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(連載小説)秘密の女子化社員養成所⑳ ~聖なる夜の性なる出来事・その3~

「じゃあもうひとつ聞くけど”女らしい”って何かしら?。」

そう恵美から聞かれた悠子は「そうですね、髪が長くて、お料理をはじめとした家事全般を難なくこなして女子力も高く、奥ゆかしくて・・・・・。」と言いながらハッと気づいた。

「あ・・・・・これって一体誰が決めたんでしょう?・・・・・。」

「そうね、誰が決めたのかしら?。男性だって料理が上手な方はいるし、奥ゆかしい性格の方だっているわよね。うふふ。」

ほんとそうだ。有名なレストランのシェフと云われる人物は大抵男性だし、控えめだったり奥ゆかしい男性だって世間には山ほど居る。

大体「女子力が高い」と云う近頃多く用いられるようになったこのフレーズだって誉め言葉の一種なのかもしれないが、何が「力」なのかあいまいなようにも思うし、また逆に「男子力」と云う言い方は余り聞かないし、一般的ではない。

「あたしね、”男らしい”とか”女らしい”って単に人が勝手に思ってる固定概念の一種でしかないと思うの。」

例えば男性が姑息な事をすると「男らしくない」って言って非難されるが女性が姑息な事をしても「男らしくない」とは言われず、非難される時には「姑息な事をするな」と言われるのが一般的だ。

それとは別にお料理をはじめとした家事が苦手だったり活発過ぎる女性は「女らしくない」とか「女のくせに」と言われて揶揄されるし、男性がメソメソしていたり優柔不断な態度を取り続けていると「女の腐ったような」とか「女みたいだ」と言われてこれも揶揄されてしまう。

つまり世間には性別を使って非難や揶揄する表現が当たり前のようにあり、またそれが当たり前のように使われていて、同時に見えない「男らしさ」「女らしさ」と云う固定概念に縛られて悩み苦しんでいる人が多数いる。

「男たるもの」と云う風に括られてマッチョであろうがなかろうが辛い事があっても自分は男なんだから弱音を吐いてはいけないし、常に人前では気高く振る舞って弱みを見せてはいけないと思って無理をしている・させられている男性がいかに多く、そしてジェンダーバイアス(性差に伴う偏見や圧力)に苦しんでいる。

そう考えると今の日本に於いて男性である事は言ってみればそれだけで「既得権益」なのだが、逆に男性であるが故にその既得権益を充分活かす事ができずにかえって持て余して悩んだり苦しい思いをしている人も多く居る。

「つまりどっちかと言えば今の時代の男性って”草食系男子”が多数派なのに相変わらず周りはマッチョな人物像を求めてるし、またマッチョである事を暗に強いているわよね。これってどうなのかしら?。」

と恵美に言われると悠子は「男だったときのわたしも正直言って”男なんだから”とか”もっと男らしくしなさい”ってよく言われていました。でもわたしってマッチョでなかったから結構苦痛でした。」と素直な気持ちを告げた。

「そうなんだー。だったら今の菊川さんにとっては結構この研修所は居心地いいんじゃない?。」

悠子はそう言われてまたハッとさせられた。確かに「長期研修」と云う事でこの島にやってきたもののそれプラス「女子化研修」と云う事については聞いておらず、着いた途端に無理矢理女装をさせられて名前も悠太から悠子に変えられて顔も整形され、また常に女言葉で喋り、女性として振る舞う事を強制された最初の頃は苦痛でしかなかった。

ただ毎日事あるごとに「わたしは女です」と言わされ続けているうちにメイクしてスカートを履いている事での外見やいでたちの変化と相まって悠子にとって自分自身の性自認は男性でなく女性へと変わっていったのも確かだった。

これは悠子だけでなく同期の研修生たちもおしなべて皆同じだし、慣れてしまえばメソメソしたり弱音を吐いてもその行為自体は咎められない今の状況は悠子にとってそこまで居心地の悪いものではなかった。

正直この女子化研修はハードで辛い事が多い。しかも教官や先輩社員は皆サディスティックなのでいつも怒られてばっかりだし、時と場合によってはこの前のようにお仕置きと称してかなり恥ずかしい事を人前でさせられる。

