(連載小説)秘密の女子化社員養成所㉓ ~玉の輿の研修生・その2~
週明け、穂波は所長室に呼ばれていた。
社外取締役をはじめとしたビューティービーナスの超VIPばかりをここ小瀬戸島の保養所に招待した慰安旅行はつつがなく終了したものの、まさか団長兼会社の顧問弁護士の御船京子が2週続けて宿泊する事になると云うまるで「延長戦」のような思いもよらない展開に幹部ををはじめ社員・研修生もさすがに皆びっくりしていた。
「園田さん、御船先生はねどうやらあなたの事をとても気にいられてあなたとご自分のお嬢様を”お見合い”させたいと思ってらっしゃるの。」
そう言いながら三浦所長は京子から送られてきた釣書と見合い写真を穂波に渡した。
「えっ!?、私が御船先生のお嬢様とお見合いですか?・・・・・。」
穂波はさすがにびっくりし、渡された見合い写真を開くとそこには振袖を着た穂波に負けず劣らずの正統派着物美人が写っている。
「園田さん、あなたお付き合いしている方とかいる?。それか片思いしてる方とか・・・・・。」
「いえ、今は特にどちらもおりません・・・・・。」
「そう。だったら今度の週末は御船先生のお嬢様とお見合いと云う事で進めさせてもらうわね。」
「は、はい・・・・・。」
こんな調子で穂波はまだ研修生の身分ながらこの島でいきなりお見合いをする事になった。
渡された釣書を読んでみるとお相手は穂波と同じ27歳で、司法試験に合格して京子と一緒の法律事務所で弁護士として働いている事が分かった。
趣味は華道と日本舞踊と書いてあり、穂波もこの島に来て本格的に華道を始めてハマりかけていたし、日本舞踊が趣味と云う事なので着物も着慣れた感じでよく似合っているのだろう等とプロフィールを見る限りはまずまず気が合うのではないかと思いつつ釣書を読んでいた。
しかしながら「お見合い」と言っても穂波は自分の性自認は「女性」なのだがまだ性別適合手術を受けていないので戸籍上や医学上は「男性」のままだし、それにお見合いと云う以上は結婚前提で会う訳でそう考えると相手のセクシャリティは一体どうなんだろうと思わずにはいられなかった。
そして穂波以上に研修所上層部の面々は慌しく穂波のお見合いの準備に取り掛かっていた。
会社の顧問弁護士とご令嬢と云うVIPがわざわざ島に二人も来るだけで気を遣うのにそれに加えて目的がお見合いとなればあたふたするなと云う方が無理と言うもので、毎日あれこれとバタバタしながら準備を進めていた。
そして前日の金曜日に京子から三浦所長に電話が掛かってきた。
「もしもしー、御船でございます。明日はよろしくお願い致します。ところで準備の方は順調でしょうか?。」
「はい、せっかくの先生とお嬢様の来館でございますので精一杯こちらもご準備させて頂いているところでございます。」
「それはよかったわ。娘もいただいたプロフィールカードを拝見してとても園田さんに興味があるようで楽しみにしておりますの、ふふふ。上手くいくといいですね。あ、そうそう。おっしゃってた“寄付金”の方も上手くいった暁には充分な事をさせていただきます。ではまた明日。」
と言って京子は電話を切ったが、受けた方の三浦所長は大きくため息をついていた。
「あら、御船先生はなんておっしゃってました?。」
と横に居た山根支配人が大きくため息をついていた三浦所長に声を掛けた。
「ふー、とりあえずお嬢様の方は園田さんの事はプロフィールカードを見る限りまずまず気に入ってくださってるみたい。」
「そうなんですね。まあ園田さんの事ですから失礼な事はしないと思いますから、後は実際に二人が会ってみてどう感じるかでしょうね・・・・・。」
「そうよね・・・・・。でもなんとか上手くいってほしいわ・・・・・。園田穂波ほどの上玉はなかなか居ないし、その分”高く売れそう”だしね。」
