相棒 三浦さんの電話番号 男が隠し持っていたもの

「最近、変じゃないですか」
 芹沢の言葉に三浦は返事をした、だが、聞こえていなかったようだ。
 不満ではないようだが、もしかして自分に同意してほしいのだろうかと思いながら、三浦は聞いていた。
 「先輩です、気づいてないんですか」
 ああ、そのことか、何が言いたいのか分かったが、話に乗るようなことはしなかった。
 「支障が出てるわけじゃないだろう」
 そうですけど、返ってきたのは少し不満げな言葉だが、若い芹沢にしてみれば無理な以下もしれないと思った。
 仕事の上で一緒にいる人間の様子が、いつもと違うと感じれば、気になるのだろう。
 理由を知りたいのも無理のないことなのかもしれない。
 先日、三浦は伊丹に忠告、いや、警告のような言葉をかけた、注意しろと。
 犯罪が増える昨今、伊丹が、ある事件を解決したことは所轄内でもかなりの噂になった。
 といっても発端は杉下右京と亀山薫の二人だ。
 だが、完全に終わったという解決ではない、水面下では続いている、それというのも陰で糸をひいていた人間、肝心の首謀者が捕まっていない。
 今後のことを考えると伊丹の名前が公になることで捜査の進展が変わるかもしれない、そして事件は一端、幕を引いた。
 だが、事情を知らない一部の上層部の人間は伊丹を抱き込もう、自分の手駒にしようと声をかけてきた。
 
 後日、見合いをすすめられたが、はっきりと断ったという話を聞いたとき、三浦はほっとした。
 上の人間に気に入られることでメリットがないわけではない、だが、その反面、デメリットもある。 
 使えないとわかったら即座にクビ、いや、捨てられるかもしれない。
 出世、欲の為なら部下の命など、そういう人間もいるのだ。
 
 「あっ、先輩っっ、んっ」
 芹沢の足が止まった、自動販売機の隣で、まるで隠れるように壁に向かって頭を下げている。
 「何してるんですかね、先輩、おーっっ」
 やめとけと三浦は芹沢に声をかけようとした、だが、そのとき伊丹がくるりと壁からこちらへと身体を向けた。

 「なんかあったんですか」
 後輩の言葉に伊丹は別にと呟いた、説明も詳しく話すつもりもないからだ。
 「あんなにぺこぺこ頭を下げて、まずいことでもありましたか」
 ほんの一瞬、むっとした顔で伊丹は睨みつけた。

 これで三回目だ、見合いから一ヶ月、その間、食事でもと自分から電話をした、彼女も承知した。
 ところが当日、待ち合わせの場所に行くときになって、事件が起きた。
 仕方ない、急いで連絡し、謝る、この埋め合わせは次の機会にと丁寧な口調でだ。
 だが、世間ではこんな言葉がある、一度あることは二度ある、そして、二度あることは三度あると。
 このまま三度目の正直ということになったら。
 仏の顔も三度までなどという言葉が脳裏をよぎった、まずい。
 そして今日、つい先ほど、二度目の断り、謝罪の電話をいれた。
 三度目、後はないぞと自分を叱咤する。
 もし自分が田舎のの警察官、いや、警察に勤めていたら、こんなに忙しかっただろうか。
 事件を、いや、犯人を恨みたくなる。
 彼女は気をつけて下さい、怪我をしないようにと気遣う言葉で応対してくれたが、内心は、やはり刑事と付き合うなどと思っているのでは。
 そんなことを考えると不安になった。

 「映画、ドラマの撮影ですかね」
 「さあな、もっと大がかりだと思っていたが」
 三浦の言葉に芹沢は最近は大変なんですよと言葉を続けた。
 「プロもですが、最近はアマチュアや動画配信者の自主映画とか人気有るんですよ、スマホで撮ってupしてるところもあるんです」
 「そうなのか」
 三浦は少し驚いたように芹沢を見た。
 「人気がある凄いですよ、ファンもいますしね、だからじゃないですか」
 自分たちが、こっそりと警護しているのは秘密だ。
 以前、警察署の近くで撮影があったとき、騒ぎがあった、交通渋滞、人が集まりずたのだ。
 大きな事件にはならなかった。
 しかし、署としても危惧したのかもしれない。
 だからといって、
暇だろうといわんばかりに自分達に回ってきたのは。
 事件なんて起きそうにない、だが、何かあってからでは遅いのだ。
 「三浦さんっっ」
 突然、芹沢が声をあげた。
 視線を向けると男が怒鳴るような大声をあげている、それだけではない撮影しているところに腕を振り上げていた。

 男がカメラを持った女性に殴りかかろうとしている、やめろと声と声をかけても無理だろう、そう思った三浦は男の腕をぐいっと掴んだ。
 
 「ありがとうございます」
 「助かりました」
 撮影していたカメラを持った男女が深々と頭を下げると芹沢は仕事ですから、はははと笑いながら自分を見る。
 照れているようにも見えるが、半分はそうではないい、どこか得意げな顔は、もっと聞きたいのだろう。
 日頃、上からも、いや、周りからも聞かされるのは文句が多いせいかもしれない。
 だが、刑事とはそういうものだ、これが警察官なら違うだろう。
 だが、刑事となると敬遠され、煙たがられるような視線を向けられることが殆どだ。
 
 「自分たちは映像、映画が好きなだけでプロじゃないんです」
 カメラ、マイクを抱えていた男女の話しを聞いている時だ、一人の女性が近寄ってきた。
 先ほどの男は彼女に対しても。

 「あ、あの」
 女性の視線に大丈夫でしたかと声をかけようとしたとき。
 「もしかして、めがねの」
 女性の顔を改めてじっと見た三浦だが、次の瞬間、はっとしたように驚いた。
化粧と服ですぐにはわからなかったのだ。

 カメラを持っていた女性が主催の人間らしい、自分たちが刑事だと知ると男のことをもらした。
 サイトにも書き込みをしてくれる、ファンといえば、それまでなんですが。
 妙な言い方だな、そう思ったのは女性が、もう一人の女性の方をちらりと、そして三浦を見たからだ。
 (彼女には聞かせたくない、のか)
 
 男性にはきつく注意する、警察署に連れて行くと三浦の言葉に女性はほっとした表情になった、だが。
 「芹沢、先に行ってくれ」
 トイレだと言いながら、三浦はポケットから手帳を取り出し、電話番号を書きなぐるようにしてびりりと破いた。
 「これ、彼女にも渡していいですか」
 女性の言葉に勿論ですと三浦は頷いた。
 
一通りの注意をすればと思った、きつく注意をすれば普通の人間は素直にいうことをきくものだが、だが、三浦は男の顔、眼を見て、こいつはと思った。
 男が服の中に小型のスタンガンを隠し持っていたからだ。

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