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見える風景と見えない力
ーオレとアチキの西方漫遊記(5)
四万十市によると、「緑の山々に青い四万十、そして沈下橋(ちんかばし、ちんかきょう)がある風景はもっとも四万十川らしい」という。今回が初めての四万十川体験のため、目前に広がる景色に「四万十川らしい」という表現を使うのはおこがましいが、時代劇に出てくる馴染みある眺めにも見え、日本の原風景と言っても差し支えないだろう。今後、外国人を含めて大勢の観光客が訪れるのだろうが、この美観が保たれるように心から願う。
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:「オレとアチキの西方漫遊記(1)ー激走2500km」「オレとアチキの西方漫遊記(2)ー淡路SAと大観覧車」「オレとアチキの西方漫遊記(3)ー四万十川と仁淀川」「オレとアチキの西方漫遊記(4)ー旅行スタイルと下ネタ発言」
看板に偽りなし
四万十川には支流も合わせて計47の沈下橋があるそうだ。時間も限られているため、このうち、下流から上流に向けて佐田、勝間、岩間、半家の4沈下橋を巡った。いずれも生活に欠かせないインフラになっているようで、ときどき地元の軽自動車が渡って行く。車の幅が橋の幅ギリギリにもかかわらず、運転手はそれを意にも介さない。慣れは偉大だ。
政府の水質調査によると、水質は際立って良いとは言えない。ただ「青い四万十」(四万十市)は看板に偽りなしだ。さらに背景の緑の山々、そこにかかる欄干がない石造りの沈下橋と溶け合う景色は、実にノスタルジーを感じさせる。昭和初期のわんぱく坊主たちが、この橋から川に飛び込んで遊んでいる様子が眼に浮かんでくるようだ。
不可視な力の"お導き"
当初、状況が許せば、一人でも川に飛び込むつもりでいた。クルマには水着も着替えもあり、準備は整っている。ただ、安易に飛び込める雰囲気ではなかった。四万十川に向かう2日前、先に遊泳中に行方不明になっていた大学生2人のうち、1人が亡くなっていたことが確認されていたためだ。
それも、事故現場はまさに立ち寄る予定の勝間沈下橋。その後、もう1人の遺体も発見されることになるのだが、こんなタイミングでこの橋から四万十川に飛び込みでもしようものなら、いろんな人に白い目で見られる恐れもある。旅行中のハプニングとして、決して笑えない話になっただろう。
奥さんが目的地を四万十川から仁淀川に変えるよう促したのは、偶然ではないのかもしれない。飛び込むのはやめておきなさいという目に見えない力の"お導き"だった気もしてくる。勝間沈下橋は映画『釣りバカ日誌14』の撮影現場で知られている。(続く)
(写真〈上から順に〉:四万十川らしい風景=写真AC、川に飛び込むわんぱく坊主たちのイメージ=四万十町地域おこし隊、映画『釣りバカ日誌14』のワンシーン=hulu)
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:
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