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幻獣戦争 1章 滅亡に進む世界――③
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序章 1章 滅亡に進む世界――③
『……………………答して………………れか………………れでもいい…………願い』
微かに聞こえる声に目を向ける。どうやらトレーラーの無線はまだ生きているようだ。俺は横転したトレーラーをよじ登り助手席のドアを開け、無線を握ったまま意識を失っている隊員から無線機を取り上げる。
「乗員は多分全員死んでいますよ」
隊員の代わりに応答し流れるノイズに耳を傾け相手の反応を待つ。数秒の間を持って無線から声が聞こえてきた。
「気のせいかしら? 私の知り合いによく似た声が聞こえるわ」
「気のせいでしょうね。私はあなたを知らない」
声質からして恐らく女性だと思われる交信主はどこか怒っているようだが、俺はあっさりと切り返す。顔が見えないのに相手が誰か分るわけがない。
「そうでしょうねぇ。私の知り合いなら絶対そう答えるわ」
付き合っていられない……逃げるか。
「待って。トレーラーの後ろに戦略機があるわ。貴方の運がよければ動かせるはずよ」
そう無線から手を放そうとして、無線越しに告げる女性の言葉に俺は耳を疑う。自衛軍の最新兵器に乗れと言っているのだ。
「乗ってついでにそこにいる幻獣を倒して帰ってきて欲しいのよ。最低限の教育はうけているでしょう?」
女性はさらに言葉を続ける。戦えと。無論、普通の人間に動かせる代物ではない。戦略歩行人型戦闘機、通称戦略機には適性がいる。いわゆる霊感がある人間、霊力がないと動かせないのだ。
「今それができるのは貴方しかいないわ。私達がそちらに行くにはまだ大分時間が掛かる。貴方がそこにいる本体を倒してくれれば多く人間が助けられるのよ」
俺は無線を握ったまま女性の言葉に耳を傾ける。
「……貴方がどういう理由で逃げたのかは知らない。でも、疲れていたのは何となく気づいていたわ。あの後皆に怒られたもの、止めるなって……」
気づくと俺は無線を放り投げ、その足は後部車両に向かっていた。何をやっているのだろう? 俺はもう戦わないと決めたはずだ。
『ごめんなさい。貴方が知り合いの声に似すぎているからくだらないことを喋ってしまったわ――早く逃げなさい!!』
運転席に備え付けられている無線機越しに避難を促す声が聞こえるが、俺は無視して戦略機にかけてあるカバーを外し、ハッチを開け乗り込んだ。
トレーラーが横転しているせいで戦略機も横になっているが、構わず起動の手順を踏む。電源が入り駆動音と共にOSとFCSが立ち上がり、コックピットモニターに外の映像が映し出される。起動には成功したようだ。といっても少し前までこいつに乗って戦っていたのだ。動かせるのは当たり前で問題はこの後。戦略機は通常稼働の状態では戦車の形態を維持している。人型に形態を変えなければ戦略機は横転したままだ。つまり戦うことも逃げることも出来ない。人型へ形態を変える場合、専用のパイロットスーツを着用したうえで、霊力を行使して搭載されている神霊機関を起動する必要がある。当然、今の俺はパイロットスーツなんて着ていない。万事休すかというと、もう一つ方法がある。そう、言霊(ことだま)を使うことだ。人類が悪しき夢、幻獣と戦うためにもたらされた唯一の魔法(術(すべ))。願い、想いを言葉にすることで発現する力……正確には精霊の力を行使するらしく、精霊がそっぽ向けば何も起きない。
「……今再び、力を貸してほしい。精霊達よ!」
俺は静かに願いを紡ぐ。
《大丈夫――貴方(俺)はまだ戦える!》
次回に続く
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