(連載小説)秘密の女子化社員養成所⑦ ~初めてのメイド服に隠された意味~
研修2日目の早朝5時、悠子はけたたましいアラームの音で目が覚めた。
この島は東京より西にあるせいか日の出は今までとは3~40分程遅く、まだ外は真っ暗なのだが見習い女子としてはそんなのおかまいなくいくら眠くても起きなくてはいけなかった。
昨日は早朝に東京の社員寮を出ての長旅の上、昼からはずっと強制的且つ強烈な女子化研修の行事やプログラムの後に深夜まで続く「夜の部」とあってはさすがに疲れてまだ眠いのだが寝坊などもっての他だった。
これから悠子たち新研修生は毎朝5時起きでここでの1日がスタートするのだが、まずは洗顔を済ませると遥香は悠子をドレッサーの前に座らせ、メイクを悠子の顔に施し始めた。
まだ女になって2日目の悠子にいきなりセルフメイクはさすがに無理なのでとりあえず今日のところは遥香がメイクをしたのだが、今後はおいおいメイクレッスンも兼ねて自分でメイクをしないといけない。
メイクが終わると遥香が「じゃあ悠子ちゃん、これに着替えましょうね。ふふふ。」と言いながら悠子のクローゼットを開けて持ってきたのはなんとメイド服、それもかわいいピンクのパステルカラーのものだった。
これを自分が着るのか・・・・・と思ったが、意見するのが許される訳もなく、悠子は渋々昨日着せられたシースルーのネグリジェを脱ぎ、ワンピースになっているそのピンクのメイド服に袖を通した。
「わー!悠子ちゃんかわいいねー!。昨日のワンピースもだけど今日のこのピンクのメイド服もとってもよく似合ってるー!!。」
「そ、そうですか・・・・・。」
メイド服を着るのはもちろん初めての悠子はどうリアクションしたらいいのか分からず、困惑したまま鏡の前に連れて行かれて自分のメイクされた顔とメイド服姿を見せられた。
「は、恥ずかしい・・・・・これから毎朝こんな格好をしないといけないの?・・・・・。」
そこには顔にはフルメイクを施され、ピンクのメイド服の上に白のレースのかわいらしいデザインのエプロンをして頭には同じく白のヘッドドレスをつけた「メイド」が映っている。
悠子はメイクされた顔もだし、初めてのピンクのメイド服のせいもあって恥ずかしくて仕方なかったが見習い女子の身分では何も言えず、我慢して恥ずかしそうに鏡を見ているしか無かった。
聞けばなにやら新研修生は朝のうちはこのメイド服を着て朝食の準備や会場の設営準備や掃除などをしないといけないようで、朝食が済むと自分の部屋に戻り、例のビューティービーナスの女子社員用の制服に着替えて夕方まで研修を受けるようになるらしい。
そう言う遥香の説明を聞きながら悠子はひとつ疑問が浮かんできた。それは昨日小瀬戸島に着いた時からずっと思っていたこの研修所内で見かけるメイド服を着た人は一体なんなんだろうと云うものだった。
彼女たちはこのピンクのメイド服と色こそ違え、同じデザインで色違いの紺色のメイド服を着て、皆んなにあれこれ雑用を言いつけられたり顎で使われているけれど一体どう云ったポジションなんだろう?と云う質問をすると遥香はあっさりこう答えたのだった。
「ああ、あの子たちね。あれは見ての通りの”メイド”よ。」
そう言われて悠子はまたまた驚くほか無かった。「見ての通りのメイド」と遥香は普通に言うものの「メイド」と言えば一般的には「召使い」と云う意味で、もしかしてこの島には「召使い」がいるのだろうか、或いはメイドの「コスプレ」をした人が召使いのようにこき使われているのだろうか?・・・・・。
といぶかしがっている表情の悠子に遥香は説明を続けたのだがそれは更に驚くべきものだった。
彼女たちは「メイド」と呼ばれているが、この施設内にある総務部の「業務補助課」に所属するれっきとした社員で、一部には非正規雇用や試用期間のメイドもいるけれども社員には変わりなく、給料はきちんと会社規定に沿って払われているし、社会保険にもきちんと加入してもらっている。
