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【WHILL Model R 開発物語】メカ設計エンジニア中川 - 緻密な計算と試行錯誤の繰り返しが、最高の乗り心地を創る -

WHILL Model Rは、業界最小クラスの小回りや最高の乗り心地を叶える

言うは易し。

ものづくり全てに言えることですが、Model Rを通じて私たちが感じるその魅力や心地よさは、WHILL社が長年にわたって日々積み重ねてきた技術力や緻密な計算、試行錯誤の結果によって支えられています。

小回りを安定させるにはどんな技術や緻密な計算が施されているのか?

乗り心地の良さを一言で伝えても、それはどれほどの技術のエッセンスが組み合わさって現実のものとして達成されているのか?

本記事では、Model Rを「行き届いた機能が心地いい、スマートになった歩道のスクーター」と言わしめるについて、このプロダクトの開発・設計全体を統括したメカエンジニアの中川に聞いています。


中川 智之(なかがわ さとし) プロフィール

筑波大学大学院システム情報工学研究科(当時)博士前期課程修了後、本田技研工業株式会社へ就職。2016年WHILL社に近距離モビリティの開発(メカ設計)エンジニアとして入社。ウィルのシンボルであるオムニホイールの開発を手掛けたほか、2021年発表のModel Fでは誰もが簡単に折りたためるような機構を設計・開発。Model Rでは機体の開発・設計全体をリードした。現在は製品の品質管理にも取り組んでいる。

「タイヤをただ横に向けるだけでは360度の小回り旋回は実現できない」

Model Rの代表的な特徴といえば、スクーターながら業界最小クラスの小回り旋回。

素人目に見ると、前輪が90度に曲がり、後輪が独立して交互に回転することで一回転できていると感じるのですが、実際はそんな簡単な話ではないらしく。

そもそも、スクーター型で後輪2輪の中心を軸に360度旋回させることは非常に難しいのです。レイアウトが適切ではない状態でハンドルを90度近くに舵角させても機体はスムーズに回ることができず、カクカクと止まってしまったり、回転できたとしても放射線状に広がってしまったりしてしまいます。

それを防ぎ、丸い円を綺麗に描くような旋回を実現させるために、前輪のステアリングの機構の検討に力をいれました。自動車業界では馴染みが深い、車の走りを決めるジオメトリーの機構ですが、Model Rおいても緻密な計算の上、ステアリングの最適なジオメトリーを実現しました。

ジオメトリーの詳細はここではあまり触れませんが、簡単にいうと、タイヤと車体との位置関係を表す設計要素のこと。例えば、タイヤの向きや角度、サスペンションの取り付け位置などが含まれるそうで、車体の加減速、コーナリング、乗り心地などに大きな影響を与えるとされます。※以下記事参照

前輪に着目。
小回りを実現するためのレイアウトや動きをします。これがジオメトリーのいち要素となります。

このジオメトリーに至るまで緻密な計算を要しました。
計算をし続け、何度も試作を重ね、試行錯誤を繰り返して、滑らかに旋回できる適切な角度を割り出しています。

サスペンションのかたさも、スタビライザーの存在も乗り心地を担保するのに不可欠

Model Rには「快適さ」を支える技術も多分に詰まっています。

しかし、すべてをいちから説明すると永遠に語れそうな雰囲気が中川に漂っていたので、本記事では2つに絞って深掘りを進めていきます。サスペンションとリアスタビライザーに主役を譲りましょう。

まずは、サスペンションそのものについて。
素人の立場として、サスペンションがしっかり伸び縮みすれば(効いていれば)路面のさまざまな衝撃を吸収してくれると理解していました。

中川に、ちょっと難しい表情をされました。

大小さまざまな衝撃を吸収できるようにするには、バネを柔らかくする必要があります。ですが、一様に柔らかくすると今度はふにゃふにゃに揺れてしまい、かえって安定せず乗り心地は悪くなってしまう。

では硬くすれば良いのかというと、それはまた衝撃を吸収しづらくなるため、よろしくない。綿密な計算と試作、検証を重ねに重ねて今のサスペンションの絶妙な弾性を生み出すに至っています。

この絶妙な弾性を有するサスペンションの配置方法についても、乗り心地を決めるのに大事らしいのです。

Model Rには、多くの乗用車でも採用されている独立懸架式サスペンションを採用しました。左右のタイヤと付随するサスペンションがそれぞれ独立して動くように構成されているので、傾斜や路面状況に沿う形でタイヤが接地でき、路面追従性が高まり、走行性能が良くなるのです。

