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裂けた動脈(前編)

7年前の今頃、僕は病院にいた。期間は10日ほどだったが幼少期に自動車に撥ねられて2ヶ月寝たきりになった以来の本格的な入院だった。

管だらけ。強力な鎮痛剤を投与されているため夢心地

HCU(High Care Unit)、高度治療室と呼ばれる集中治療室(ICU)と一般病室の間に位置付けられている部屋で24時間体制の治療を受けた。「すぐには死なないが目は離せない」くらいの状態ではあったらしい。

病名は上腸間膜動脈乖離(じょうちょうかんまくどうみゃくかいり)と言う滑舌に自信のない人は口にするのを少々ためらう耳慣れないものだが、心臓から各内臓へ血液を供給する比較的細い血管が裂ける、もしくは破れる症状を指すようだ。僕の場合は見せてもらったCT画像で素人目でもわかるくらい、血管壁に大きな剥がれがあった。

治療方法は開腹手術か保存的治療かの二択で、非常に症例も少ないため医師も判断に悩んだようだが保存的治療が選択された。あと少し治療開始が遅ければ生死にかかわる状態だったにも関わらず10日という短期間で退院できたのは開腹手術をしなかったことが大きいだろう。

保存的治療の内容はざっくり言えば「血圧を下げる薬をどばどば流し込んで血管に負担の掛からない低血圧状態にして、その間に血管の自然治癒を待つ」というものだった。なんか地味だな、そんなんで治るのかな、と思ったが医師の気が変わって開腹手術されるのも困るので黙っていた。

血圧を下げる薬は常時かなりの量を流し込まなければならず、腕の血管では太さが足りない。う、う、腕じゃなかったらどこから入れるんすか?太もも?それとも背中?

うすうす気づいてはいたが首だった。人間の身体で外部から最もアクセスしやすく最も太い血管が頸静脈なのだ。首に?点滴を?その極太の針を?刺すの?そして刺しっぱなしなの?

この頸静脈に極太の点滴を刺すという処置が入院期間中、唯一にして最大のハイライトだった。まぁ、首にサクッと針刺しておしまいでしょ。たかを括っていた僕に予想外の恐怖が襲いかかる。

中編につづく

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