1/11 「バーが”ジム”だと考える理由」
いつしか誰かが言っていたことだけど、「バーというのはジムなんだ」ということ。わたしもそのまま、「その通りだなぁ」と感じる。あらゆる側面からそうと言える。もちろん、身体を大きく動かすわけじゃない。だが、「バーで発達する筋力」がある。それをよく実感として得るのだ。
バーに行くたび、「楽しかったな」と思う気持ちと同時に、”心地よい疲労感”に包まれることに気づく。それが癒やしとなり、明日からの活力になる。バーというのは、わたしにとってそういう場所。単に「ラク」だとか、そうでは少し物足りなさすら感じることがある。
ホスピタリティに溢れ、なんでもかんでも面倒見てくれるサービスは親切だが、どこかつまらない。これは去年、家族旅行で行った栃木の旅館で思ったことだけど、部屋に荷物を運ぶ、頼むことなく食事を運んできてくれる、ぜんぶ片付けてくれる。だいたい、色んなことをやってくれる。そういった経験をし、「丁寧だなぁ」と思いつつ「暇だなぁ」と感じた。もちろん、全部ありがたいのだけど。
“サービス”というの基本、お客に「してあげること」で世に溢れている。だからこそ、最近ではお客に「してもらうこと」で、満足度を高めるような働きがある。現代人は、色々と自分でやりたがるフシがある。わたしの友人に「レンタルなんもしない人」という男がいるのだが、もちろん、そのサービスはというと”なんもしてくれない”わけだから、顧客側が"なんか"しないといけない。それが顧客満足度へと変わっているんだろうなと想像する。
バーでのホスピタリティとはまず、環境を整えること、準備すること。案外、それ以外のコミュニケーションや楽しみ方などはお客に任せられているから、能動的に参加するか否かはお客次第だったりする。バーのマスターは会話をアシストしてくれるが、だんまりを決め込むお客に対し、やってやれること自体あまりない。そもそも、質問などはしないバーテンダーも多いように思う。どうぞご自由に、どうぞごゆっくり、である。
わたしが今立っているバーはお客に対し、比較的過保護な部分(ホスピタリティの一例)もあるのだが、それでも、お客側がコミュニケーションの動きを止めてしまえば話すことなど、すぐになくなってしまう。そういった経験を重ねているうちに、「なるほど、バーって”ジム”なんだ」という考えが、より塊をなしたように思う。
「違うよ、バーに行くのはうまい酒を飲みに行くからだよ」。そんな意見があると思う。なるほど、そうかもしれないね。
”うまい酒”がどの範囲を”酒”としてしているかは定かではないが、もし、一人だけの飲酒体験だけを切り取るならば、先の意見についてその動機がまだ、ぼんやりしているなぁとわたしは感じる。自分で買って家で飲む、居酒屋などで飲む。バーでなくても十分うまい酒が飲める時代のはずである。それでも「バーである理由」に気づく必要がある。これは店にとっても、客にとっても同様に大切だと感じる。
「バーが”ジム”である」と考える理由だが、会計もまぁそこそこするバーで、”うまい酒”が飲めるから、という理由の人は、”安くてうまい酒”を見つけたらカンタンに来なくなるはずだ。そして関係性を狭め、次第に引きこもるようになる。わたしは”うまい酒”を400本ほど持っているけれど、そのせいもあり、失われた機会というのが実際にあると感じた。家で飲めば済む話なら、人と関わる理由も大してない。
「人と関わる」というのは、社会のなかで生きる我々にとって、”基礎”そのものだ。それが今以上によりよくなるのであれば、得るものは大きいはずである。少なくともわたしはそう考える。実際、バーにこまめに通う人は”うまい酒”を飲みに行ってるわけだけど、それには”人と飲んだうまい酒”のニュアンスが概ね入っていると思う。
そこからなぜ、お酒が古い歴史の中で人類に愛され、今にまで残ってきたかが少し見えてくると思う。わざわざお酒を飲むことで得たものはなんなのか?バーに行くたび得たものはなんなのか?それがわかると意識も変わる。理解が進めば受け入れ方が変わる。わたしはバーにドシドシと顔を出してもらいたい立場だから、これはポジショントークと思ってもらっていいかもしれない。
ただ実際にバーに顔を出し、回数を重ねて得てきたこと、お客の顔つきやコミュニケーションのスムーズさが変化していくこと、そういったことを体験したり観測するなかで得た、ひとつの感想であることは間違いない。人として、社会の中で生きてくひとりとして、この気付きがだれかしらのためになると思った。だからここに書いてみた。
お互いに「人と関わる」をコツコツとやっていこう。面倒に感じたり、苦しいときもあるだろう。それでも挫けずやっていれば、必ず楽しさを見いだせるはずだ。楽しくやろう。
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