左右のタイヤにそれぞれつく、リア側のサスペンション

さらに、サスペンションだけがいかなる路面状況でも快適な乗り心地や安定性をもたらしているのではないといいます。

縁の下の力持ちとして、重要な力を発揮するのがスタビライザーだと、中川は語気を強めます。

ウィルの走行性を支える後輪サイドを観察をする中川

スタビライザーとは、斜面や凸凹路の走行時やコーナリング時など重心が不安定になりやすい環境において車体のローリング(傾き)を防ぐため、サスペンションに追加される部品。

スタビライザーの働きはこう。

左右のサスペンションのストローク量(上下幅)に差異が生じた時に、スタビライザー(以下写真中央部に位置する歯車のように噛み合っている部分)に捻れ応力が発生し、それがストッパーになりローリングを軽減させます。

スタビライザーがない場合だと、コーナリング時に外側の車輪だけに大きく車重がかかる、つまり重心が左右に大きく移動するため、不安定な走りにつながってしまうのです。

中央下部に位置する歯車のように噛み合っているのがスタビライザー。

自動車と同じ技術や部品を近距離モビリティにも取り入れていることがよく理解できました。「乗っていて楽しい」「運転しているのと同じような感覚」と、多くの乗り手がウィルに満足する要素ではないでしょうか。

いずれの要素が外れても、旋回や乗り心地を成立させることはできません。全てが綿密に合わさって初めてModel Rの走りを実現できているのだと感じます。

Model C2同様の工具なし分解機構もユーザーフレンドリーだが「成立させるのは実は難しい」

Model Rは頻繁に分解するシーンはもしかしたら少ないかもしれません。しかし、いざという時に分解して運べる、車載できるという機能は私たち消費者にとっては安心できるポイント。

エンジニアらがこだわり続けているのが、Model C2もそうだが、誰でも工具なしで簡単に分解ができるような機構にしている点。

正直、工具や部品を使って分解できた方が、それはもちろん機体の設計も楽です。しかし、使う人の立場を考えると、それは面倒ですし、すべての人の移動を楽しくスマートにすることから外れてしまいます。

例えば、後輪と前輪を分割するときはレバーを動かすだけの仕組みにしていますが、ここでもさまざまな検証がなされています。

「レバーで固定した時にガタつかないか」は重要事項ですが、これも連結部分がキチキチのサイズだとレバーが動きづらくなり、分解・組み立てがしづらくなります。一方、連結部分のサイズにゆとりを持たせると、思った通りゆるゆるになりガタつきの原因となる。

意図した時に分解でき、意図していないときには分解されないようにすることは難易度が高く検討を重ねました。

また、どこを持てば、重たい車体を少しでも安定安心に、かつ楽に持ち上げられるかなども中川らは考え抜いたといいます。

細部にまでいろんな検討と検証、試作がなされ、Model Rが形作られている。そのプロセスが、彼の一つ一つのエピソードから伝わってきます。

いろいろな方に自分のモチベーションについて話す時、よくエピソードとして紹介するのが、あるユーザーさんです。その方は「足を悪くする前にはできていた犬の散歩が、足を悪くしてからできなくなった。でも、ウィルを迎えてからまた一緒にできるようになった」と伝えてくれ、そのとき、ありがとうと言ってくれたんです。

私としては「使ってくれてありがとう」と感謝を伝えたい立場なのに。嬉しいですよね。

終わりに

きめ細かで「あったらいいな」に応える技術が詰まった逸品として市場投入されたModel R。

”行き届いた機能が、心地いい”

このキーコピーには、開発者らのたゆまぬ努力と幾重にも及ぶ試行錯誤が、深くかつどっしりとした土台にあると感じさせられます。いわば私たちが実際に心地よく感じるModel Rの魅力は氷山の一角にすぎないのかもしれません。

開発者の思いや背景ストーリーを実際に知った後、もう一度ウィルに触れてみると、これまでとまた違う感覚を抱きます。

もっと愛着が湧く。熱を帯びる。

作り手の熱量のパワーは、技術云々をはるかに超え、人々を魅了するもの。
本記事がわずかでもその一助となり、Model Rを手元に迎える人や場所が増えたらと期待します。

Model R 新製品発表会の様子

YouTube動画

詳しい製品情報はこちら

最後に、中川にModel Rの次なるストーリーを紡いでくれる推薦者を訪ねました。次回は乗り手の体重と姿勢を支えるシート部分に心血を注いだ人物に焦点を当てましょう。



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