(連載小説)息子が”ムスメ”に、そしてパパが”ママ”になった日③
みどりの発案でひょんな事から息子の陽翔の七五三の記念写真を「女装姿」で撮る事となり、着替えるのを控室で待っていた翔太をお店のスタッフが支度ができたと呼びに来た。
「お待たせしてすみません。でもあたしもさっきまでメイク室に居たんですけど陽翔君ってすっごく女の子用の着物が似合っててかわいいし、もうすっかり気持ちも”女の子”になってますよ。うふっ。」
「はあそうなんですね・・・・・。陽翔が女の子ね・・・・・。」
とスタジオに向かう途中に歩きながら迎えに来たスタッフにそう言われたものの翔太の心の中には「なんでわざわざ陽翔が女装して女の子の恰好をしなくちゃいけないんだ?」と云うくすぶった思いが残っているのかつい生返事をしていた。
「小倉様のご主人が入られまーす!。」「はーい!どうぞー!!。」
そう言われ再びスタジオに戻った翔太の目の前には信じられない光景が広がっていた。
「え?・・・・・この子が、は、陽翔?・・・・・。」
そこには赤い着物を着せられ、ウィッグをアップに結って大きな髪飾りを付けてもらい、しっかりと人生初のメイクをしてもらった「七五三を迎えた着物でおめかしをした女の子」がいる。
しかも幼稚園で仲良しのあの沙紀ちゃんに負けず劣らずのかわいらしさで着物がよく似合っているだけでなく、かわいらしいのはもちろん全く女の子としての違和感がない。
「この子って・・・・・は、陽翔だよね?・・・・・。」
「そうなのー、すっごく着物似合っててかわいいでしょー。もっともこの子はぁー、今は陽翔じゃなくて”はるみ”だけどねー。うふふふっ。」
「は、”はるみ”って何?。」
「だってぇー、こんなに着物が似合っててかわいい”女の子”が”陽翔”だなんておかしいでしょー。だから名前も女の子らしく”はるみ”にしたの。ねっ、は・る・み。そうよね?。」
翔太は訳が分からなくなってしまっていた。
目の前の「着物姿のかわいらしい女の子」はどうやら女装した陽翔らしい。
しかしこれが男の子の陽翔なのかと思わずにはいられない位メイクやヘアメイクのせいもあるにしても完璧なまでに「女の子」にしか見えない。
そしてみどりはこの「着物姿のかわいらしい女の子」を陽翔でなく「はるみ」と女の子風の名前で呼んでいる。
そして訳が分からなくなってキョトンとしている翔太を見たみどりが「ほらぁー、はるみぃー。パパにご挨拶しなさぁーい。」と目の前にいる「着物姿のかわいらしい女の子」を諭すと「パパ・・・・・あ、あたし・・・・は、はるみだよ・・・・・。」と恥ずかしそうにその子は言う。
更に訳がわからなくなっている翔太を尻目にみどりが「ねえねえ、はるみは男の子?、それとも女の子?。」と言いだした。
「は、はるみは・・・・・、お、おんなのこなの・・・・・。」
「あらぁーそうなのー。はるみは女の子なのねー。」
「う、うん・・・・・あたしはお、おんなのこよ・・・・・。」
「そうよねー、はるみはお着物着てメイクしてもらって女の子になっちゃったのよねー。」
「そ、そうなの・・・・・あたし・・・・・お、おんなのこになったの・・・・・。」
そう少しぎこちないながらも自分の事を「あたし」と呼び、そして「おんなのこ」だと目の前の「はるみ」は言う。
そしてまたその姿は女物の着物がよく似合っていると云う見た目だけではなく、気持ちもすっかり女になってしまっているようだった。
メイクと着付けを担当してくれたお店のスタッフの萌香が言うのには特にぐずりもせずにちょこんとメイク台の椅子に座っておとなしくメイク・ヘアメイクをされるのに応じ、メイクを終えてウィッグをかぶり「女の子の顔」になった自分を鏡で見てキョトンとしていたらしい。
そしてそのままウィッグをアップに結い、今着ている女物の赤い着物を着せてもらい、帯を締めて着付けができあがり改めて鏡で「女の子になった自分」を見てもらうと引き続きキョトンとしながらもしげしげと鏡に映る自分を見つめていたと云う。
「女物に着替える時って結構ぐずったり嫌がったりするお子さんもいるんですけど、はるみちゃんってとってもお利口にしてくれてて私もとってもお仕度がやりやすかったです。」
