選挙におけるイメージ戦略(妄想)
はじめに
この記事はフィクションです。
実際の選挙での出来事をモデルとして、こんなイメージ戦略を立てている候補者がいたら怖いなと想像しました。ただ、同時に、今後、実際の選挙でも投票先を選定する際にいろいろ検証するための助けとなるのではないかと思って執筆します。
以下の記事では、有権者1000万人の首長選挙に立候補した天和氏と、そのサポータである天和支持者と、対立候補の現職である地和氏が登場します。
この記事の内容はフィクションであり、この記事に登場する人物・団体は、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
本当の民主主義やら自由やらを標榜する
天和氏は「本当の民主主義」「本当の自由」というものを標榜します。
現代の日本では、きちんと民主主義が貫徹されていますし、色々な制約はあれど基本的には自由を謳歌できますが、そんなことは関係ありません。
過去に第二次世界大戦などで日本や世界は独裁を許して失敗をしました。国民は、この歴史を学び、独裁は悪いもの、民主主義は良いものというイメージを持っています。
ともかく実態とは関係なしに、天和候補は自分らが民主主義で自由があり、地和候補は独裁で自由がないのだ、という印象を与えようとします。
本当の民主主義の実現のためには印象操作も情報操作もしないことが重要ですが、天和候補には本当の民主主義を実現するつもりはなく、あくまで民主主義だというイメージを与えられれば十分なので、印象操作も情報操作もしまくります。
2.「本当の民主主義」を実現するための公約を打ち出す
天和候補は上記のイメージ戦略に則り、「本当の民主主義」のために、ある争点についての別個の投票を行うことを公約にします。
投票を行うには数十億もの税金を使わなくてはいけませんから、本当の民主主義を実現するのであれば財源を何にするかなどの重要な事項を有権者に伝えた上で投票を実施することを公約とすべきですが、天和候補は、あくまで民主主義というイメージを与えたいだけなので、お金がかかることは言わず、投票をすることだけを伝えます。もしかすると、天和候補自身、何が民主主義なのかわかっていないのかもしれません。
とにかくひたすらに「投票を実施することによって『本当の民主主義』を実現するんだ」と連呼します。これによって、「今までは民主主義でなかったが、天和候補によってやっと本当の民主主義が実現されるんだ」というイメージを有権者に与えることが目的です。
3.対立候補が、独裁であるかのような印象を与えるような動画を製作する
天和支持者を対立候補の地和候補の演説の場に向かわせ、トラブルを起こし、SPなどに追い出されるようにします。トラブルは文字で書けば些細な問題のように思われることにします。実際にはSPなどが動くということは相当なことをやっているのですが、その瞬間は動画が残らなければ問題ありません。
とにかく、SPなどから追い出されるところだけ動画に取れればよいのです。そして、天和支持者にSNSで「地和候補の演説で●●しただけなのにSPに追い出された」などと書き込ませます。
こういった書き込みで、地和候補の独裁のイメージを高めます。
4.対立候補の人気がないかのような印象を与える動画を製作する
天和支持者を対立候補の地和候補の演説の場に向かわせ、「やめろ」などといったことを連呼させます。
また、なぜかこの場には撮影者がいます。さらには、やめろというコールがなされる前から、演説をしている地和候補を中心に取らず、地和候補とやめろコールをする人の両方が画角にはいるような形で撮影されています。
当然、撮影者は、やめろコールが行われることを知っていたからこのような動画が撮影できるのです。
この動画はSNSにアップロードされ、地和候補の人気のなさを印象付けるものとして利用されます。
5.天和候補が圧倒的な人気を誇るかのような動画を作成する。
天和候補の演説の場で、「天和!天和!」と連呼する熱狂的な支持者に天和候補が囲まれているかのような動画を作成します。
こういった動画は20~30人の支持者を動員すれば作れます。いるのは20~30人ですが、撮影者はそのコールの真ん中で撮影しますので、たいへん多くの熱狂的な支持者がいるかのような印象の動画を作成することができます。
普通に考えると、周りが天和コールをしているのに、自分では天和コールをせずに動画だけ撮影する、というのはとてもおかしなことでその場にいたたまれないはず(動画を取るにしても遠巻きで撮影しそう)なのですが、天和候補も周りの人もそういう動画を取るためにやっているので問題はないのでしょう。
6.組織票・不正選挙の主張
4や5の動画により、天和候補は圧倒的に人気があり、地和候補は全く人気がないかのような印象を有権者に与えることができます。
しかし、実際に開票すると、地和候補が圧倒的に得票します。
これはなぜでしょうか。
真に地和候補が不人気、天和候補が人気で、先の動画のようなことが自然発生的に起きたのであれば、得票数にも同じような傾向が反映されるはずです。
しかし、実際にはそのようなことは起こりません。
この理由を陰謀論的に説明するのであれば、組織票と不正選挙です。組織票には勝てなかった、不正選挙が行われたから天和候補が負けた、というようなことが言えます。
一方、論理的に説明するのであれば、「自然発生的に起きた」という前提が誤っていた、ということになります。
すなわち、動画に映っている人たちは、特定の政治思考を持って意図的に集まっていたということです。
