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(ミニ小説)「成人式は”カップル振”で」②

「和巳、成人式何着て行く?」

講義の空き時間待ちの昼下がりのキャンパス、男友達ばかり3人で何気なく世間話をしていた時、急に成人式の話になった。

「何着て行くって、スーツにネクタイの一択でしょ。」

「振袖は?」

「振袖ってそんな柄じゃないし・・・・・」

成人式に男子も振袖を着て出席する事が珍しくないこの時代だが、男子が振袖で出席と云うのは全員が全員ではなく、一部のと言うか限られた対象と云う感じもある。

男子の成人式での振袖が増えたのは男性アイドルが振袖を着て撮影会やお正月にメディアに露出することが増えてそれが女子の振袖姿と比べても違和感がないのが一因であったのだが、ある芸能人カップル同士の婚約発表記者会見になんと男女とも振袖で会見に臨んだのはさすがに大反響だった。

お互いが美男美女、いや美女&美女と言った感じで二人で振袖に身を包んだその会見でお互いが惹かれあうきっかけになったのが女性側の「相手(男性)の振袖姿にキュンとしました」と言う発言に女子たちの「あんな振袖の似合うカレシ欲しい」と云う空気が醸成され、その後も何人かが振袖姿で婚約会見をしたり、男子がきちんとヘアメイクして振袖を着るのはある意味「変装」みたいな事もあって逆に目立たない効果みたいなのもあるのか有名人同士の「お忍びでの着物デート」みたいなのが写真週刊誌をにぎわしたりと云うのが増えてきていた。

そうなると「フリメン(振袖を着た男子)」と云うのは、もちろんジェンダーを関係なくおしゃれの表現の一環と云う捉え方もあるがそれとは別に「彼女と過ごす時の晴れの日の衣装」と云う雰囲気が出てきつつあった。

なので「成人式には二人で振袖を着て出席したいです」と云う希望を持つ女子も増え、願い叶って「成人式にカップルで二人で振袖」と云うのは「カレシ&カノジョがいる証」みたいな一種のトレンドとなり「カップル振」と云う言葉まで出来た。

また実際には彼女のいないシングルの男子も「彼女と地元が違うんで式が終わった後に振袖着たままで会うんだよね」と「見栄」で振袖を着てくる人まで現れていた。

和巳が柄じゃない、と云うのは女装とかした事もないし振袖とかにも興味がなかったのと、今まで一度も彼女が出来たと云う事もなく、それどころか女子との恋愛もさほど興味がなく、カップル振なんて云うのは自分とは縁遠い事だと云うところが大きかった。

そうやって男同士で話してた向こうから垢抜けた感じの女子がこちらに可愛く手を振っている。

「おい、あれ今年の学祭のミスコンファイナリストの諏訪あずさじゃないか?なんでこっちに手なんか振ってるんだ??」

「ああ、俺あずさと近所なんだよね」

「近所??」

「そう、あずさは自宅がすぐ近くで3軒隣りのご近所さん同士な訳」

そうしているうちにあずさは待ち合わせでもしていたのか他のイケメン男子が来ると二人でどこかへ行ってしまった。

「和巳おまえあんな可愛い子が近所にいるとはいいな」

「いいって言ってもそんな近所なだけで何もないよ」

(つづく)



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