だから悠子も何度となく泣いてしまっていたのだが、この島に来て性自認が女性になってからは泣くのも以前の男性の時だったらとりあえず一度はぐっと堪えていたのが今では自然に涙が出るようになっていた。

これは何も悠子に限った事でなく、同期の研修生たちもみんな同じように男だった頃の以前では考えられない位メソメソするようになっていたが、ただメソメソしていても悠子と同じように周りからはそれを咎められたりはしないし、それどころかもらい泣きまでするのが珍しくなかった。

そして毎日女性としての身だしなみやメイク、はたまたスキンケアをはじめとして色々と気遣いが必要で確かに男性の時と違って遥かに手間は掛かるが、これも最初は強制的に女装させられて嫌々やらされていたにしては近頃は慣れてきたのか段々と苦痛ではなくなってきているし、それよりおしゃれを楽しんだり女性としてもっときれいになりたい・かわいくなりたいと思う向上心のようなものまで生まれてきていた。

今着ているこの白のレースのワンピースだってとてもフェミニンなデザインと云う事もあって悠子の気持ちの中ではテンションが上がり、同時によそ行きの洋服を着られてうれしい気持ちになっている。

なので別にマッチョでなくてもよく、自分の持っている性分やキャラクターを自然に出していても何も言われず、ただ女子化に励めばそれでいいこの環境は気が付けば悠子にとってみれば悪いものではなかった。

「は、はい・・・・・この島はわたしにとって結構いいところです。」
「そうでしょう。あたし菊川さん見ててそう思った。ここは女しかいないから”男らしく”なんて誰が決めたのか知らないこんな訳の分かんない事をする必要は全くないし、それよりもっと大事な事を自然と優先するようになってると思う。」

「大事な事」ってなんだろう?。もしかして「女らしく」する事なのだろうかと悠子は思っていると恵美がこう続ける。

「あたしね、男らしいとか女らしいとか正直どうでもいいの。そんな事より”人間らしい”事が大事だとあたしは思ってる。自分のしてる事は”人としてどうか・人として美しいかどうか”の方がずっとずっと大事。」

悠子はこう恵美に言われ、ある意味肩の荷が下りる思いがしていた。今までずっと男としてマッチョに振る舞うよう、そしてマッチョであるよう仕向けられ、無理してでも競争社会・男社会の中でマウントを取り続ける事が偉いと云う風潮にどことなく違和感を感じていたのだが、ビューティービーナスに入社し、またこの島に来て女子化研修を受けるうちにその違和感を感じなくなっていた。

かと言って女子化研修の中でメイクレッスンや調理実習などのいわゆる「女らしい」「女性的」なカリキュラムはあるが、上手くできなかった時に手際や出来の悪さを言われた事はあっても「女のくせにこんなこともできないの?。」等と言われた事は一度もなかった。

穂波が同期の研修生の中で評価が高いのは確かに女子化の度合いが他の研修生と比べても高いのはあるが、それ以上に振る舞いや物の考え方・見方が人として美しく品があるからで、事実何度となく悠子は穂波の気遣いに助けられていたし、そう考えると人間らしさの前には男らしさや女らしさなんて事はどうでもいいと思えてきた。

「それでね、藤川社長がこの前とっても”面白い事”をおっしゃってたの。聞きたい?。」
「は、はい・・・・・社長はなんておっしゃってたんでしょう?。」

「藤川社長はね、性別があるから”性差別”がある。だからいっそのこと性別が無かったらこんなややこしい事は起こらないのに、っておっしゃるの。」

これには悠子はさすがに驚いた。確かに性別がなければ性差別自体は起こらないし、また同性婚や同性愛で悩んだりする事もなく、他にも男らしさや女らしさと云ったジェンダーバイアスで悩むこともない。

ただ生物学上や医学上でどの動物にもオス・メスがあるように人間にも男・女があるのは自明の理で、問題なのは無理に男はこうあるべき、女はこうあるべきと云う「べき論」をかざす事で段々と今の世間一般の実情からずれが生じ始めたり、それに苦しんでいる人がいるからではないだろうかと悠子は思っていると恵美がこう言った。