「そうですよ、御船先生なら”寄付金”もそこそこはずんでくださるでしょうし、ここを維持するのも何かとお金が掛かりますから会社としても助かりますわ・・・・・。」
実は穂波や悠子がここに連れてこられて女子化させられているのはダメ社員を女子化しながら再教育し、改めて女子社員として会社の戦力になるようにすると云うのもあるのだが、それと同じくらい重要な目的として「花嫁修業」があるのだった。
百合花俱楽部の会員は全員レズビアンだが、それゆえに会員にとっての大きな問題が結婚と出産だった。
同性婚が日本では今のところ認められておらず、またいくつかの自治体では「パートナーシップ制度」なるものを設けて同性カップルの不利益をできるだけ減らそうとしてくれているところもあるが、やはりそれだけでは不十分で根本的な解決には残念ながらなっていないのが現実的にはある。
またレズビアンではあるものの自分の子供が欲しいカップルも居て、その場合は精子提供者から頂いた「タネ」を体外受精して子供を授かり、妊娠・出産と云う方法かもしくは養子をもらうしかないのが実情で、なかなか思うようにはいかないのだった。
そんな中で百合花倶楽部は会の事業として密かにビューティービーナスと手を組んで「子種のある女性」の養成を始めたのだった。
とにかく会員は全員レズビアンで男性と性的に交わる事など考えられない女性ばかりだがそれでも子供が欲しいと云う需要に応える為に、この小瀬戸島での女子化研修に男性としての生殖機能を残したままで可能な限り精神的にも肉体的にも徹底的に女子化させ、性自認や意識、そして性的嗜好はレズビアンとして躾をした上で同時に花嫁修業をさせるプランを編み出したのだった。
女子化させられた社員は性的嗜好は以前のままの女性が好きである事には変わりなく、それでいて性自認や意識の上でも完璧に女性になっていて見た目も髪を伸ばして女らしい髪形にして、加えて整形手術によって外見も女性そのもののまさに「ぺ二クリのある女性」となっている。
それでいて男性としての生殖機能は残されているのだから子供の欲しいレズビアンにとっては願ったり叶ったりなのだった。
百合花倶楽部の会員は大半が社会的地位が高く、またセレブな女性ばかりなのでそれに見合う「女性」を好むことが多く、いずれは医師や弁護士と云った自分の生業を継がせたい希望も強い事からIQが高かったり、高学歴である必要も大だし、性格的にも粗野でなく従順で物静かな「女性」が求められていた。
あくまで「当主」は会員の方で、小瀬戸島にいる社員や研修生はそこに嫁いだ「妻」として家庭に入ると云うイメージでもあり、ジェンダーフリーと言いながらいささか若干古い考え方のような気もしないでもないが、そのような形になるケースが多く見受けられていた。
ただ嫁いでいった先輩社員たちの話を聞くとある程度苦労はするものの、それでも恵まれた家庭に嫁ぐので金銭的や生活面では何不自由する事のないセレブな生活を送っていて、中にはお手伝いさんのいる家庭に嫁いだのでそれほど家事をしなくていいケースもある位だった。
それからまだ同性愛が一般的でないのと、世間体もあるので実は男性と結婚した風に装っている「仮面夫婦」の会員も結構いるのだった。
相手の男性は実はゲイなのだが対外的に「ご夫人同伴」を各種の会合で暗に求められたり、政治家だと選挙の際に内助の功や夫人を大切にしているところを演出して女性票の獲得につなげたいと云う思惑があり、それに備えて男女間での結婚をしているふりをする例も実は多いようだった。
一応幸せそうな顔をして結婚式・披露宴は盛大に行い、豪華な新婚旅行に行くのだがもちろん夜は一緒に寝たりはせず、帰ってからも一応同居はするけれど寝室は別々だし、何か対外的に求められた時だけ人前で夫婦のふりをするだけで実は籍も入れていないケースも多々あった。
