年の差の恋愛未満、男達はもやもやするみたいです 1 池神は彼女が亡くなった事を知る
「新しい彼女ができたの」
飲みかけの珈琲を喉に詰まらせそうになり、誤魔化すように咳こんだ様子に相手は噂になっているわよと小声で囁いた。
「結構、見られているわよ、あなた」
にやにやとした女性の笑顔に、これは知っているなと池神は小さな溜息をついた。
木桜さんの娘だと言いながらカップに口をつける。
すると女は驚いた表情になった。
無言になったことに驚いて、どうしたんだと尋ねてしまった。
「子供がいたなんて驚いた、面倒というか、お世話してるの」
「いや、そういうんじゃない」
池神は一ヶ月ほど前の事を思いだした、明るく自分の名前を呼ばれた時のことを。
誰ですと思わず聞いたのも無理はない、講演会、テレビに出るようになって自分に声をかけてくる人間は増えてきた。
中には親戚だという聞いた事もない名前の人間までだ。
だから携帯、スマホ以外で仕事先、現場での連絡は皆、取り次がないようにと伝えてあるのだ。
だが、電話口で自分が返事をしないでいると。
「春の雨は降ってるー」
と言われて、思いだしたのだ。
後になって知ったが、病院で昏睡状態だったことを知った気は驚いた。
それも数日、数ヶ月ではない。(三年)
「それで、一緒に暮らしているの」
「まさか、あの娘は一般人だよ、もし」
「そうよね、あなたは一応、芸能関係だし、パパ活とか、愛人とか言われたら大変よー」
気をつけなさいよと言われて池上は勿論だと頷き忠告かいと聞いた
「皆が好意的だと思わないで中には恨んでいる人間だっているかもしれない、彼女の高校時代のこと、知らないでしょ」
池神は相手の真剣な顔つきに、言葉を呑み込んだ。
自分は大学の時に知り合ったが、それから数年も音信不通、何も知らなかった、彼女がどんな人間かと聞かれたら正直、はっきりと見耐えられないだろう。
彼女から電話がかかってきたとき、もしかして会おうと言われるのではないかと思った、ところが、一週間後、電話がかかってきたのだ。
弁護士だという女性からだ。
そのとき、彼女が亡くなった事を知ったのだ。
生前の彼女は自分の連絡先を色々な人に尋ねていたらしい。
「あなたをテレビで見たのは運が良かったと仰っていました」
「彼女は何故、私に」
「施設、擁護員の仕事をしていると思ったのかもしれません、娘さんのことを相談する為に」
その言葉に池上は思いだした、以前、現代の子供社会のことでコメンテーターとして意見を聞かせて欲しいと言われて呼ばれたことを。
何か相談したいことがあったのだろうか。
弁護士は頷いた後、困ったといいたげな表情になった。
「実は彼女を沢木良子(さわき りょうこ)さんが身元引受人、保護者になりたいと申し出てまして、自分は彼女に直接頼まれたと言うんです」
池上は一瞬、呆気にとられた表情になった。
「彼女に直接って、それはどういう」
「亡くなった木桜春雨さんにです、娘を世話して欲しいと言われたと」
まさかと思う、すぐには言葉が出てこないまま、しばし呆然としてしまった。
「服飾関係、アパレル会社を経営しています」
最近、TVに出ていましたと言われて池神は、そうですかと頷いたきり、黙りこんでしまった。