ウイスキー小噺 第013回:ジャパニーズウイスキーの定義について考える⑤
日本洋酒酒造組合は2021年2月に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(以下、「本業界基準」)」を公表しました。ジャパニーズウイスキーの品質やブランド力を維持向上させるため、ジャパニーズウイスキーの定義を明確化するのが目的です。
前回までの記事
①:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n7a7ff0f9faab
②:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n215064a6c750
③:https://note.com/whisky_kobanashi/n/n61dcbc275462
④:https://note.com/whisky_kobanashi/n/na093d12d1287
前回は本業界基準をそのまま法制化することの問題点の第2弾として、大手以外が「ジャパニーズブレンデッドウイスキー」を製造することが極めて難しくなる点に触れました。
前回の記事の最後で、“私は「ジャパニーズブレンデッドウイスキー」の普及を進めることは、ジャパニーズウイスキー業界がより洗練されていくために(何を指して「洗練」というのは人によって違うかもですが)、とっても大事だと考えています。”と書きましたが、そのように考える理由を以下で述べておきたいと思います。
消費量は圧倒的に「ブレンデッド>シングルモルト」
シングルモルトウイスキーとブレンデッドウイスキー、消費量が多いのはどちらでしょうか。
「Malt Whisky Yearbook 2024」という本に、2022年の世界市場におけるブランド別ウイスキー販売量トップ30が掲載されています。それによると、バランタインやジョニーウォーカーといった有名銘柄ブレンデッドウイスキーが上位を占めています。
意外かも知れませんが、トップ30にはシングルモルトウイスキーは1つもありません。ここ最近のウイスキーブームで、以前と比べてシングルモルトウイスキーへの注目が高まっているものの、数量で見ると圧倒的にブレンデッドウイスキーの消費量が多いのです。
「普段飲み」のブレンデッドウイスキー
なぜブレンデッドウイスキーの消費量が多いのか。それはお手頃なボトルが多くあり、「普段飲み」に適しているのが大きな要因でしょう。
ブレンデッドスコッチの有名銘柄だと、「ジョニーウォーカー」、「バランタイン」、「シーバスリーガル」、「オールドパー」、「カティサーク」、「フェイマスグラウス」、「グランツ」など、少し考えるだけでも書ききれないくらいあります。これらのボトルは、お手軽な価格にも関わらず「結構うまい」のは本当にすごいことです。
日本だと、居酒屋でよく飲まれるようなウイスキー、例えば「角」「ブラックニッカクリア」などはブレンデッドウイスキーです。
ジャパニーズウイスキーは高嶺の花?
お手軽ブレンデッドウイスキーがたくさんあるスコットランドと比べて、日本はどうでしょうか。
計画中を含めると日本の蒸留所数は100を超えますが、新規蒸留所が作るジャパニーズウイスキーはかなり高価であり、かつ、リリース本数が多くないため手に入れるのも簡単ではありません。また、そのほとんどはシングルモルトウイスキーです。
昨今の原材料価格高騰や、新規蒸留所は小規模であることが多くコスト高になりがちであることを踏まえると、販売価格がそれなりに高くなってしまうのはやむを得ない部分があるのも理解できます。
しかし、値段が高いが故に、私のような庶民が気軽に新規蒸留所がリリースしたウイスキーを飲むのはなかなか難しいです。残念ながら、ジャパニーズウイスキーは「一部のマニアがうんちくを垂れながら飲む酒」に過ぎないのが現状だと思っています。
注:海外原酒を利用し、日本でボトリングしたブレンデッドウイスキー(つまり、本業界基準を満たさないもの)ものであれば、安価なものはたくさんありますが、ここでは本業界基準を満たすブレンデッドウイスキーについて考えている点はご留意ください。
ウイスキーは庶民の酒であるべし
ジャパニーズウイスキーを一部のウイスキーマニアのものではなく、「日本国民の酒」とするためには、大手以外が製造するお手頃価格のジャパニーズブレンデッドウイスキーの登場が待たれます。2024年4月現在、私が知る限りでは、大手以外で本業界基準を満たすジャパニーズブレンデッドウイスキーは桜尾蒸留所の「戸河内」くらいです。
私は「ウイスキーは庶民の酒」であるべきだと考えているので、大手以外のメーカーから、お手頃価格のジャパニーズブレンデッドウイスキーがたくさんリリースされ、気軽にジャパニーズウイスキーを飲めるようになることを期待しています。
大手以外からもジャパニーズブレンデッドウイスキーの有力ブランドが複数立ち上がり、気軽にジャパニーズブレンデッドウイスキーを飲めるようになったとき、ウイスキー業界の成熟度という観点において、日本はスコットランドに近づいたと言えるのではないでしょうか。
山崎蒸留所誕生から始まった日本のウイスキーの歴史は100年ほど。スコットランドに近づくのはまだまだ先のことになりそうです。
次回に続く。。。
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