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マーラーとベーゼンドルファー(2)

4部構成の2番目です。1はこちら

同僚秘書の自宅は世田谷の用賀だった。僕が用賀について持っている知識といえば東名高速道路の起点になっている、ということくらいだ。駅まで同僚が迎えに来てくれていた。街並みは上品で歩いている人の佇まいもなんだか優雅に感じる。連れている犬も見たことのないような形と毛並みをしている。

そんな謎の外圧を感じてしまうのもこれから向かうのが「一軒家のホームパーティ」だからだ。なんだよホームパーティーて。そんなの映画でしか見たことないよ。

想像が膨らみ過ぎてバッキンガム宮殿みたいな建物をイメージしていたので到着した家を見たときは少し安堵した。そうは言ってもかねてよりの資産家か、経済的な成功者でなければ所有できないレベルの邸宅であることは無知な若者にも充分理解できた。

邸内に招き入れられると同僚の両親が歓迎してくれた。お父さんが日本人、お母さんは見た感じではほぼ白人だったが娘がクォーターだからハーフなのだろう。ヴィジュアルイメージとしては梅宮辰夫一家に近い。父が梅宮辰夫、母がクラウディア、同僚が梅宮アンナという感じの解釈で差し支えないと思う。若い人は検索してください。

立派な邸宅より、ダイニングに並ぶ美味しそうな料理より、部屋をうろつくやたら毛足の長い2匹の猫より驚かされたのがこのパーティに招かれているのが僕ひとりだったことだ。なんてこった。たくさんの人が集まるパーティのその他大勢の1人として隅っこでワインを飲みながらタバコを吹かしていればやり過ごせると思いきや、まさかの土俵上とは。待ったなし。

ああ、こんなことなら手土産をヴーヴクリコじゃなくてモエシャンドンにするべきだった。4,000円ケチったオレのバカっ。

ここまで来て逃げるわけにも行かず始まった宴はしかし思いのほか楽しく、和やかだった。同僚の両親は娘から僕の話をよく聞いていたらしく、業務で事実上のチームとなっている娘の同僚と会ってみたかったようだ。

それから同僚宅には4度ほど招かれただろうか。1年の内で4度だから結構な頻度で招かれている。若いときの僕はなぜだか大人たちから気に入られた。そんなに好かれたいとも思っていなかったのに。

リビングにはグランドピアノとしては小ぶりな、それでも大きなピアノが置いてあった。鍵盤の上部にはBösendorferと書いてある。コレなんて読むんですか?ボセンドーファー?

「これねぇ、読めないわよねぇ。ベーゼンドルファーっていう名前なのよ」とお母さん。ピアノといえばヤマハとカワイしか知らない僕は「へぇ、そうなんですねー」と気の利かない返事をした。辰夫(仮)とアンナ(仮)は買い出しで外出をしていた。「ねぇ、山田くん…」クラウディア(仮)はスッと距離を縮めてきた。この感じは日本の女性にはあまり抱かないものだ。

「タカハシさんってどんな人なの?」

3につづく

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