#5 たまごっち
『たまごっち』
わたしが生まれた翌年に販売が開始されて一躍大ブームとなったというたまごっち。
わたしが小学生の頃にも再びブームがやってきた。
たまごっち ツーしん という赤外線通信機能が追加され、たまごっち同士でお土産を交換したり交流ができるようになって帰ってきた。
物心ついたときには既にブームが沈静化していたたまごっちは当時小学4年生のわたしたちには目新しく憧れのおもちゃになった。
アニメの放送や月刊少女漫画雑誌にキャラクターの漫画が連載されたりなんかして、ド田舎の地元でも流行の先端をいく女子たちが次々手にしていて気づけばいつも一緒にあそんでいるAちゃんもUちゃんもEちゃんもみんな持っていた。
わたしは小さい頃から親に物をねだることがほとんどなかった。
物欲がないわけではないし、裕福でもないが貧しいわけでもないし、なぜだろうか、身内であろうと遠慮というものするべきだと思っている節があったのだ。非常に可愛げのない子供だと思う。
ある時母に何気なく「あんたはたまごっちいらないの?みんなやってるみたいだけど」と聞かれた。別になんでもない日だった。
「え?ほしいよ…?」
「早く言いなよ〜!何色でもいい?なんでも良ければお母さん予約してきちゃうけど♪」
「…うん!ありがとぅ…何色でもイイ!」
誕生日でもクリスマスでもないのに、ねだってもいないのに購入に促してくれたのはもしかしたら持っていないことでわたしが仲間外れにされたりいじめられたりしないようにという母の気遣いだったのかもしれない。
数日後、家にたまごっちがやってきた。
みんなよりも少し遅れて買ってもらった初たまごっち。
アイボリーの本体にたまごの殻のヒビがネイビーでボタンとアンテナ部分が赤というシブくてお洒落なカラーだった。
みんなピンクとか水色とか黄色とかポップで色鮮やかなものを持っていたからちょっとびっくりした。こんな配色あるんだ…!と子供ながらにちょっと大人びたデザインに沸いた。
「nくんのお母さん(おもちゃレジで働いてる友人の母)に何色でもいいって言ってこれにしてきちゃったけどよかったかしら〜?地味すぎちゃった?」
お母さん…たしかに何色でもいいとは言った。言ったが…
画面が赤いのは想定してなかったよ。
「うん。いい。かわいい!…けど画面赤い…よね?」
「うん!赤い…?ねぇ…」
「「……???」」
どうやら当時最新で登場する予定でまだド田舎には情報の届いていなかった"赤たまごっち"通称「赤たま」というものが我が家にやってきてしまったらしい。
仕事から帰ってきた父は爆笑していた。
これはミニモニ。パソコンのデジャヴである。
小学校1年生の頃にミニモニ。が大流行りして当時ハロプロのアイドルに魂を捧げていたわたしにとっても「ミニモニ。ケータイ」のおもちゃは本当に憧れのおもちゃだった。めちゃくちゃ欲しかった。仲良しのAちゃんとUちゃんは早くもミニモニ。ケータイを手にしていた…がわたしはほしいと言い出せなかった。
我が家はクリスマスに欲しい物をお願いするというシステムは導入されていなかった(というかそもそもサンタさんがくださるものだからこちらから物乞いするものではないという概念があった)が、今思えば両親はなんとなくわたしが欲しがりそうなものを日常的にリサーチしてくれていたのだろう。クリスマス当日枕元に届いたプレゼント、開けたら箱の中には「ミニモニ。パソコン」
…???そんなんあるの!?知らんかった…
なんてことがあった。
わたしの"欲しい"を母は天然でいつも先回りしてしまうからびっくりしてしまう。
父に調べてもらったらなんだか成長するキャラが違ったり出てくる食べ物が違ったりするが、普通のおともだちのたまごっちとも通信ができるとわかってホッとした。たぶん母が一番ホッとしたと思う。
ミニモニ。パソコンも機能は違ったっぽいがケータイと通信できたことは覚えてる。
