煙草

私は煙草を吸わない。煙草が好きか嫌いかと言うと、好きではない。

私の父はヘビースモーカーだったらしい。母が私を妊娠したとき、父は煙草をやめた。父は、煙草をやめたらご飯が美味しくなったと言っていた。

小学生の頃、週一回、ゴミを拾いながら登校して、校門前のゴミ袋に集める決まりがあった。通学路には毎回たくさんの煙草の吸い殻が落ちていた。私はいつも、それを素手で持てるだけいっぱい拾って、たくさんゴミを拾えたことを誇らしく思っていた。今考えると、ぞっとする。

高校一年生のときの担任の先生が煙草を吸う人だった。学校の敷地内では煙草が禁止されていたらしく、学校の裏門を出たすぐのところが喫煙スペースになっていた。喫煙所のような小屋があるわけでもなく、本当に裏門を出たすぐのところ。木の棒に針金で空き缶がくくりつけられていて、それが灰皿代わりにされていた。
私の教室は、裏門から一番遠い校舎の三階にあった。担任は、いつも煙草の匂いをさせながら息を切らして教室に来て、授業中でも生徒に問題を解かせている間に煙草を吸いに出ていったりした。煙草のために、あんなに遠い場所へ、何回も往復する姿は滑稽に見えた。当時の私は間違いなく、煙草も、煙草を吸う人も、嫌っていたと思う。

煙草に対する嫌悪感が薄まったのは、就職してから。私の入社した会社は、喫煙者が多い。最初は変な気分だった。狭い喫煙所に朝から喫煙者が集まって、いわゆるタバコミュニケーションで小さなコミュニティーができている感じ。

喫煙者のおじさんの中にひとり、私と同い年の子供がいるとかで、特別優しく気にかけてくれるおじさんがいた。煙草を吸う人は煙草くさいと思っていたが、そのおじさんからはいつもいい匂いがして、他のおじさんたちもいい匂いをさせていることに気がついた。
喫煙者であるが故に、匂いにも気を遣っているのかな、と思った。それまでは喫煙者自体が身近に少なく、その少数の喫煙者も煙草くさい人ばっかりだったので、いい匂いがする人がいることに驚いた。かなり、好印象だった。

上司も喫煙者で、自分たちは煙草で離席したりするから、煙草を吸わない人もコーヒーやジュースを飲みに行ったり、息抜きをするように言ってくれていた。
同行で外出すると、帰りに煙草休憩でコンビニに寄らされたが、いつもジュースをご馳走してくれた。
賛否両論あると思うけど、私は単純なので、そういう気遣いは素直に嬉しかった。

そういった経験を経て、今は、煙草を吸いたい人はTPOをわきまえてどうぞ吸ってください、と思っている。
煙草はストレス発散とも聞く。私は煙草は吸わないが、お酒は飲むので、煙草に関してどうこう強くは言えないと思っている。

でも、歩き煙草と吸い殻のポイ捨てだけはやめてほしい。

最後に、煙草を吸っている様は見る分には非常に絵になると思う。漂う煙もなんかかっこいいし、煙草に添えられた指は色っぽく見える。
それから、煙草の箱のパッケージもお洒落なものがあるし、ライターもかっこいいデザインあるよね。
私は煙草を吸わないし、今後吸ってみたいとも思わないけど、嫌いではない。

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