そう云う環境下で暮らしながら百合花俱楽部を通じて女子化社員とお見合いをし、めでたく今度は見た目や性自認は女性だが戸籍上は男性のままの女子化社員・研修生と晴れて正式に入籍するのだった。
また住むのにこれも世間体を気にしてお互いがレズカップルと云う事は伏せていとこ等の親戚の女性が同居していると云う事にしておき、「旦那」は単身赴任したとか仕事が忙しいので会社の近くに毎日泊まり込んでいる等の設定にして追い出し、実質上女だけで結婚生活を送っているのもままあった。
もちろんそのうちに幸いに妊娠して子宝に恵まれる事もあり、ただ生まれてきたのが男の子の場合はカップルによってはその子を早くから女装させ、女の子として自覚を持たせて育てている場合さえあるなど徹底して男性を排除している家もあるようであった。
「このあたしがお見合いか・・・・・はあ・・・・・。」
そうため息をつきながら穂波は何度も京子の娘のお見合い写真と釣書を見ていた。
ため息をついてはいたがお見合い自体に後ろ向きな気持ちがある訳でないものの、まだ自分は研修生でもあり研修自体も3ヶ月近く残っているのと、得意のバイオ分野の知識と経験からここのところ研究部門を手伝う事も増えてそちらも面白くなってきていた事もあり、結婚と云う事に穂波にとってあまり実感が沸かないのが実感としてあった。
「ま、どちらにしても顧問弁護士の御船先生のお嬢様がお越しになる事でもあるし、とにかくこの島で楽しんで頂く事を心掛けましょうか。」
そうつぶやいた穂波はそれからも三浦所長はじめ各部門の上司や指導教官役の社員と毎日「特訓」を重ねながら遂にお見合い当日を迎えた。
穂波は朝から髪をアップに結ってきれいにメイクを施され、お見合いらしく華やかな感じで出身地の銘品でもある加賀友禅の白を基調とした振袖を着付けてもらい、京子と娘の到着を待っていた。
VIPの来館と云う事で先週同様に悠子たち研修生もお出迎えに駆り出されていたのだが、最前列で幹部たちに並んで京子と娘の到着を待つ振袖姿の穂波はひときわ美しく輝いて見えた。
「御船先生がご到着です。皆さん最敬礼でお出迎えをお願いします!。」
その掛け声と共に迎えの車から京子と娘が降りて来ると、全員で恭しくお辞儀をしながら二人を出迎えた。
「先生、お嬢様。ようこそお忙しい中遠路はるばる小瀬戸島にお越し頂きありがとうございます。」
そう言いながら三浦所長と穂波が京子の元に近寄ると、その傍には顔立ちの整った美しい女性がいた。
「いえいえ、わざわざお出迎えありがとう。あらー園田さん、今日はお振袖をお召しでまた一段とお美しいわねー。こちらがうちの娘のさくらです。」
そう京子が傍にいる娘を紹介すると「はじめまして。御船さくらです。今日は小瀬戸島に来るのを楽しみにしておりました。では後程。」と品のある穏やかな喋り方で挨拶をすると山根支配人の案内で保養所棟へと向かった。
「あの方が穂波のお見合い相手なのね・・・・・。だけどとてもきれいな方・・・・・。」
と悠子は紗絵と顔を見合わせてそう言った、と云うか言わずにはいられない位ずばぬけた美形の顔立ちに加え、スタイルもいいさくらに「良家のお嬢様」感を悠子や紗絵だけでなく周りにいた全員が同じ様に感じていた。
部屋に荷物を置くとさくらと京子は洋服からお見合いと云う事で着物に着替え、三浦所長と穂波の待つ保養所内の景色が良く見える部屋にやってきた。
「きれい・・・・・。」
お見合いと云う事で「さくら」と云う名前にちなんだのか淡いピンクの総絞りの振袖を着たさくらは元々の美形を更に引き立てるようなとても美しい振袖姿で同じく淡色系の色合いでまとめた訪問着姿の京子と一緒に現れた。