いいのだ。通信ができるという安心感さえあればやってるゲームが違ったってなんだってよかったんだ。少なくともわたしは大好きなミニモニ。で遊べればそれでよかったのだ。
赤たまに出てくるおやつが珍しくてみんなわたしと通信したいと言い出した。たまごっち底辺だった奴が突然先端に立ってしまって少し怯えたのを思い出す。
よく学校が終わって英会話のレッスンまでの時間を潰しに
友達とたまごっちを通信したり、首からストラップで下げたまま初めてのプリクラを撮ったりしたものだ。懐かしいなあ。
今も実家の押し入れに眠っているであろうわたしのシブい赤たまごっち。
まだ動くのだろうか。
ちなみにミニモニ。パソコンは今でも現役で動いている。
自宅で音楽教室の先生をしている母の生徒さんが待ち時間にわたしのミニモニ。パソコンで楽しそうに遊んでいるのだ。これが大人気らしい。
今でも実家に帰ると不安定なよたよたピアノとミニモニ。パソコンの音が教室から聞こえてくるものだ。すごいなあ。
会社から自宅待機を命じられ自粛生活が続いている今、15年ぶりにたまごっちに再び手を出した。
一人暮らしで話し相手もいない環境に寂しさを覚えたため、ポケモンのイーブイを育成するたまごっちをはじめた。
元々小学生の頃から弟とポケモンに夢中だったため今でもポケモンはめちゃくちゃ好きだったし、通常のたまごっちとちがうのは名前を付けなくてイイ。それからうんちをしない。(さすがモンスター)(ただし毛玉は溜まる)そして何より死なない。
小学生の頃赤たまに母親の名前をつけて育てていたところ、時間を止めるのを忘れたまま登校してしまいお世話を放棄されたF子(母)は遺影になってしまったことがあった。(「ごめんF子しんじゃった…」って正直に謝ったら家族一同爆笑していたが金輪際たまごっちに家族の名前をつけることはしないと誓った)
さらにさらにイーブイは何に進化してもかわいい。ハズレなし。ズルい。
これはわたしにうってつけだと思って大事に育てた。
お腹が空いたり遊びたくなるとすぐにお呼び出しがかかるが暇を持て余したわたしには可愛くて仕方がないもんですぐに構ってあげる。何なら返事までしてしまう。
一人暮らしをしていると電子レンジやお湯はりの音声に返事をすることなんておかしなことじゃない。とわたしは思っているからほっといてほしい。
数日後わたしのイーブイは、たまごっち限定の進化系らしいお花をつけたイーブイに進化した。
ひぇ〜〜♡お花ついただけでほとんど変わってないけど進化した気でいるところもぜんぶかわいい!いとおしい!!わたしのお花イーブイちゃん!!!
そしていとしのお花イーブイちゃんと1週間くらい毎日同じような生活をしていてわたしは致命的なことに気付いてしまった。
死んでしまわない代わりにお世話をサボるとイーブイちゃんはモンスターボールに帰ってしまってお別れ→新しいイーブイちゃんのたまごが生まれる
という流れになるのだが、呼ばれたら構ってしまうためお別れができず、ずっとずっとずーっとお花イーブイちゃん(進化済)と同じ生活をしているのである。
結婚してたまごをうむこともしないため、一向に新しいイーブイちゃんを育てられないことに気付いてしまった…
お世話をサボらないとお別れができない………
新たなイーブイちゃんと出会えない…他の進化系を育てることができない…ぐぬぬ……
がこの子のお呼び出しを無視するなんてわたしにはできない…
動物好きが仇となってこれから変化がないとわかっているイーブイちゃんとお別れできない日々が続いている。
自粛生活とお花イーブイちゃんとの共同生活…
どちらが長く続くのだろう。
最近またたまごっちをぶら下げて歩いている子供たちを街中で見かけることがあったなあ。
また最新のたまごっちが出たみたいだ。
きっと驚きの機能があるに違いない。
リモートツーしんとか可能な時代なのかなあ…。