ただ職能・職位としては彼女たちは社内的には「下級女子」と云う位置づけで、遥香のように女子化研修を終えたばかりとか、まだ入社して日数の浅い純女の女子社員は「初級女子」「中級女子」と呼ばれ一般の会社での平社員または主任クラスに相当し、また麗子のようにもう少しキャリアやスキルが高い女子社員は「高級女子」と呼ばれ係長クラスの扱いとなっているのだが、「下級女子」のメイドたちは読んで字のごとくそれ以下なのだった。
ちなみに悠子たち新研修生は「見習い女子」なのだが、社内的な序列は「下級女子」と「見習い女子」は同列で、見習い女子のうちはいくらメイドたちが日ごろ邪険に扱われているからと言って彼女たちを見下した態度を取るのは厳禁で、入社時期が先でもそこはさすがに「お姉様」とは呼んだり呼ばれなくてもいいのだが「○○さん」や「メイドさん」等「さん付け」で呼び、会話はお互い丁寧語でするようにとの事だった。
更にメイドたちは4人1班で色々な作業に命令されれば昼夜の境無く当たらないといけないし、部屋も研修棟の地下にある二段ベッドの狭い4人部屋で、そのベッドの上が唯一自分だけの空間だった。
髪形も最初のうちは必ずおかっぱにしないといけなくて、それも前髪は眉毛をしっかりと見えるように一直線に切り揃え、後ろはバリカンで青々と刈り上げるのが決まりで、ある程度の期間を経てやっとツインテにしてもよいと許しが出るのが通例だった。
それに服装も部屋から出る時は非番であってもメイド服以外は着てはいけなかったし、部屋の中でも華美な服装は禁止で常に地味な服装のみを強いられていた。
ここまで聞かされて悠子はさすがに絶句していた。自分たち新研修生だって何も知らずにこの島に連れて来られて強制的に女の恰好をさせられ、女子社員としての再教育を受けさせられているのもかなりハードで惨めで恥ずかしい事だけどそれでもまだ自分たちは強制的に刈り上げおかっぱ頭にされていないし二人部屋とは言え窓から外が見え、就業時間後や非番の時には女物しか着させてはもらえないけれど別に制服でなくてもよい。
そんな風に考えるとまだメイドより研修生の方がマシなのだが、ただこんなにハードで精神的にも肉体的にもあれこれ制約が多く、しかも離島と云うただでさえ自由の利かない中でより不自由な生活を強いられるのにどうして「メイド」が務まるのか不思議でいけなかった。
それに彼女たちメイドの中にはもしかしてもしかすると悠子たちと同じように一見すると「女性」だが実は「元男子」が混ざっているのではないだろうか・・・・・。
そう思いながら聞いていた悠子だったが先程絶句したばかりなのに遥香は続けて更に悠子を絶句させるような事を言う。
「新研修生はもし修了試験にパスできないと最低3カ月は今度はメイドとしてあれこれ仕事させながらこの島に残って追試験を待たないといけないの。だから悠子ちゃんもメイドになりたくなかったら研修頑張りましょうね。」
「・・・・・。」
なんてことだ、女子化研修をきちんと修了できないとこの島に引き続き居残りをさせられるだけでなくて今度は自分がメイドになってこき使われないといけないだなんて・・・・・。
おまけに遥香が言うのにはまだ研修中でもあまりに態度が悪かったり女子化の成果が乏しかった場合は途中で研修を打ち切って即「見習い女子」ではなく「下級女子」つまりメイドにされてしまうらしく、実際に過去にも1期、2期、3期でそれぞれ一人ずつメイドに格下げされた研修生が居たらしい。
また修了試験にパスできなくてメイドにさせられた研修生も実際に何人か居て、そのうちの数名は追試験に合格してこの島を後にしたけれどまだ未だに追試験に合格できずにメイドのままの「元研修生」が遥香の同期でも一人居るらしく、その子ともこの前まで同期と云う事で仲良くタメ口で会話していたのに今では社内規定では遥香の方が「上司」にあたるので遥香の事を「お姉様」と呼んで敬語を使って会話し、うやうやしく接するようになっていた。
「ま、仕方ないわよね・・・・・。その子もちゃんと女子化してちゃんとした女子社員になろうって思って頑張ってたんだけどちょっぴり点数が足りなかったみたい。」
遥香にとってもついこの前までは普通に“仲のいい女友達”と云う感じで接していた同期の研修生が今は規定とは言え無理やり髪を刈り上げおかっぱにされて地下室に移され、46時中メイド服姿でこき使われてその上遥香の事を”お姉様”って呼んで敬語で会話しながら上司として接しなくてはいけないだなんて気の毒だけどこれが「女子化研修」と云う事なのだと思って割り切る他なかった。