「御船先生もですがそれと同じ位さくらお嬢様はとてもこのお着物がお似合いでございますね・・・・・。」
と三浦所長も半ばため息をつきながら言う位の美しい振袖姿のさくらはにこやかに会釈をしながら席につき、お見合いは始まった。
「はじめまして。園田穂波でございます。今日はお忙しい中遠路はるばる小瀬戸島までお越しいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します。」
そう挨拶する穂波に対して「御船さくらでございます。はじめまして、と言いたいところですが実はわたくし園田さんとは初めてではないんですよ。」とさくらは言う。
はて?初めてではない?・・・・・。どこかで会った事があるのだろうか?・・・・・。
そう言われ記憶を辿る穂波だったがピンと来ない。自分自身は割と記憶力がいい方だと思うし、加えてこれほどの美形だったら少なくとも記憶の片隅には残っている筈だと思うもののやはり思い出せない。
小難しい顔をして記憶を辿る穂波を見てさくらは「無理もありませんわね、お会いしたのは一度だけ、それも大学の卒業式で一瞬だけでしたもの。うふふっ。」とくすりと笑いながら言う。
そう言われ「大学の卒業式」「一瞬だけ」と云うキーワードを元に更に記憶を辿った穂波はそのうち「あっ!・・・・・。」と思い当たる節があるのか小さく声を上げた。
「もしかして・・・・・。」
「そう、その”もしかして”なんです、うふふふっ。」
渡された釣書にさくらの出身大学は穂波と同じ例の超一流の国立大学だと書かれていたのに気づき、大学の卒業式での出来事を思い返してみると目の前にいるこの着物のよく似合うきれいな女性と一緒にスマホのカメラに収まった記憶がよみがえってきた。
「あの日の園田さんって今日と同じようにとってもすてきな和服姿でしたよね。わたくしよく覚えております。」
穂波とさくらが卒業した大学では一般的に卒業式と言えば男子はメンズスーツにネクタイ、女子は袴と云うスタイルで出席する学生が多い中、この大学は伝統的に仮装姿やコスプレで出席する学生も多い事で有名だった。
穂波はMTFトランスジェンダーでありながら学内では無用なトラブルを避けるために中性的な服装・髪形で学生生活を送っていた。
ただ多数の学生が仮装・コスプレで参加するこの大学の卒業式なら女袴で出ても「これってコスプレ」と言えば違和感は無いだろうし、実際に毎年何人もの男子学生が女袴で出席していると聞いていたので思い切って穂波はメイクをし、女袴を着て卒業式に出席したのだった。
当人にとっては「和装」であっても、カミングアウトをしていない周りからは「女装」と受け取られるかもと云う一抹の不安はあった。
だが実際に着てみるとこれまで時々女装子可のレンタル着物店や女装サロンで着物を着ていた事もあり着こなしもスムーズで、それどころかとても似合っていて女学生らしかったので好評且つ「卒業式用のコスプレ」と勝手に受け取られてまったく問題も違和感もなく袴姿で過ごす事ができた。
ただ穂波は成績優秀だったので農学部の学部総代として大勢の前で卒業証書を代表して袴姿で受け取っていた。
それ自体は今年の農学部の総代は男性だけど女学生のコスプレで出席しているのだろうと特に珍しくとも何ともなくそのように周りから受け止められて普通に卒業証書を受け取ったのだが、ところが同じくさくらも成績優秀だったので法学部の学部総代として代表して卒業証書を受け取っていた。
卒業式前には各学部の総代の学生が集められ、簡単にリハーサルを兼ねた打ち合わせと総代全員で集合写真を撮る機会があり、そこでさくらは穂波を目にし、「男子学生」の筈なのにえらく女袴が似合っていると興味を持った。
そして卒業式後の会場で自分と同じサークルの農学部の友人に穂波の事を聞くとたまたまゼミが一緒で面識があると云う話しをしているところに穂波が通り掛かり、呼び止めて一緒に写真を撮ったのだった。
