
ウイスキー小噺 第009回:ジャパニーズウイスキーの定義について考える①
日本洋酒酒造組合は2021年2月に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(以下、「本業界基準」)」を公表しました。ジャパニーズウイスキーの品質やブランド力を維持向上させるため、ジャパニーズウイスキーの定義を明確化するのが目的です。
本業界基準は公表以降、「2024 年 3 月 31 日までの間」は経過措置期間とされており、いよいよ2024年4月1日から適用されることになります。
本業界基準の適用開始に先立ち、ジャパニーズウイスキーの定義はどうあるべきなのか、少し考えてみたいと思います。まずは酒税法上のウイスキーの定義を確認し、その問題点を考えるところから始めます。
書き始めてみたら、結構なボリュームになりました。3~4回くらいの特集企画として記事を投稿するつもりです(まだ最後まで書いたわけではないので、連載回数は変わるかもです)。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
酒税法におけるウイスキーの定義
日本では酒税法にてウイスキーとは何か、定義されています。まずは、日本の法律上のウイスキーの定義を確認してみましょう。
十五 ウイスキー 次に掲げる酒類(イ又はロに掲げるものについては、第九号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。
イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
ロ 発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)
重要な要素をまとめてみると、
・穀類および水を原料とした蒸留酒に、
・アルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(ただし、添加物含有量は総量90%未満)
といったところでしょうか。かなりざっくりとしています。
酒税法の問題点
酒税法のウイスキーの定義は「ガバガバ」であると、多くのウイスキー愛好家から批判があります。よく聞く代表的な論点は以下のようなものです。
①生産地の規定が存在しない
「国内で蒸留された」といった文言はなく、どこで製造したかは問われていません。つまり、国外(例えばスコットランド)で製造されたウイスキーを国内で瓶詰めし、「ジャパニーズウイスキー」として販売しても酒税法には抵触しません。
②熟成期間の規定が存在しない
「発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの」であればウイスキーと呼べるのであって、樽を用いた熟成は不要です。
③アルコール等の添加が認められている
総量の90%未満であれば、アルコール等の添加が認められています。「ほとんどウイスキーでない」ものでも、法律上はウイスキーとして扱われるわけです。
「怪しいウイスキー」たち
上記の通り酒税法上のウイスキーの定義が広すぎるため、本来はウイスキーと呼べないようなものや、本当にジャパニーズ?といったものが、日本では「ウイスキー」とか「ジャパニーズウイスキー」として流通しています。
以降、そんなウイスキーたちを「怪しいウイスキー」と総称します。以下、実例です。
1.スナズウイスキー(イオンプライベートブランド)
言わずと知れたイオンのプライベートブランドウイスキー。
注目すべきは原材料です。「モルト、グレーン11%以上」はいいとして(?)、「スピリッツ89%未満」はなかなか衝撃的です。ほとんどがスピリッツであることを明示するあたり、一周回って好感すら覚えてしまいます。
酒税法で「総量の90%未満のスピリッツ添加」は認められておりますので、こちらは誰がどう見ても酒税法上の「ウイスキー」の定義を満たした商品となります。
こちらをウイスキーとして販売していいのか?という意見が出るのはごもっともだと思います。しかし、イオンが悪いのではありません。イオンは酒税法を順守してプライベートブランドウイスキーを開発しただけです。
2.富士ヶ嶺(サンフーズ)
商品名は漢字で、ラベルには富士山をあしらい、いかにも「ジャパニーズ」な雰囲気を醸し出していますが、商品説明をよく見ると「世界各地から厳選されたモルト」を使っているとのこと。
ラベルに「ジャパニーズウイスキー」との表記は無さそうですが、ウイスキーにそれほど詳しくない方であれば、国内で製造された原酒のみを使用しているものと勘違いしてしまいそうです。
怪しい雰囲気はむんむんですが、こちらも酒税法には何ら抵触しません。サンフーズは法律を順守して商品を開発しただけです。
ネットで探すと、「怪しいウイスキー」は他にもたくさん見つかります。しかし、日本法上は合法であるため、どんなに「怪しいウイスキー」だとしても、それらを規制する手段が存在しないのが現状なのです。
次回予告
酒税法上のウイスキーの定義が抱える問題点を確認しました。酒税法におけるウイスキーの定義はかなり幅広く、ウイスキーと呼んでいいか迷うものがウイスキーとして販売できる、また、生産地の規定がないことが主な問題点でした。
ウイスキーの故郷であるスコットランド(アイルランド発祥説もありますが・・・以下略)では「スコッチ」はどのように定義されているのでしょうか。また、そのスコッチの定義で、日本と同様の問題は起きないのでしょうか。
次回は、スコットランドにおける「スコッチ」の定義をご紹介しつつ、その「スコッチ」の定義をベースに作成された日本洋酒酒造組合発表の「ジャパニーズウイスキーの定義」を確認してみたいと思います。