と萌香が付け加えるように教えてくれたのだが、自分の顔に色のついた人工物が乗せられ、またそれには化粧品独特の「匂い」や初メイクという事で今まで感じた事のないはずのねっとりとした感触があるのにも関わずおとなしく黙ってメイクや着付けに応じていたと云うのが信じられなかった。
只々こうして驚くばかりの翔太をよそにみどりは先程からずっと目を細め、「女の子」になった陽翔、いや「はるみ」をうれしそうに見ながら「ねえ、パパ。はるみにね、あたしが”お着物着てみてどう思った?”って聞いたの。そしたらなんて言ったと思う?。」と言う。
「どう?って、よく分かんないけど・・・・・。」
「あのね、なんと”あたし沙紀ちゃんみたいになっちゃった”って言ってたのよ、うふふっ。」
それを聞いて翔太は少し合点がいった。
つまりやはり陽翔は沙紀ちゃんに日頃から密かに想いを寄せていて、その沙紀ちゃんのかわいらしい着物姿を見てどうやら「萌え」ていたようで、こうして自分もメイクをして着物を着せてもらい、女の子としてまるっきり違和感なくかわいらしくなった事で自分が想いを寄せている沙紀ちゃんに近づけたような気分にどうやらなっているみたいだった。
その上みどりは女装して「はるみ」になった陽翔に「着物着て沙紀ちゃんみたいにかわいくなったわね」とか「この赤いお着物ほんとに沙紀ちゃんみたいによく似合ってる」と褒めちぎり、お仕度をしてくれたお店のスタッフも同様に「かわいいー」とか「女の子の恰好がほんとよく似合ってる」とみどりと一緒になってヨイショするものだから悪い気がしていないのだろう。
そしてそのまま先程の羽織袴姿の時と同様、店内のスタジオで撮影タイムとなった。
女装して「はるみ」になった陽翔はまず「女の子」としての単独ショットを撮り、その後で翔太とみどりを交えての家族写真の撮影となったのだが「はるみ」は相変わらずおとなしくしている事もあり、スムーズに撮影は進んでいった。
それにしても「はるみ」を見るみどりは本当に嬉しそうで「やっぱりこの子は女の子の恰好の方が全然似合ってるー!。」とか「はるみって沙紀ちゃんに負けず劣らず着物が似合っててかわいいー!。」と半ばはしゃぎながら撮影タイムを楽しんでいる。
そしてみどりは翔太に「ねえねえパパ、パパもはるみの着物姿ってほんとうにかわいくっていいでしょー?。」と同意を求めるように聞いてくる。
「うん・・・・・まあそうだね・・・・・。確かにかわいいし、沙紀ちゃんとあんまし変わらないよね。」
そう我が子の女装姿に複雑な思いを抱きながら翔太は生返事をしていたのだが、みどりに感化された訳でもないものの陽翔が着物女装をして「はるみ」になった姿を見ているとまんざらでもないような気分になっていた。
恐らく陽翔がワンピースやブラウスなど普通の女の子用の子供服を着て女装をしていたらそんな気分にはなってなかっただろうし、翔太自身もやはり着物女子を見るのが好きだからこそ我が子の着物姿は例えそれが女装であったとしても悪い気がしないのだろうと感じていた。
それはもちろん女装とは言えまるでこれが元は男だとはどうみても思えないレベルでちゃんとした「七五三の女の子」に仕上がっているのが大きいのだが、これだけ似合っていて可愛らしいのであればお店の人が言っていたように「今日だけの”コスプレ”」と云う事ならまあこれもアリかなと思いつつ、段々と翔太の心の中では陽翔の女装姿に対しての嫌悪感は消えていた。
ひと通り写真を撮り終え、モニターでさっき撮ったばかりの画像を見ながらプリントアウトして台紙にセットしてもらうのはどのカットがいいかを「品定め」していると萌香がこの中から何枚かプリントアウトして先程見せてもらった「MTF」と表紙に書かれていた女装子の写真ばかりを集めたアルバムに貼らせてもらいたいと言ってきた。
「はるみちゃんって女装して本当にかわいくなっちゃったし、とってもお着物も似合っててこれが元は男の子だなんて絶対思えない位女の子にしか見えないんで是非お店のサンプル用のアルバムに貼らせて貰えませんか?。」
