喫茶店めぐり#1
1.通いたい喫茶店
喫茶店を巡ってみようと思い立った。
現代はインターネットで調べれば、何でも出てくる便利な世の中である。
地名と「コーヒー」で検索すれば、いくつもの喫茶店がヒットした。
その中で、自宅からほど近く、何度か店先の前を通ったこともある喫茶店に訪れてみることにした。
そこは、朝九時に開店する。
珍しく早起きできた晴れた土曜日。
私は、九時五分に店先へ到着した。
ドアに張り紙を見つけ、店休日だったかと思ったが、島外からのお客さんのお断りの文言だった。
店内のBGMが微かに漏れ聴こえている。
ドアを開くとカラカラン、と軽やかにドアベルが鳴った。
カウンターの向こうにいた店主に朝の挨拶をして、少し迷いながらカウンターの奥の席につく。
私が一番乗りらしく、店主と二人きりの空間に穏やかなBGMが流れていた。
手書きの表紙のイラストが愛らしい、見開きのメニューを一読して、トーストと卵とサラダのついた600円のコーヒーセットを注文した。
私の前にシュガースティックとペーパーナプキンを置く際、店主に「この前も来てくれましたか?」と聞かれた。
「いえ、初めてです」と答えると、店主は「似たような方がいらっしゃったから」と静かに笑った。
そういう会話も、窓から差し込む朝日も、静かなBGMの奥で聞こえるジウジウと卵の焼ける音も、心地よかった。
先に届いたコーヒーをブラックのまま一口飲む。コーヒーのいい香りがした。
ほどなくして、「お待ち遠様」とトーストの乗ったプレートが届いた。
細い千切りキャベツに胡瓜のスライスが三枚、オーロラソースのようなコーラルピンク色のドレッシングがかかっていて美味しかった。
卵は初めて見る形でくるりと巻かれており、丸い形のスパムスライスが二枚添えてある。
じんわりとバターが染み込んで、いちごジャムが薄く塗ってある厚めのトーストは、耳はサクサク、真ん中の生地は柔らかくモチッとしていて、とても美味しかった。
プレートを黙ってゆっくり味わいながら、合間でコーヒーを飲む。
カウンターの向こうから包丁の小気味いい音が聞こえてくる。
店主がキャベツの千切りでもしているのかもしれない。
プレートが半分くらいになった頃、常連の雰囲気のお客さんが立て続けに二名来店し、それぞれテーブル席についた。
その後、若い女の子二人も来店して、店内が少し賑やかなる。
というのも、話し声ではなくて、空気感が賑やかに感じられた。
自分一人のときはテーブル席に座ればよかったかとも思っていたが、カウンター席にしてよかったと思った。
店主がにわかに忙しくなったところで、店主と同年代くらいの女性がドアベルを鳴らして、慣れた様子でカウンターに入ってきた。
手際よく各テーブルにお冷を出し、私にもお冷のおかわりをくれた。
また一人、常連さんが来店し、私の隣の隣の席についた。
「今日は珍しく朝からお客が多いね、早く帰ろう」と店主と楽しげに話していた。
おかわりしてもらったお冷と、残りのコーヒーを飲み干して、私も帰ることにした。
お支払いの後、店主と女性に挨拶をして、店を出た。
店主に「またどうぞ」と言われて、また来るだろうと思った。
最初に「この前も来てくれましたか?」と店主に聞かれたことを思い出す。
覚えてもらいたいという気持ちがむくむくと湧いていた。
毎週土曜日、開店後すぐの時間に来店して、コーヒーセットを頼んだら、覚えてもらえるだろうか?
でも、メニューにあった卵トーストも気になっている。
時刻は九時半。喫茶店で過ごした朝の三十分間でお腹も心も満たされていた。