
アオシャク
1月15日、神棚の榊を取りかえたとき、余った枝を空き瓶に差しておいた。
毎月1日と15日に、庭にある榊の枝を切って、古いものと交換する。
それが私の担当になっている。
余らした榊は、空き瓶に入れたまま、台所のカウンターに置いていた。
毎日、水を変えているうちに、つぼみが出てきた。
先日、母がそれを見つけて、私を呼んだ。
「ちっちゃい、まんまるだね」
「花が咲いても困る。匂いがね……」
「どんな匂いなの?」
「何とも言えない。お隣さんに申し訳ないと思うくらいにはくさい」
「えええ、嗅いだことなかった」
数週間経って、榊を処分しようと瓶から抜いたとき、何かが台所の流しの縁に落ちた。
いや、はらはらとおりたように見えた。
気づいたのは母で、「何かいるよ!」と言った。
透き通るような黄緑色の二等辺三角形を見て、私は「あ、蝶だ」と呟いた。
だが思い出した。
蝶は止まるとき、羽を閉じる。
この二等辺三角形は羽を開いて止まっていた。
つまり、蛾だ。
羽の先が丸くなっていて、端の方に小さな斑点が2つ、左右対称に並んでいた。
しばらく見つめていたが、一向に動かない。
なぜ榊の入っていた瓶から出てきたのだろう。
「きっと、卵かサナギがついていたんだよ」
「羽化したってこと?この寒い時期に?」
「家の中はあったかいから、春だと勘違いしたんじゃないかな」
このまま外に出すのは、かわいそうだ。
そう思う前に「虫、外に出す」というセンサーが働いて、私はその蛾を外へ逃がしてしまった。
ほとんど抵抗せず、裏口からゆっくりと出ていったのを見届けてから、あれは何ていう名前だろうと思い、調べてみた。
「写真を撮っておけばよかったああ」
「冬に外に出すのはかわいそうだったね」
「そうだね。……あれはアオシャクの仲間っぽいよ」
「本当だ。こんなにたくさんの種類があるんだ」
私と母は検索結果で出てきたアオシャクたちを画面越しに眺めた。
その中でも、先ほど見たアオシャクが一番美しかったと思った。