに達すると、そこには力みも不自然さも入り込む余地のない自然な動作がある。ということです。

この「無意識化」については、またあらためて詳しく書いてみたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


コミュニケーションにおける間合いと、相手や自分自身を見極める目を獲得するためのノートはこちら。 ↓


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