「なので藤川社長は人間は”ぺ二クリのある女”と”そうでない女”の2種類でいいっておっしゃるの。これだと生殖自体は可能だし、何より男らしさ・女らしさを振りかざす必要はなくて人間らしさだけが尊ばれるようになるって。あたしこれ聞いて笑っちゃったけど同時に膝も打ったわ。あははっ!。」

「・・・・・」

悠子は驚きを隠せず、沈黙してしまっていた。今の自分はまさに「ぺ二クリのある女」で自分だけでなく同期の研修生も全員そうだし、遥香のように女子化研修を終えて女子社員になり、そのまま指導役としてこの島に留まっている「ぺ二クリのある女」も結構多い。

ただなんで「女」だけでいいのだろう。LGBTQに寛容な社風もあって会社には何人かゲイを公言している社員がいるのだが、その人たちからすれば逆に「ぺ二クリのある男とそうでない男でいい」的なロジックはLGBTQに寛容なこの会社を率いる藤川社長の中には無いのだろうか?などど思ってしまった事もあり、悠子は沈黙してしまっていたのだった。

そして小難しい顔をして黙ってしまった悠子に恵美は優しく「解説」をしてくれた。

「まあ藤川社長はゲイを否定している訳でもなく、性別を否定している訳でもないの。」

どう云う事かと云えば例えばスポーツ競技ではどうしても男女の運動能力的に差が出てしまうので多くの種目を男女別に分けているし、それに世界には異性装や同性愛自体をタブー視している国・地域は結構多く、ただこれはそこの国・地域で暮らす人々が長年積み重ねてきた習慣や色んな事情からくるものなので否定はしないし、むしろ尊重していると言う。

ただ日本では江戸時代には「野郎歌舞伎」と言う形で男性がいわゆる「女形」を演じるのが始まり、それが脈々と現在まで「伝統芸能」と云う事で特に気持ち悪がられる事なく続いているし、反対に団員が女性のみの宝塚歌劇団では結成以来女性が当たり前に男役を演じている等のこの国の文化的な風土の上では異性装に対してのタブーはそこまでないと言える。

何より藤川社長が思っているのはライフスタイルの上では女性の方が消費活動を積極的に牽引しているので皆が女性のライフスタイルを踏襲すれば経済効果が大きいし、恋愛・結婚に関してもいつも議論になる同性愛・同性婚と云うのは性別があるからそうなるのであってその人が好きなら好きでいいパンセクシャルと云う考え方がもっと広く認知されれば揉めたりしないと云う事が言いたいのだった。

ビューティービーナスは一般的に女性の好む商品、例えば化粧品や健康食品を主に扱っているのでその販路拡大になると云う社長なりの営業上の戦略や想いも強くあるのだが、考えてみれば男性も化粧をするのが当たり前になれば単純計算では化粧品の売り上げは倍になる訳だし、成人式にはスーツでなく男性も振袖を着て出席するのが普通になれば着物業界も美容業界もこれも単純計算では売り上げは倍増する。

逆に女性がメイクをしなくなれば化粧品業界は存亡の危機に立たされるし、成人式に女性が振袖を着なくなれば着物業界も同様に存亡の危機に立たされる。それに一般的にスーツより振袖の方が高価で帯や小物類も必要だし、着付けやヘアメイクと云った必須事項も多いのでその方面にも影響は大きい。

他にも宝石・貴金属などのアクセサリー類もそうだし、ファッションだって女物の方が圧倒的にバリエーションが多く、流行だって変化するので言ってみれば男性と比べても女性で居続けることは金が掛かる事が多い。

だけど女性は面倒だと思っていても好んでメイクをする人は多いし、スキンケアやヘアケアなど日頃の手入れも男性と比べて格段に手間もヒマもお金も掛かるのにやはり面倒だと思っていても欠かさずする人が多く、着るものだけでなくアクセサリーや小物類、履物に至るまでファッション全般で男性のそれより格段に熱心で興味や関心の持ち具合も違う。

「じゃあなんで女性はそこまでするのって思わない?。」と恵美は解説の途中で悠子に話を振り、悠子は少し考えてこう言った。

「そうですね・・・・・わたしこの島に来て女になってから時々思うんですけど、正直女で居る事って楽しくて・・・・・。確かにメイクもスキンケアもお洋服選びも面倒で大変です。でもうまく決まった時は楽しいし、お姉様方や同期に褒めていただけると嬉しくてもっと楽しくなります。」