そしてもう一つの疑問のメイドたちの中には「元男子」が含まれているかと云う件については純女もいるがおよそ4割程度が元男子で、先程の話に出てきた態度が悪かったり修了試験にパスできなかった「元研修生」だけでなく最初からメイド志望でこの島に来ている人もいると言う。
「メイド志望でこの島に・・・・・ですか?・・・・・。」
「そうみたいなの、最初にメイドで入社しちゃうと絶対普通の女子社員にはなれないのにそれでもいいって。」
この島の研修所と保養所、そして合宿所を運営するのには現地スタッフも必要だし、それには雑用をこなすいわゆる「現場職」的な仕事もできないと運営できない訳でその為のよく言えば「補助要員」、悪く言えば「雑用係」としての位置づけで業務補助課の社員として採用されたみたいなのだが、共通点があって誰もが皆M女であったり、メイドカフェでの勤務経験やかなりマニアックなメイドのコスプレ経験がある人ばかりなのだった。
M女、それもハード系のM女経験を持つ者も多く、またお金に困っていたりそこまでではなくてもバイトとしてSMクラブやSM系のフーゾク、そして女装してメイドカフェや女装系のフーゾクで働いていたいわば「経験者」ばかりで、その手の人たちにとってはこのビューティービーナスと云う名の通ったちゃんとした会社に「社員」として、しかも昼間から日常的にM女やメイドとして扱われながら勤める事ができ、更にそれなりのお給料が貰えて衣食住が確保されているだなんてまさに夢のような話らしい。
ただまさかメイド募集の求人広告が出ている訳でもなく、これはと思った人材を見つけると会社から独自のルートでレズビアン、M女の世界の中で信用できる人や組織を通じてこっそり「リクルート」してくるのだそうだ。
こうして集まってきた真性のM女兼メイドの彼女達は理不尽な扱いを受けたりキツい仕事であっても持ち前のM女の性分でその受けた「苦痛」や「羞恥」を「快楽」や「快感」にして堪えながら毎日の業務に励むのだった。
悠子はここまで聞かされてもうため息しか出なかった。そして女になるのは仕方ないにしても、せめてメイドにはなる事なくこの研修を終えて会社に復帰できればそれでいいと思うしかなかった。
ため息をつきながら時間になったので悠子は遥香に連れられて大食堂へと出向いた。するともう既に同じピンクのメイド服姿の同期の新研修生が紺色のメイド服を着た本職のメイドに交じって忙しく朝食の準備を手伝っている。
「お、おはよう・・・・・。」と伏し目がちで恥ずかしそうに悠子と同じピンクのメイド服姿の涼子が声を掛けてきた。
「安藤さんお、おはよう。ピンクのメイド服かわいいね。」
「そ、そう?、菊川さんもよく似合っててかわいいわよ。」
「ありがと・・・・・ところで昨日はよく寝られた?。」
そう言うと涼子は若干困惑したような表情を見せながら「ううん、疲れてたから早く休みたかったんだけど、お姉様方に”かわいがられてて”なかなか寝させてもらえなかったの・・・・・。」と恥ずかしそうに言うのだった。
「安藤さん、”かわいがられてて”ってもしかしてエッチな事とかされちゃったとか?・・・・・。」
そう悠子に言われると涼子は小さくうなづき「うん、そう・・・・・。わたしお姉様たちにお部屋でレズビアンの手ほどきを受けてたの・・・・・。」と小声で言うのだった。
「えっ、そうなの?。安藤さんも?。」
「なになに?”安藤さんも”って事は菊川さんもお姉様たちに手ほどきを受けてたとか?。」
そう言われると今度は悠子が小さくうなづき「そ、そうなの・・・・・。わたし・・・・・お姉様たちとエッチな事しながらレズビアンの第一歩を教えていただいてたの・・・・・。」と同じように小声で、そして恥ずかしそうに答えたのだった。
悠子は恥ずかしさも感じながら少し安堵していた。初日からエッチな事、しかも女として扱われて淫らなレズ行為をさせられ、しかもそれでとても感じてイってしまうだなんて確かに気持ちはよかったけれどそれと同じくらい恥ずかしさと背徳心を感じていたのだが、同期の研修生が同じようにレズビアンとして淫らな事をしていたという事を聞くと少しだけホッとした。
