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老舗宿の女将と地場料理
ーオレとアチキの西方漫遊記(7)
四万十川に別れを告げ、クルマを走らせること約4時間。奥さんが先に予約した民宿に着いたとき、辺りはすっかり真っ暗になっていた。駐車場から宿に向かい、見えてきたのは場末感ある和風な建物。引き戸を開けて声をかけると、この民宿の女将さんが出迎えてくれた。今年で85歳という。ただ、滑舌が良く人当たりも良い。頭の回転も速そうだ。これで食事が美味ければ言うことなしと奥さんに顔を向けると、意味深にニヤリと返してきた。
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:「オレとアチキの西方漫遊記(1)ー激走2500km」「オレとアチキの西方漫遊記(2)ー淡路SAと大観覧車」「オレとアチキの西方漫遊記(3)ー四万十川と仁淀川」「オレとアチキの西方漫遊記(4)ー旅行スタイルと下ネタ発言」「オレとアチキの西方漫遊記(5)ー見える風景と見えない力」「オレとアチキの西方漫遊記(6)ーさらば四万十、また会う日まで」
歯に衣着せず
この民宿は奥さんが探してきた宿のうちの一軒で、「水質日本一」仁淀川の支流、土居川にせり出すように建っている。歴史は古く、1900年に料亭として開業。女将さんによると、97年にお客さんから相次いだ要望に応え、宿泊できる民宿に衣替えしたそうだ。老舗宿と呼ぶにふさわしい。
料亭時代には政治家の吉田茂、菅直人が立ち寄ったことがあるらしい。奥さんがニヤリとした理由は、この辺りにあるのだろう。政治家が訪れるほどの料亭の料理が不味いはずがないと、そう読んだわけだ。なるほど、合点が行く。いよいよ夕食への期待が膨らむ。
「吉田茂は威厳というか、オーラのようなものを感じたが、菅直人はダメ」ー。女将さんは呆れ顔でいう。菅直人はどこか軽薄な印象があり、頼みもしないのにサインを書いて寄こして来たそうだ。歯に衣着せない女将さんの物言いがあまりに人間臭く、夫婦揃って吹き出した。
気取りなく
待ちに待った夕食。予想に違わず美味しかった。カツオのたたきを筆頭に、ウナギ白焼き、マグロやハマチの刺身、鮎やエビの天ぷらなど、高知の採れたて食材を使った料理がきれいに盛り付けされており、黒い木製の盆の上に所狭しと並ぶ。目でも楽しめ、ボリュームも十分だった。
いかにも高価そうな皿に少しだけ盛られている高級料亭の料理とは一線を画し、きちんとしていながらも気取りがないところが良い。言うなれば、ちょっと上品・上質な家庭料理。コストパフォーマンスも良さそうで、個人的にこちらの方が好みだ。宿選びで奥さんが良い働きをした。(続く)
(写真〈上から順に〉:老舗宿の洗い物干し場に浴衣がたくさん=りす、古い造りも掃除が行き届いている室内=奥さん、きれいに盛り付けられたマグロやハマチの刺身=りす)
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:
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