要するに動員です。天和支持者を動員して意図的に4, 5の動画のような事態を起こしているだけなのです。
天和候補は、組織的に不正な事態を引き起こしながら、地和候補に対して組織票や不正選挙だと糾弾するのです。
7.「激しく追い上げ」という印象付け
また、各社が報道する情勢調査でも印象操作が可能です。
情勢調査は、期日前投票の出口調査などで行われます。
選挙の後半戦になってから、期日前投票の出口調査を行っているところに集団で天和支持者を投票に向かわせ、出口調査に対し「天和候補に入れた」と回答させます。出口調査は、その投票者に偏りがないことを前提として全体の数を推定することになるのですが、調査をしているところに天和支持者を集めることで、実数よりも多い投票数が推定されることになります。
例えば、A投票所で選挙の前半で50人の投票があって、そのうち5人が天和候補と答えたとします。これが偏りがないものであれば、おおよそ支持者の10%が天和候補を支持していると推定することができます。
ここで、天和候補がA投票所での出口調査を知り、選挙後半に天和支持者10人をA投票所に向かわせたとします。その結果、A投票所で選挙の後半には60人の投票があって、そのうち15人が天和候補を支持していると答えたとします。前半と同じように支持者の割合を推定すると、おおよそ支持者の25%が天和候補者を支持していると推定されることになります。
このようにすると、選挙前半では比較的天和候補への投票が10%しかなかったのに、選挙の後半戦になってから天和候補への投票が25%に増え、天和候補が激しく追い上げているかのような印象を与えることができます。
実際には天和候補の支持が拡大していなくとも、天和候補激しく追い上げという報道により、有権者に対し、あたかも天和候補の支持が順調に拡大しているかのような印象を与えることができます。
8.SNSへの組織的投稿
天和支持者を使い、ハッシュタグを使ってあたかも天和候補の支持が圧倒的かのような投稿を組織的にします。内容はほとんど同じで構いません。
#天和和了ってる
みたいなハッシュタグをつけ、天和支持、地和不支持の投稿を組織的に連日行います。このような投稿がたくさん表示される有権者は、世の中のほとんどの人が天和候補支持に感じられるかもしれません。でもよく見るとイイネの数は数千から多くても1万程度です。この中には有権者以外も含まれています。対して有権者は1000万人。割合にして有権者の0.1%以下のイイネが付いているだけなのです。
さらに細かく見ると、天和候補の投稿には多くても1万程度のイイネしかついていません。対して地和候補の投稿には5万程度のイイネが付いています。
このことからも地和候補の方が支持者が多いのは明らかなのですが、たくさんの天和候補支持についての投稿をすることで、あたかも多くの人が天和候補を支持しているかのような印象を作り上げることができます。
9.選挙の前半、後半での刑事告訴
選挙の前半及び後半で、天和支持者に、地和候補を公職選挙法違反で刑事告訴させます。できるだけ社会的地位の高い人に依頼します。有権者には、「そんな社会的地位が高い人が誤った刑事告訴をするわけがない、地和候補は刑事告訴されるようなことにまで手を染めるのだ」という印象を与えることができます。
なお、刑事告訴したと発表することが目的であり、実際に公職選挙法違反に問えるかどうかは問題ではありません。
あくまでもイメージ戦略の一環です。
10.本当の民主主義を実現しているのは?
熱狂的な支持者がいて、SNSで連日投稿がある天和候補か、些細なことでSPが動き出し、「やめろ」コールを浴びせられ、SNSで毎日ディスられ、刑事告訴までされている地和候補か、本当の民主主義を実現しているのはどちらの候補なのでしょうか。
見方を変えれば、当選のために情報操作や印象操作をしている天和候補か、当選のためであっても情報操作や印象操作をしない地和候補か、どちらが本当の民主主義を実現しているのでしょうか。
選挙というものは一種の情報戦です。表面的な情報に踊らされずに、多面的に検証をして確かな情報を見極めていくことも重要かと思います。
さいごに
以上、実際にあった出来事をモデルにして、もしかするとこんなストーリーもあるかもしれない、というIFの物語を書きあげました。
書き上げてみての感想は、もともとは別個独立した事象だと思っていたものが一貫した戦略の元に起こった事象という、意外な可能性を描くことができたかもしれないと思っています。
皆様のご感想はいかがでしょうか。
また、あなたが受け取った情報も、額面通りに受け取るべきではなく、その背後に何か意図的な仕掛けがあったりするのではないか、と想像力を働かせてみるのもよいかもしれません。
もちろん、想像をするだけではいけません。上記のストーリーのような可能性はないのだ、この候補は信じられるのだ、と、ほかの情報と突き合わせていろいろな角度から検証することが重要です。
いろいろな角度から物事を研究することは、その物事の深い理解につながります。
確かな情報と深い理解のもとに有権者が投票先を選定できる本当の民主主義が確立されることを期待して、筆を置きます。
注意事項
なお、もちろんのことながら、実際には、以上に述べるようなイメージ戦略をとっている候補者はいないと信じています。
以上の記事では、実際に起こったことをモデルとはしていますが、候補者の考え、候補者による指示や戦略については私の創作にすぎません。本記事をもとに実在の候補者を批判することはお避け下さい。