先生#1
あるあるだけど、高校生の頃、先生のことが好きだった。
先生は、国語教師だった。
高校1年生の頃、先生は隣のクラスの担任だった。
私のクラスの国語の教科担任は先生じゃなかったので、廊下ですれ違ったときに挨拶をするくらいしか、関わりはなかった。
先生は、少し白髪の混じる黒髪を真ん中分けで撫で付けて、分厚い眼鏡をかけて、少し掠れたでも芯のぶれない声で話す。
堅物そうな雰囲気から、文豪っぽいな〜、と思っていた。
「夏目漱石の隣に並んでそうだよね」と友達に話して、微妙な反応をされたことがある。
高校1年生のある日、担任が休みで、先生が自習の監督に来てくれたことがある。
文豪っぽい先生が教壇に立つとなかなか迫力があり、背筋が伸びる気持ちだったのだけど、そこで先生の意外な一面を目にすることになる。
先生は淡々と私たちに自習の旨を告げ、教室から出ていこうとした。そのとき、教卓の横につけてある机の角に、腰をぶつけた。
静かな教室に、机と腰骨がぶつかるとても痛そうな鈍い音と、机がずれる音が響いた。
先生は何事もなかったように、黙って机の位置を戻し、教室をあとにした。
先生が出ていった教室で、クスクス笑いが連鎖していった。
その後、何度か先生のドジっぽいところを目にすることがあった。
そういうことはひとつ見つけると、あとからどんどん出てくる。
いつも真っ白なワイシャツを七分袖まで捲っているところとか、ベルトポーチをつけているせいで斜めにずり下がったスラックスとか、クロックスの踵を擦る歩き方。
無口で堅物な雰囲気に反して、少し気の抜けた感じが面白かった。
隣のクラスではそんな先生はお馴染みのようで、学年朝会などで隣のクラスの子たちにからかわれているような場面も目にしたりして、意外と親しまれているんだな、と思った。
高校2年生で、先生が担任になった。
必然的に、国語の教科担任も先生になった。