未来犯罪者 男の末路
些細な犯罪を犯していても更生する人間もいる、万引き、痴漢、盗撮、色々とだ、あげればきりがないだろう。
子供のいたずらだと思えるようなことでも、それが回を重ねて大きくなればどうだろうか。
大きな犯罪を犯す可能性もある、遠くない未来に、いや、将来において。
それを未然に防ぐために、これは生まれた。
男の両親は子供が警察の厄介になったときに、この法律を教えられて息子の将来を心配し、この試験を受けることにした。
試験の結果、息子の将来を悲観的なものだった。
だが、救済システムを教えられた、どんな人間でも役に立つことができる、困っている人、国の為に。
両親、親族に金が入るのは前提だ。
このシステムは国内だけでなく、海外にも認知された、だが、公にではない、そして、向こう側の人間が求めた場合、国にも金が入る。
自分はまだ若い、そして親は期待しているだから大丈夫だと青年は思っていた。
だから多少の羽目を外しても大丈夫だと思っていた。
学生時代は友人達と連れだって飲み歩いて女だけでなく、男とも関係を持った。
このとき、性病になったが、両親にばれてしまった。
怒られて数日は落ち込んだが、父親に言われて病院に行き数ヶ月の治療で治ったときは、ほっとした。
二度と馬鹿な事はしないと思い、セックスの相手は慎重に選ぶことにした。
そんな自分に周りがどう思ったのかは分からない、品行方正、つまらない奴になったなと離れていく人間もいた、だが、全員がそうではない。
グレーゾーンの仕事に手を出したのがきっかけだった。
金には不自由はしていなかった、親から十分すぎるほどの小遣いをもらっていたからだ。
自分の力を試したかった、いや、スリルを味わいたかったのかもしれない、警察に掴まって数日が過ぎた。
自分を迎えに来た父親は呆れた顔で見られたときは恥ずかしかった。
「まったく、おまえは」
それだけだった。
普通の親なら殴ったり、罵倒したりするのではと思ったが、父親は自分に手を上げることはなかった。
随分と昔、子供の時、一度、殴られた事があった、だが、そのときだけだ。
何故、自分を叱ったり、怒らないのと聞いたことがあった。
だが、そのとき父親の言葉を憶えていない。
母親の態度の方が印象に残っていた、強かったせいかもしれない。
泣きそうな顔で母は、あのとき母親は、こんなことはしないでねといいながら自分を抱きしめたのだ、力一杯、苦しいくらいに。
だから、そのとき、どんな顔をしていたのか分からない、自分ではない、母の顔だ。
もし、見たら男は驚いただろう。
泣きそうになりながら……ていたのだ。
「おまえも大人になったんだ、あまり馬鹿なことはするな」
笑いながら小遣いだと言って差し出した金額に男は驚いた。
自分は恵まれすぎている、息子を甘やかしすぎじゃないか、そんな自分の言葉に父親は笑った。
「十分すぎるくらいだ、元は(とれている)」
声が小さすぎて聞き取れなかった。
その日、両親が熱心にテレビのニュースを見ていることに男は驚いた。
いや、普段からニュースなどは見ているが、この日は違っていた。
何がというといきなり電話をかけて長く話し込んでいたかと思うと出かけたのだ、二人揃ってだ。
その夜、両親が帰ってきたとき男は驚いた。
両親だけではない、知らない男が一緒だった。
自分を見るなり、見知らぬ男はにっこりと笑った。
目が覚めると自分はベッドで眠っていたことに気づき男は驚いた。
起き上がろうとしたが身体が動かない、首を動かすと点滴らしき管、チューヴが見えた。
自分は病気だったのかと思いだそうとしても記憶があやふやな事に気づいた。
「ああ、気がつかれたんですね」
暫くして部屋に入ってきた医者らしき人間の言葉に尋ねようとしたが、すぐに部屋を出て行ってしまった。
代わりに入ってきたのはスーツの男性だ。
「気分はどうです、今回の移植は肺ですが」
移植、手術、自分は病気だったのかと思った、だが、違いますよと男は首を振るとあなたはと説明を始めた。
「手術は問題なく終わりました、でも患者の様子見で他の臓器も移植しなければならないかもしれません、ですから、あなたは、このまま」
入院してもらいます、その言葉に信じられないと男は首を振った。
あなたは犯罪者ですからと言われて男は驚いた、色々なことをしたでしょうと学生時代からの自分が仲間と一緒になってやった馬鹿騒ぎ、やんちゃな罪状を読み上げた。
レイプまがいの性行を憶えていますか、三年前のことですがといわれて思いだした。
「あれは同意だった」
すると訴えられているんですよと男は書類を見せた。
詐欺行為、マルチ勧誘もしましたね、被害に遭った男性は自殺したんでねす。
「命は助かったものの、障害が残っています、遺族はあなたを訴えたんです、他にも」
交通違反で事故を起こし、友人に身代わりを頼みましたね。
そんな昔の事、過去の終わったことだ、それに自分の代わりに父親が金を払ったのだ。
今更、過去のことをほじくり返すなど、おかしくないか。
「あなたのようなタイプの人間は更生不可犯罪者と呼ばれているんです、つまり社会にとっては不要な存在なんです」
なんだ、それはと男は尋ねた。
「社会に取って役に立たない存在ということです、でも我が国は、そんな人間にも社会に貢献できる救済システムを設立しました、そしてあなたのご両親は賛同し、あなたを」
救済システムに自分の両親が登録した、つまり自分は。
役に立たない人間、息子だと思われたのか。
渡された十分すぎるほどの小遣い、あの金は国から支給されたものだという。
役に立たない人間でもできることとは健康な身体の提供ですと言われた。
「あなたの臓器、血液は健康でした、適応する人間が少なくて」
このとき、男はテレビのニュースを熱心に見ていた両親を思いだした、あれは病気、怪我をした芸能、有名人、日本、いや、海外の。
「国内では手続きに時間がかかるのですが、今回は海外からの申し出でしたので、断る必要はないと判断したのです、それにあなたの両親も喜んでいましたからね、役に立って幸いと」
腹が立った、ここから出たら文句をいうだけじゃすまない、オヤジのやつと文句を言おうとすると男は笑った。
「あなたは犯罪者ですが、身体に罪はありません、これからは」
「ここから出られないのか」
「当然です、何を当たり前のことを、あなたは」
犯罪者なんですよと言われて、男は言葉を失った。