このまま終われない
ーオレとアチキの西方漫遊記(22)
面河渓(おもごけい、愛媛県久万高原町)の渓流に沿って上流に向かう遊歩道は、虎が滝が終点だ。面河渓の入り口から30分も歩けばたどり着く。ところが、道中に川遊びできそうなところが見つからない。それなりに深さがあって飛び込むなどしてもケガしなさそうなところは幾つかあったが、遊歩道からそこまで降りられる場所がない。やむなく虎が滝の先に進もうとしたら、偶然すれ違った山岳ボランティアらしき人に止められた。この先を行くには準備が足らないとか。とはいえ、これが今回の旅行で"仁淀ブルー"を楽しむ最後の機会。奥さんも期待している。このまま終われない。
前回のお話:「負けられない戦いがある」/これまでのお話:「INDEX」
"DQN"疑惑
マスクにシュノーケル。足元はマリンブーツ。山にはおよそふさわしくない格好だ。山岳ボランティアらしき人はこちらを上から下まで見て、怪訝な表情を浮かべる。「この先は道がない。引き返しなさい」という。いかにも軽率そうな"DQN"と思われたようだ。不本意だがこの姿では無理もない。
誤解があるとはいえ、経験者のアドバイスを"ガン無視"というわけにもいかない。だが、この道の先がどうなっているかも確認したい。それを察したのか、「ちょっと先に大きな木が倒れ、道を塞いでいる。行ってみるといい」とだけ言い、その場を去った。少し先まで行くと、事実その通りだった。
終点・虎が滝までの道中にあった下熊渕、上熊渕は、遊歩道の手すりを乗り越えたとしても、その先を降りるには急斜面過ぎてリスクが高い。木々も所狭しと生い茂り、降りるに降りられず、川遊びは無理そうだ。虎が滝の手前に休憩所があった。そこまで戻り、腰を落ち着けて考えることにした。
"圧"
考えるにあたり、心に"圧"となるものがあった。それは遊歩道の途中にあった鳥居だ。霊峰・石鎚山の登山口を示したものだが、周囲の木々と妙に調和し、ことさらに畏怖を感じさせる。この先で川遊びするどころか、進むことにさえ、目に見えぬ何かが覚悟を問いかけてくる気がする。
このところ、オカルト系動画を見過ぎたせいだと自分に言い聞かせ、あらためてどこでどう川遊びするかを考えることに集中した。後日、奥さんに聞いたところによると、遊歩道コースのほかに、沢伝いで上流に向かうコースがあったとのこと。そちらを進めば、これほど悩まずに済んだらしい:
覆水盆に返らずー。わが夫婦にはよくあることだ。
(写真〈上から順に〉:遊歩道の終点付近にある御触書。先に進むには十分な準備が必要という=りす、虎が滝。このときは水流が少なく見えにくい=りす、霊峰・石鎚山の登山口にある鳥居。畏怖を感じさせる=りす)