「あらーそんなー萌香さんお上手ねー。でもあたしも同じようにこの子が元は男の子だなんて絶対思えない位女の子らしいって思うんで是非サンプルに使って下さいね。あはっ!。ねっ、パパもいいでしょ?。」
と萌香に陽翔の着物女装の写真をサンプルとして店のアルバムに貼る事を提案されたみどりは全く異論ないようでノリノリで承諾し、翔太にも承諾するように勧めてくる。
「まあこれだけ女の子の恰好が似合ってて可愛いし、それにこれだけ着物姿がハマってるんだから仮に誰か陽翔の事を知っている人が見てもこの”女の子”が実は陽翔だなんて分からないよな・・・・・。」
と思った翔太は「まあ、いいですよ。多分この女の子の恰好をした子がうちの陽翔だなんて分からないでしょうから。」と言い、サンプル用のアルバムに陽翔の女装写真を貼る事をOKした。
こんな感じで撮影は終了し、プリントアウトしてもらうカットも選び終えて和やかなムードの中でひと息つきながら淹れてもらったコーヒーを飲んでいると再び店主の綾乃がやってきた。
「小倉様、先程私も息子さんが女装して可愛くて着物のよく似合う”女の子”になったお写真を拝見しましたが本当にどこからどうみてもこのお子さんが実は男の子だなんで信じられませんねー。」と綾乃も陽翔の女装姿を手放しで褒めちぎる。
そして「そう言えば当店のこのBプランはお子様だけでなく、親御さんや付き添いの方用としても1着お着替えが無料で付いておりますが、まだ奥様はお召し替えされておられませんね。折角ですからお召し替えなさいませんか?。」と聞いてくる。
「その件ですが・・・・・店長さん、ちょっと私・・・・・ご相談があるんですが・・・・・。」
と綾乃に衣装チェンジを勧められたみどりは何やら意味深な表情で「ご相談がある」と切り出した。
「はい、”ご相談”とは何でございますでしょうか?。どうぞ遠慮なくお申し付けください。」
「あの・・・・・大人がもう1着衣装チェンジできるって云うのをあたしじゃなくて主人に使ってもらおうと思うんですがいいですか?。」
へ?、俺が衣装チェンジするってなんだそれは?・・・・・、とこれまた全く聞かされていなかった突発的なみどりの申し出に横で聞いていた翔太は思わず振り向き、そして少し声を上げてしまっていた。
しかしそれを聞いた綾乃は全く気にする事なく「あら、それは全く問題ないですよ。是非ともご主人もお召し替えくださいね。だけど奥様の方こそ滅多にない別の衣装にお召し替えできるチャンスなのにそれは構いませんか?。」とあっさりと言う。
「いえ、あたしはこの薄緑色の訪問着が着られて大満足ですから逆に脱ぎたくないくらいです、あはっ。じゃあお言葉に甘えて主人にお着替えしてもらいますね、うふふっ。いいわよね、パパ?。」
そう満足そうに微笑みながら同意を求めてくるみどりだったが、折角プランの中に大人用の衣装チェンジの費用も入っているのならそれは使わないと勿体ないと思ったし、特に断る理由もないので翔太は着替える事をOKした。
「あら、そう。じゃあ気持ちが変わらないうちにお衣装を選びに行きましょう。あたし付いていってあげるね、ふふ。」
そんな撮影用の衣装を選ぶのにわざわざ嫁に付いてきてもらって一緒に選ぶ必要もないだろうと思ったが、逆に付いてこないで欲しいと云うのもなんとなく不自然だし、それに着替えまで一緒にする訳でもないだろうからいいだろうとそれについては翔太は何も言わなかった事もあり、まだ女装したままの陽翔も連れて衣裳部屋へと向かった。
「俺が衣装チェンジね・・・・・ま、いっか。でも何を着ようかなー。結婚式以来のタキシードかなー、それともみどりも陽翔も着物だから俺もそれに合わせて紋付袴にでもするか・・・・・。」
そう思いつつ衣裳部屋に向かう翔太にはみどりや陽翔だけでなく、綾乃と萌香も付いてくる。
綾乃はここの写真館の店主だし、萌香はこの記念撮影の担当スタッフだから別に問題ないのだが、随分と大勢で衣装選びを手伝ってくれるんだなと思った。
