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ベトナム紀行「行かずに死ねるか」(1)
後期高齢者と旅する4日間
10年ぶりのベトナム・ホーチミンシティ。小さなバックパック一つで、一人気ままにふらついていた当時と違い、今回は何と、奥さんに加え、義母さんら後期高齢者3人と一緒だ。義母さんのたっての願いに奥さんが折れ、それを受けて引率のサポート役を頼まれた。殺し文句は「これで最後になるかもしれないから」。昨年も、さらに一昨年もその言葉を聞いたが、そう言われると無視もできない。してやったりと言わんばかりの義母が思い浮かぶ。その表情は「行かずに死ねるか」といたずらっぽく笑っているようだった。奥さん、義母さん、義母さんの友人夫婦とともに過ごしたベトナムでの4日間を振り返る。
悪役同士
義母さん、義母さんの友人夫婦はいずれも、とても後期高齢者には見えない元気で明るい。自分が彼らの年齢になって同じように振る舞えるか疑問に思えるほどだ。とはいえ、義母さん、その友人夫婦の奥さんはともに、昨年大きな手術を経験した。そのため、心配な面は否めない。いざとなったら奥さん一人では手に負えないと思い、サポート役を引き受けた。
久しぶりのホーチミンシティに心踊るところはある。当時、泊まった安宿はまだあるか、よく利用した定食屋は潰れてないかなど、それを確かめたい気持ちが膨らむ。
待ち合わせ場所で合流し、空港に向かうリムジンバスに乗り込む。「忙しいところ、お付き合いしてくれてありがとう」と、人好きしそうな柔和な笑顔をたたえる義母さん。個人的には勝負に勝った策士の得意げな表情にも見える。「お招きいただきましてありがとうございます。義母さんのたってのお願い、断るわけにはいきませんよ」と笑顔で返す。
ニヤリとした義母さんに、こちらもニヤリ。そんな悪役同士の腹の探り合いのようなやり取りをバスの中で思い出し、人知れず吹いた。成田空港第2ターミナルが近づいていた。(続く)
(写真〈上から順に〉:ベトナム女性の置物=りす、悪代官と越後屋=Mechalog)
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