いざ京都へ
ーオレとアチキの西方漫遊記(31)
すっかりお腹いっぱいのわが夫婦。そうなると、次に襲ってくるのは睡魔だ。心霊スポットの浦戸大橋(高知県高知市)が窓から間近に見えることも忘れ、奥さんにいたっては、頑張ってどうにか目を開けている状態。ただ、寝落ちするわけには行かない。というのも、翌日の予定がまったく決まっていないからだ。こうしたケースでのわが夫婦のチームワークはすこぶる良い。どんどんアイデアを投げかけ、それについて奥さんが感想をいう。結果、明日は京都に向かうことに。次の宿を予約し、「いざ京都へ」と"鬨の声"を上げたとき、奥さんはすでに意識を手放していた。
前回のお話:「"ちょっぴりホラー"」/これまでのお話:「INDEX」
"連想ゲーム"
次の予定を決めるときには、たいてい"連想ゲーム"をする。旅行中、これまで辿ってきた過程や経緯を振り返り、頭に思い浮かんできたテーマを矢継ぎ早に伝え、今後の計画を提案する。奥さんがそれに対して「いいね」「気乗りしない」の意見を返す。魅力あるアイデアでなければ、なかなか首を縦に振らない奥さん。面倒くさい最高経営責任者(CEO)のようだ。
これまでの旅行で、そうした役割分担が自然に根付いた。「計画的」「場当たり的」が入り混じった旅行ばかりしてきた中で生まれた仕組みだ。これがわれわれ夫婦にとって理想でないにしても、一番スムーズに話が進む形なのだろう。プレゼンテーション力が試されるので手間はかかるが、自分の希望もその中に組み込めるので、それほど損した気分にならない。
今回、連想ゲームで閃いたテーマは「橋」だ。これまで明石海峡大橋、四万十川の沈下橋、浦戸大橋など、短期間でいろんな橋をめぐってきた。この先も徹底的に橋を攻めようと提案。渡月橋(京都府京都市)、天橋立(京都府宮津市)、錦帯橋(山口県岩国市)のいずれかに向かうルートを挙げる。奥さんはそれなりに良い反応を返してきた。残すところは絞り込みのみだ。
京料理
あっさり渡月橋に向かうルートに決まる。奥さんは錦帯橋にも惹かれるも、移動距離とガソリン代も考慮して選択肢から外したようだ。天橋立も同様だ。渡月橋は、個人的に好きなテレビ時代劇『鬼平犯科帳』など、さまざまな作品でお馴染みの場所。俳句が趣味である奥さんにもふさわしいところに思えた。だが奥さんには別の思惑があったようだ:
「美味しい京料理が食べられる!」
どうも京料理は別腹らしい。そう言えば、デザートは別腹ともよく言っているし、奥さんの体内には幾つ別腹があるのだろうか。渡月橋のある京都・嵐山エリアは国内のみならず、海外からもたくさんの観光客が訪れる。アクセスが便利でリーズナブルな宿をインターネットで探して急いで予約。振り返ると、奥さんはいつの間にか敷いた布団の中で寝息を立てていた。(続く)
(写真〈上から順に〉:次の目的地候補に挙がった渡月橋、天橋立、錦帯橋のイメージ=フリー素材などを基にりす作成、中村吉右衛門主演の時代劇『鬼平犯科帳』シリーズの一幕=ミドルエッジ)