男物は女物と違ってそんなにバリエーションもないだろうし、色柄だって女物のそれとは全然比べ物にならない位少ないから選ぶのに困る事はない筈だがなんでだろう?。まあ俺が訳も分からずあれこれとお店の衣装を触ったりされると困るんだろうと心の中で解釈しているうちに衣裳部屋に着いた。
「さあーて、さっさと衣装を選んで着替えるとしますか・・・・・」
と男物の衣装が置いてある方へ行こうとしたその時、みどりが綾乃にいきなりこう言いだした。
「ところで店長さん、主人はこれからお着替えする訳ですけど衣装は別にサイズが合ってればなんでもよろしいんですよね?。」
「はい、もちろんですよ。それにどれをお選びいただいても料金は変わりません。」
「そうですかー。だったら折角なんで今日は主人にも訪問着か付け下げを着てもらおうと思うんですけど構いませんか?。」
そうみどりが言うのを聞いた翔太は思わず耳を疑った。
「今みどりって”主人にも訪問着か付け下げを着てもらおうと思う”って言ったよな?。男物の着物に訪問着や付け下げってあったっけ?・・・・・。」
と翔太が驚いていると綾乃は「ええ、ご主人が訪問着をお召しになれられも全然構いませんよ。もちろん当店のスタッフが着付けやメイク・ヘアメイクもさせていただきます。」とまたまた事も無く慣れた口ぶりで言う。
え??・・・・・お、俺がこれからほ、訪問着を着るだって?・・・・・。
それに「着付けやメイク・ヘアメイクもさせていただきます」ってなんだ?。まさか陽翔だけでなく、俺も女装させるのか???・・・・・。
と翔太にとっては更に耳を疑うような事を言っている綾乃は平然とした口ぶりで今度は「当店ではご主人が女物の着物をお召しになられて女装姿で撮影されるのは珍しい事ではないんですね。小倉様は先程待合室に置いてあった”MTF”と表紙に書かれたアルバムに全員女性の集合写真があったのをご覧になりました?。あれって女装された男性の方が交じってるんですよ。」と言うではないか。
それで謎が解けた。
待っている最中に見させてもらっていたアルバムにはなぜか「全員女性」の集合写真が何枚も貼ってあったり、またその中でも2枚並べて貼ってある写真のうちなぜかひとりだけは同じ女性であとの人は片方では男性で、もう片方は女性と云う写真がこれも何枚かあったのだが、みんな元は男性だったのが女装をし、女らしい恰好で写真に収まっていたのだ。
「そうなんですね!。子供だけでなく付き添いの大人も女装して女性になってお写真撮ってもらってるんですね!。そういうのっていいなー。」
「そういうのっていいなー」と目を輝かせながら楽しそうに言うみどりだったが、翔太にとってはよその家庭はそうかもしれないが、うちは違うよと言いたくなっていた。
まったくみどりは陽翔だけでなく、俺にまで女装をしろだなんて何を考えてるんだろう?。それも着物を着ろだなんて・・・・・。
そう思っているとみどりが「そう云うことでパパ、これから訪問着に着替えてお写真撮ってもらいましょう!。着付けもメイクもしてもらえるんだって。よかったわねー。じゃあパパもこれからお着物を着て、今日は家族全員で女になりましょう。ねっ!」と翔太に女装するよう促してきた。
「いや、俺はいいよ・・・・・。女装なんて・・・・・。タキシードやそれか着物がいいなら紋付袴じゃダメなの?。」
「だあめ!。パパはこれからメイクしてぇー、訪問着を着てぇー、女になるの。あたしやはるみとおんなじお・ん・なに。」
一体何をみどりは考えているのだろう?。「家族全員で女になる」だの言いはじめているがとても正気とは思えない。
「小倉様、奥様もそうおっしゃってる事ですしはるみちゃんの時もそうでしたがここはひとつ一種の”コスプレ”と割り切ってご主人も女装されてみてはいかがですか?。当店の技術を以てすればご主人もきっと素敵な女性に変身できる事請け合いです。」
いや「当店の技術を以てすれば」だなんて確かにアルバムの写真を見る限り相当なハイテクニックでどこにでもいる普通の男性を違和感なく美しい女性に変身させてしまうのだろうけど、俺はそんな趣味は無いんだ・・・・・。