「ねえ・・・・・菊川さん・・・・・。」
「うん・・・・・どうしたの?。」
「もしかして菊川さんも・・・・・お姉様たちにイカされちゃったとか?・・・・・。」
そう言われて顔を真っ赤にして思わずうつむいてしまった悠子だったが「やっぱりそうなのね・・・・・。でも大丈夫、わたしも菊川さんとおんなじでお姉様たちにイカされちゃったの・・・・・。」と涼子は小声で恥ずかしそうにうつむいて言うのだった。
「そ、そうなのね・・・・・。でもよかった・・・・・初日から淫らな事されてしかも感じてイっちゃったのがわたしだけでなくって・・・・・。」
そう思わず本音を漏らした悠子に涼子は少し笑みを浮かべながら「でもね、淫らな事されちゃったのはあなたとわたしだけでなくってどうやら他の同期の研修生全員そうみたい・・・・・。」と言った。
「えっ?そうなの?。」
「そうみたいよ、あのね・・・・・。」
涼子が言うのにはさっき紗絵とも同じような内容で昨日の事を話しをしたのと自分の隣の純子の部屋からは時折「ほら、もっと女の子みたいな声でかわいらしく喘ぎなさい!。」とか「女の子はね、こうやってイヤらしい事するのよ。純子ちゃんも早く女の子のするエッチな事をしなさい!。」等とキツく言われる声がしてその度に「許してくださいお姉様ぁ・・・・・。」などと純子が言う声と一緒によがり声や喘ぎ声が聞こえてきたのだそうだ。
そう言っていると「ほらさっさと歩きなさい。朝食の準備に間に合わないじゃないの!。」と言われながらピンクのメイド服姿の純子が嫌々指導役の社員に首輪に繋がれたリードを牽かれて現れた。
「は、はい・・・・・申し訳ありません・・・・・。」
「まったくこの子は見習い女子のくせしてメイクされたりメイド服着るのを嫌がったりしていったいどう云うつもりかしら?。女としての自覚が足りないんじゃないの?。ねえ、純子ちゃんは女なんでしょ?。どうして女らしくできないのかしら?。」
「すみません・・・・・わたしこれからは女らしくします・・・・・。」
「ねえ、他の同期の研修生はもうみんなちゃあんとメイクしてかわいらしいメイド服着てお仕事してるじゃない。純子ちゃんもさっさとやんなさい!。できないならお仕置きよ!。」
そう怒鳴られている純子を遠巻きに見ていると穂波がやって来て「ほら、手を動かしてないと森野さんだけでなくてあなたたちもお仕置きされるわよ。」と諭すように言う。
「でもあたしもだけどみんな昨夜は疲れているのに無理やりお姉様方に”手ほどき”していただいてそれで朝になったらメイド服を着てお仕事だもんね・・・・・。なかなか大変だわ・・・・・。」
「えっ?”あたしも”だなんてもしかして園田さんもやっぱり・・・・・。」
穂波の意外なつぶやきに悠子は思わず反応してしまったが、当の穂波は特に身じろぎもせず「そうよ。あたしもみんなと同じように同室のお姉様方にとっても可愛がっていただいたの。でも正直やっぱりお姉様方って”女の扱い”に慣れてらっしゃるみたいであたしとっても気持ち良かったわ、ふふ。」と平然と言ってのけた。
「あら、朝から言うセリフじゃなかったわね。ほらお仕事しましょ。」「そ、そうね・・・・・お仕事しましょ・・・・・。」
そして朝食の準備が整うと悠子たち新研修生は会場の入り口で横一列に整列して「お姉様、おはようございます。」とお辞儀をしながら朝食を食べにやってきた社員たちをお出迎えしたのだった。
女子社員たちの反応は様々で特に気に留める事なく素通りして中に入っていく者もいれば反対に「あら、新入りちゃんたちね。かわいいー。」などと言いながらまるで「品定め」をするように研修生たちを上から下まで舐め回すような目線でジロジロ見ていく者もいる。
その舐め回すような目線に彼女たち先輩社員はきっとレズビアンとしての相手、いや「獲物」を探しているのだろうと感じずにはいられなかった。
(つづく)
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