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水神さま、降臨
ーオレとアチキの西方漫遊記(10)
にこ淵 (高知県いの町)に向かうクルマの中、ハンドルを握りながら悶々としていた。「仁淀ブルー」と聞いて誰もが思い浮かべるこの淵で泳げれば、間違いなく大切な思い出になる。その一方で、地元の人にとって神宿る場所で泳ぐのは、そこに住む人の思いを蔑ろにしかねない。そんな二つの思いが交錯し、どうするかを決めきれないでいた。そして、道中、この迷いをさらに深めることが起こる。
前回のお話:「大蛇が棲む淵」/これまでのお話:「INDEX」
深まる迷い
にこ淵は泊まった民宿から仁淀川の支流沿いの道を上流方面に向けて30分程度進んだところにある。助手席に座る奥さんと、この淵に水神とされる大蛇が棲むという言い伝えについて話していると、まもなく目的地に着くことを示す看板が目に入った。それから、すぐのことだ。
山側の斜面からスルスルとひも状のもの。それがやにわに道を横切ってきた。急ブレーキを踏む。停止した車内から目を凝らすと、それはアオダイショウらしい。1mくらいだろうか。「ヘビだ、ヘビ」と思わず声が漏れた。それを聞き、奥さんは果敢にも写真を撮ろう車外に飛び出した。
道を横切り、反対側の草むらに姿を消していく蛇。続いて、上手く行かずに戻ってくる奥さん。すっかりしょげていた。「にこ淵の水神さまが歓迎のために姿を変えて出てきてくれた」と、あまりのタイミングに興奮して口をついた言葉は奥さんの心にまったく響かない。今度はこちらが気落ちモード。
言い知れぬ切なさが漂う車内で、先ほどの言葉について考えていた。果たして蛇は、歓迎のために姿を見せてくれたのだろうか。水神さまが棲むにこ淵で泳ぐなよという警鐘のためだったのではなかろうかー。こうして泳ぐか泳がないかという迷いは、さらに深まっていった。
言い伝え
ところで、この淵に水神とされる大蛇が棲むという伝承。これは一体どんな話なのか、旅行後、個人的に調べてみた。すると、 高知県いの町移住応援サイト「ハッピーいの町ターン」の中に興味深い話を見つけた。言い伝えはどうも、それほどおどろおどろしい話ではないらしい。
にこ淵は深い谷の中にあり、道が滑りやすく落石もある。雨で増水している場合はさらに危険とのことだ。それを踏まえると、昔は大人でさえも気軽に行ける場所ではなかったようだ。この伝承は、危険を分かりやすく子どもに伝え諭すものだったのかもしれない。(続く)
(写真〈上から順に〉:にこ淵に棲む水神さまのイメージ!?=photoAC、草むらに姿を消したヘビ=奥さん)
関連リンク(前回の話):
「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:
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