そんな事を思いつつ、女装する事にためらいを覚えてブツブツ言っている翔太に今度はみどりが「ねえはるみ、はるみも女の子になってどうだった?。」と話しを女装したままの陽翔に振る。
「うんとね・・・・・なんだかあたし・・・・・かわいくなった気がするの・・・・・。」
「そうでしょー、はるみは男の子から女の子になってとってもとぉーってもかわいくなったーってママも思うのー。だからぁーパパもぉー、あたしたちみたいにメイクしてお着物着てかわいくなったりきれいになったりした方がいいって思うんだけどなんだか嫌みたいなのー。これってどうかなー?。」
と女装した自分が大好きな沙紀ちゃんみたいだと言われてその気になり、まんざらではない陽翔にみどりはとても強引なロジックで話しかけている。
そして綾乃も一緒になって「小倉様、奥様もそうおっしゃってますし是非訪問着をお召しになってみてはいかがでしょう。きっとご主人もはるみちゃんと同じように着物の似合う女性に変身できますよ。私は何人も男性を女装させていただくお手伝いをこれまでしてきましたがきっとお似合いです。」とヨイショも含んでいるのだろうが翔太が女装するのを強く勧めてきた。
「ほら、パパぁー、店長さんもこうやってパパが綺麗になれるってお墨付きくださってるじゃないー。元から女のあたしだってそうそう着物って着る機会無いのよ。だから折角のこの機会に着物着ましょう。ねっ。はるみもなんか言ってあげて。」
と綾乃がそう言うのを聞いて意を強くしたのかますます翔太を女装させるのに乗り気になっているみどりは女装している陽翔にまで翔太に女装を勧めるるよう言い出した。
すると陽翔は「パパずるーい。あたしもさいしょはずかしかったけどおけしょうしておきものきておんなのこのはるみになったのよ。だからママやおみせの人がいうようにおけしょうしておきものきてパパもあたしたちといっしょにおんなになろう。いいでしょ?。」と言うではないか。
なにも自分は「ずるい」事はしていないと思うのだが、こうして女装した陽翔も完全にみどりの肩を持って翔太に女装を勧めてくる。
そう陽翔が言うのを聞いて益々みどりは乗り気になり「そうよ、パパずるーい!。陽翔だって最初は恥ずかしかったのにこの子にだけ女装させといて自分は知らんふりする気なの?。」とまるで女装しないのが悪いみたいな言い方にまでヒートアップしてきた。
そうは言われても自分には女装趣味はないし、わざわざメイクして着付けしてもらって女物の着物を着る必然性はそれがコスプレであっても無いと思う翔太は「いいよ俺は。女になんかにならなくても。」と拒否するように言った次の瞬間、手に激痛が走った。
「痛っ!、イタタタタ!。何するんですか?!。」
見ると萌香が翔太の腕を掴んでひねっており、そしてこう言った。
「ご主人、”女になんか”ってどう云う意味ですか?。このジェンダーフリーが声高に言われてるご時世に今のは女性蔑視じゃありませんか?。あたしそう云うの許せないんですけど。」
まさかお店のスタッフにこうして腕を掴まれてひねられて痛い思いをするとは思っていなかったが店主の綾乃はその行為を咎める事なく、またみどりも「そうよそうよ!。”女になんか”ってひどぉーい!。パパはあたしたち女性を馬鹿にしてるわ!。」と咎めるどころか一緒になって責め立てている。
「いや特に女性蔑視って云う訳じゃなく・・・・・、ただ俺は女物の着物を着るとかそう云うの興味ないだけで・・・・・。イタタタタ・・・・・。」
と苦痛に歪んだ表情のままで言う翔太に萌香は「そうですか?。あたしたち女性を蔑視してないって言うんだったらご自身で女らしい恰好をするのに抵抗はないんじゃないですか?。」と言い、掴んだ腕を放そうとしない。
そして痛くて言葉が出ないままの翔太に「ほら奥様やお嬢様もみんなご主人がメイクして着物着て女になるのを心待ちにしてらっしゃいますよ。痛いのが嫌だったら早く”女になります”って言ったらどうですか?。」と強く迫ってきた。
「うん・・・・・分かった・・・・・俺・・・・・メイクして着物着付けてもらってこれからお、女になる・・・・・。」
こうして腕の痛みに耐えかねてついに翔太は女装する事を承諾したのだった。
(つづく)