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"龍虎対決"のとばっちり(下)
ー義母86歳と行く台湾(8)
「あなたたちはいつも私を除け者にする」ー。義母はやにわに視線をこちらに移し、キッと睨んで謂われのない責めを浴びせてきた。ホエールウォッチングツアーに出かける当日の朝。ツアーに参加するしないで義母と奥さんが揉め、義母はこのままでは埒が明かないと踏んだのか、奥さんからこちらに怒りの矛先を切り替えたようだった。とんだとばっちり。
連載「義母86歳と行く台湾」:「(1)開かないスーツケース」「(2)クレカ決済不能!?」「(3)オキニの杖はいずこ?」「(4)さらば苦手意識」「(5)突然の雨に備えなく」「(6)使いそびれた高齢者割」「(7)"龍虎対決"のとばっちり(上)」
怒りの矛先
義母と奥さんの"龍虎対決"は、小雨が降りしきるツアー当日の朝、奥さんがツアー主催者に連絡してツアー決行をあらためて確かめたところから始まる。「分かったわよ。私も行くわよ」と、重たい腰を上げる義母。これに対し、「ママは行かないの。ホテルで留守番」と返し、そもそも義母の分は予約していないと突き放す奥さん。「参加しないって言ってたじゃん」。
怒りの矛先をこちらに向けてきた義母の視線は鋭かった。よく切れる刃物のよう。奥さんが義母のツアー参加を予約しなかったのは、こちらの差し金だと言わんばかりの様子。もちろん、完全な言い掛かりだ。それどころか、当方も前日の夜に初めて詳細を聞いたばかりで、そのときに初めて義母が参加しないと知ったというのが紛れもない事実だ。
正直にそれを伝えたものの、義母の怒りは収まらない。もっとも、義母の気持ちもよく分かる。午前中一杯、ホテル内に独り取り残されるのはさぞかし心許ないだろう。そのため、二の句が継げなかった。「テレビで日本のドラマを流しているから、それを見てれば良いじゃない」と、ややキレ気味の奥さんが横槍。言うな言うな、そんなこと。火に油を注ぐな。
決断と教訓
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一緒に港に行ってツアーに参加できるよう主催者に交渉してみましょうと言えば、義母は落ち着いたかもしれない。ただ、この日は生憎の雨。揺れる船体、滑りやすい甲板などに、足が悪い義母が耐えられるとは思えない。いっそのこと、港まで連れて行った上で、揃って参加を見合わせる方法もあった。それでは、このツアーを楽しみにしていた奥さんが悲しむだろう。
ツアーの集合時間が刻々と迫る中、義母の安全を優先するには、奥さんが立てたプラン通りに進めるしかない。そう思い、予約の件は知らなかったとはいえ、すみませんでしたとだけ義母に伝える。「気にしなくて良いよ。自分が参加しないと言ったことを忘れているだけだから」と、奥さんは敢えて義母に聞こえるように言ってきた。だから言うなって、そんなこと。
一緒に旅行する高齢者を寂しくさせないように。あらためて心に刻む。
(つづく)
余談:
降ったり止んだりの悪天候の中、ほぼ予定通りに出港したホエールウォッチングツアーの遊覧船。それなりにスピードを出していて、ジェットコースターのようだった。参加は10人弱。子ども連れのファミリー客はいたが、さすがに高齢者を連れた客はいない。当初、みんな屋根付きテラスのような2階の観覧席に集まってはしゃいでいたが、雨風に晒されることに加え、大きな揺れを嫌気したのか、相次いで1階の船室に降り、やがて当方と奥さんの二人きりに。貸し切り状態の観覧席。VIP気分にテンション爆上がりだ。
(写真:連載トップ画像=奥さん撮影の画像を基にりす作成)
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