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(ミニ小説)成人式は”カップル振”で⑤

年が明け、来週に成人式が迫ってきた週末、和巳はバイトを終えて日の暮れた道を歩いて家に戻っていた。

予報通り寒くなって雪も舞い始め、地面がうっすら白くなりだしたので家に帰るのに近道でもある公園を通り抜けていると、目じるし代わりの数少ない公園の電灯がうす暗くそこらを照らす中、ふと見ると若い和巳と同じくらいの年の女の子がベンチに座っている。傘もささずに降る雪でその子自身もうっすら白くなってきていた。

「え、あずさ?」

よく見るとあずさが雪などお構いなくベンチに座っている。

「あずさ、だよね?。どうしたの?こんな雪の中?」

「あ、和巳・・・・・。私ね、フラれちゃったんだ・・・・・。」

「ともかく寒いしうち行こう。」

そう言って和巳はあずさを自宅に招き入れた。

あずさとは家が近い事もあり、小学生のころからお互いの家で子供だけになりそうになるとどちらかの家で過ごす「簡易シッター」ようなことをやってきていたので今でも特にそれぞれの家に入るのはお互い抵抗はなかった。

部屋の暖房をMAXにして、とりあえずタオルで濡れた部分を拭いてもらってその間に温かいウーロン茶を和巳はあずさの為に淹れていた。

「フラれたっていったい?・・・・・」

「例の高校のときからのカレシ、この前から変だなと思ってたの。クリスマスも夕食は一緒できたんだけど、今日急に夜勤のバイト断れなくなってとか言って8時でそそくさと帰るし、初詣も正月のシフトがどうしても代わってもらえなくてとかで私と初詣行ったの3日だし、変だなと思ってたの。」

「うんうん、それで?」

「それでもカレシもバイト忙しくしてるんだろうし、まあこんな日もあるよ、信じてあげなくっちゃって思ってたんだ。だけど私の女友達がクリスマスの日にカレシが女の子といるの遠巻きに見たんではっきりとは確認できなかったんだけどどうもその子の服装が私の感じとは違うとか言ってきたり、メールやSNSの返信も全然遅くなってるし中身も素っ気ないし・・・・・」

「そりゃあずさにとっては心配だよね。」

「そしたら今日カレシに会えないかって呼び出されて、なんだろうと思って行ってみると、ごめん。好きな人ができた、って言われてさ・・・・・」

そこまで一気に言うとあずさは再び伏せて泣き始めた。

「あずさ、とりあえずお茶が入ったからこれでも飲んで温まったら?」

「うん・・・・・そうする・・・・・」

和巳はそう言うと淹れたてのウーロン茶のカップをあずさにそっと渡し、あずさは泣きながらそのウーロン茶を口に運んだ。

その後あずさはずっと自分がフラれたことを和巳に話し続け、和巳はずっとそれを聞いていた。あずさは幼馴染とは言え、和巳にとっては他の男女のカップルのくっついた・離れたと云う事は何の関係もないのだが、こんな雪が降るくらい寒い日に大変な気持ちになっているあずさを見て、何もしてあげられる訳ではないが「昔からのよしみ」みたいな気持ちでとりあえず風邪をひかないように温かくしてあげてそばで話を聞いてあげていた。実際のところそれくらいしか和巳にとってはしてあげられなかった。

ウーロン茶のお代わりが2杯目になるころ「そう言えば家の鍵とか荷物は?」と和巳が聞くと

「それね・・・・・ボーっとして電車に忘れてきたみたい・・・・・。ははは、私ってドジでダメね・・・・・」

「ちょっと待って。電車っていつも乗ってるあの線の?」

「そうよ。どうしたの?」

そう云うと和巳はその鉄道会社のホームページを検索し、「忘れ物センター」の電話番号を調べてそのままスマホで電話した。

電話しながら和巳はあずさに

「あずさ、忘れた荷物っていつも使ってるリュックのような巾着のようなあの分?」

「そうだけど?」

「ちょっと待って。今電車の忘れ物センターに聞いてあげてるから。」

と言ってテキパキと電話をする和巳。しばらくすると

「あ、それかも知れません。ちょっと本人と代わります。あずさ、見つかったみたいだよ。ちょっと代わって。」

と言ってあずさに電話を代わった。中身が何で具体的にどんなものが入っていて、その中にたまたま身分証明書になるものも入っていたのでその内容を電話の向こうの係と確認して自分のものと云う事を証明でき、「ありがとうございます。では明朝受け取りに参りますので。」と言って電話を切った。今日はもうこれから忘れ物センターに来られても対応時間外になるので保管してもらって明日改めて取りに行くと云う事で一件落着したようだ。

「和巳、ありがとう。」

「まあ、電車の事だから少しは詳しいかも。」

「ほんと電車のことになると和巳はちょっぴり違うよね。ふふふ。」

「もう、そうやってまた僕の事からかう」

そんなやりとりをする中でたくさん話せた事や、温まった事もあって少しはあずさの気持ちも落ち着いたようだった。

「あずさ、今日家の鍵なかったら行くところないだろ?。だったらこのまま朝までここに居ていいよ。」

「うん、ありがとう。でも嫁入り前の私に変なことしないでよ。うふふ。」

「変な事ってなんだよ、どっちにしても明日ほらいつもの電車の路線で新駅開業があるから出かけようと思ってて朝早いんでその辺で僕は適当に毛布でもかぶって仮眠するから。」

「シンエキカイギョウって何?」

「今度の新しい駅が出来たのを記念してその日朝一番に記念グッズを売りだしするとか、記念スタンプ押すとかセレモニーって云うかイベントみたいなのするんで押さえとこうかって。」

「へーそんなのあるんだー。面白そうね。ね、私も行っていい?」

「あずさも?まあ、いいけど・・・・・興味ないとおもしろくないかも。」

「まあ行ってみないと分からないし、どっちにしても忘れ物センター行くのにそこの駅通るでしょ。」

確かにこの鉄道会社の忘れ物センターはその新駅を通った先にある。あずさも家の鍵がないと家に入れないのもあるから取りに行かなくてはいけないし、ちょうど新駅開業セレモニーが終わった足でそのまま忘れ物センターに行けば対応時間になる。

「分かった。じゃあ明日二人で新駅開業と忘れ物センター行こう。」

(つづく)





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