「その時の写真がこれです。思い出しました?。これって園田さんですよね?。」
そう言いながらさくらが見せたスマホの画面には袴姿の穂波とさくらがにこやかに笑顔で写っていた。
さくらはこのお見合い話が持ち上がり、渡された釣書を見てみると相手が「園田」と云う名字であり、また自分と同い年で同じ大学出身と云う事に思い当たる節があった。
小瀬戸島で百合花倶楽部を通じてのお見合いと云う事になれば外見は女性でも戸籍上・生物学上は男性だろうし、そう言えば卒業式の時に共通の友人が穂波はこんなに女袴が似合うけど実は男子学生だと言っていたのも一緒に思い出し、卒業式の時の写真を引っ張り出してお見合い写真と見比べてみた。
「やっぱりあの時の農学部の総代の人だわ・・・・・。」
さくらもカミングアウトはしていなかったが元々セクシャリティはレズビアン寄りのバイセクシャルで、それもあって写真を撮った時は少し穂波に興味を抱いた。
しかし卒業式直後のバタバタした雰囲気の中でそこまで落ち着いて話ができる訳もなく、共通の友人が居るには居たが顔見知り程度だったので改めて穂波の事を紹介して欲しいとは言いづらかったのと、何よりその当時さくらには「カノジョ」が居たのでそれきり沙汰止みになってしまっていた。
穂波にとってもそのさくらの美しくてとてもよく似合っている和服姿はとても印象的だったがその当時穂波は明日香の事が好きだったのでさくらの事は魅力的な女性だとは思ったが連絡先を交換したいとか云う気持ちも特には無く、いつしか記憶の中から薄れていったのだった。
その後穂波は明日香が結婚した事で彼女への恋心もいつしか自然消滅し、それからは特に誰かに恋愛感情を抱く事もなく、就職して仕事が忙しくなったので恋愛どころではなかった上に小瀬戸島で女子化研修を受けるはめになったので余計に恋愛とは疎遠になってしまっていた。
一方のさくらの方は弁護士と云う多忙な毎日ではあったが徐々に仕事にも慣れ、余裕が出てきた中で周りの同世代の友人や親戚が一人また一人と結婚・出産するのを見て、漠然と恋愛や結婚に憧れや興味を抱く様になっていた。
しかし自分のセクシャリティはレズビアンと云う性的マイノリティ(=少数派)である中で「少数派」の文字通り、ヘテロセクシャル(異性愛者)と比べてどうしても出会い自体の絶対数が少なく、またその中から恋愛感情に発展したり、また結婚相手にふさわしいと思う相手を探すのは更に難しさを感じていた。
出会いを求めて専門サイトに登録したり、ビアンバーにも通ったりもした。
ただ自分が弁護士をしていると知ると堅すぎる仕事をしている堅物だとか思われたり、裕福そうなのはいいけれど逆に「格差婚」になりそうだと敬遠されがちでなかなかいい出会いに巡り合えなかったのだった。
ひとしきり当たり障りのない話をした後で三浦所長が「それじゃあ私たちがいるとお嬢様たちも何かとお気を遣われて話しづらいでしょうから、後は”若いお二人で”。」と言い、京子も「ほんとそうですよね。お夕飯まで時間もある事だし、二人で色々お話ししてらっしゃい。」と言う。
そして三浦所長は穂波に「園田さん、折角だからさくらお嬢様にここの施設を案内して差し上げなさい。」と申し付け、京子と一緒に席を立った。
二人きりになった穂波とさくらの間にはしばし沈黙が包んだが、いつまでもここに居るのも何だったので「あの、よろしければわたくしが館内をご案内しますので参りませんか?。」と穂波はさくらに席を立つように促した。
「ええ、では参りましょう。わたくしも園田さんと二人きりで色々とお話ししたい事もございますので・・・・・。」
そう言うと美しい振袖姿の二人はおもむろに席を立った。
(つづく)