そう言うと恵美はにんまりとし、「そうなの。よく気づいたわね。菊川さんの言うように女で居る事は面倒だし大変な事も多いわ。でも実際におしゃれしてみるとホントに楽しい。それにメイクやスキンケアする事で若返ったように見える事も多いし、アンチエイジングの観点からもなんでこんなに素晴らしい事を男はしないの?ってあたしよく思う。」と言う。

「ホントそうですよね。わたしも日々のメイクやケアもまだ慣れない分大変ですけどそれでも頑張ったぶん上手にできたらうれしいし、女ってやっぱり楽しいです。えへっ。」

とはにかむように言う悠子に「そうよね、女って楽しいわよね。じゃあそろそろもっともっと女として楽しい事しよっか。ふふふ。菊川さん、あたしの隣に座って。」と恵美は悠子の気持ちがほぐれたのを感じ、含み笑いをしながら向かい合って座っている悠子に自分の横に座りなおすように言った。

「は、はい・・・・・。し、失礼します・・・・・。」

そう言われかわいらしくワンピースの裾を持ち上げ、お尻に敷くようにしてちょこんと恵美の横に座った悠子からは緊張の面持ちは隠せなかった。

「いよいよだわ・・・・・わたし、先生に抱かれるのね・・・・・。上手くできるかしら・・・・・。」

不安と緊張で胸がドキドキしている悠子だったが次の瞬間、恵美に抱き寄せられたかと思うといきなり唇を重ねられ、舌を入れて来られた。

「あん・・・・・せ、先生・・・・・らめえ(ダメえ)・・・・・。」

恵美のいきなりのキス、それもディープキスは文字通り濃いものを感じさせる非常に濃厚なものだった。

そしてジャコウジカのような匂いの濃いフェロモンをまるで振りまく様に発する恵美は「女性」と言うよりか「メス」としての本能で悠子の唇と舌ににまるでむしゃぶりつくように絡んでいた。

「あん、はあん・・・・・なんてやわらかい唇なの・・・・・。それにねっとりと絡む舌の感触も抜群じゃない・・・・・。こんなに気持ちいいキスってあたし久しぶり・・・・・。」

定期的にヒアルロン酸を注入され、柔らかくてぷるんとなっている悠子の唇の感触を味わいながら恵美はキスすることで思った以上の快楽を得ていた。

そして恵美は一旦キスをするのは止め、羽織っているナイトガウンを脱いで下着姿になり、悠子にもレースのワンピースを脱いで同じように下着姿になるよう促した。

「菊川さん、あなたのその白のレースのワンピースとっても似合ってるけどこのままの姿じゃ”イイ事”できないから脱ぎましょうね。ふふふ。」

そう言われた悠子は恥ずかしそうにワンピースを脱ぎ、清楚な感じながらセクシーなデザインのランジェリー姿を恵美の前に晒け出し、クィーンサイズのベッドの端に並んで座った。

「せ、先生・・・・・どうですか・・・・・わ、わたしの下着姿・・・・・は、恥ずかしい・・・・・。」

「あら!とっても似合っててかわいいー。それに恥ずかしがることないわ。だってあたしとあなたは女どうし。それもお互い女が好きなレズビアンカップルの”カノジョ”なのよ。」

カノジョ・・・・・。そう言われた悠子は少し戸惑ったが恵美が自分に対して恋人気分を味わい、そしてその恋人と淫らな事をして性欲を満たしたいと云う欲求を直に強く感じ、こう言った。

「先生・・・・・わ、わたしを・・・・・。」

「ほらあー、あなたとあたしは”カノジョ”なのよ。そんな”先生”だなんて無粋な言い方は止めていつもここでやってるみたいに言って。」

そう言われ悠子はとても恥ずかしそうに「め、恵美お姉様・・・・・ゆ、悠子を・・・・・だ、抱いて・・・・・。」と言い直すと恵美は悠子と倒れ込むようにベッドに寝転がり、舌と指であちらこちらの愛撫を始めた。

「悠子ちゃん、お望み通り抱いてあげるわ・・・・・。うふふふ。」
「お姉様・・・・・や、優しくして・・・・・あん、はあん・・・・・。」

(つづく)




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