ハジマリハ深い谷底から 一章 継承者ーー③
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一章 継承者ーー③
「こうしないとあいつの訓練にならないからです。正直驚きですよ。チームを組ませたら必ず勝利する。どう組み合わせてもです」
「必ず勝利する……となると士官学校時代の逸話も本当という事か?」
「それは聞いたことがあります。比良坂が所属したチームは何故か必ず勝利する。でしょ?」
「そう。それだ。眉唾ものだと思っていたが、あながち間違っていないのかもしれないな」
驚き交じりの声で答える私に、草薙さんは期待と興奮が入り混じった声で頷く。正直私が混じっても結果が変わらないのには、驚いたというより恐ろしさを感じた。無論一対一なら撃破できる自信はあるが、好んで戦ってやろうとは思わない。
「神の祝福でも受けてるんですかね?」
「それはわからんが、有能であることは確かのようだな――でっ話してみてどうだ?」
「そうですね。例えるなら風林火山ですかね」
やや興奮気味に聞いてくる草薙さんに、私は腕を組み少し考える素振りをみせ答える。5人の人となりを分かりやすく端的に表すなら、この言葉が一番妥当だ。
「風林火山?」
「ええ。織田と柴臣が共に風と火で小野が林。比良坂は山で徳田は影といったところですかね」
「なるほどな。織田と柴臣が前衛、小野と比良坂が真ん中。徳田が後衛といった感じか」
私の説明に草薙さんは具体的な言葉で咀嚼する。実際5人で動く場合は、草薙さんの言葉通りのスタイルになる事が多い。織田と柴臣がやや暴走気味で、比良坂が上手く手綱を握っているように見えるが、振り回されている部分もある。その辺りは今後私が補強してやればあいつらは最高のチームになるだろう。
「そう言えばあいつらの配属が同じなのは上の意向ですか?」
「いや、どうも裏で仕組んだやつがいるらしい」
素朴な疑問を口にする私に、草薙さんは困った口ぶりで述べる。草薙さんが調べても確実な証拠は得られなかったという事か……
「裏……なら、家柄からして徳田かもしれませんね」
「だろうな。あいつの家系は政財界に太いパイプがある」
私の推測に草薙さんは同意するように補足する。徳田信康。国内屈指の軍事メーカーを持つ、徳田財閥の一族に列なる男。何故そんな人間が軍人で居続けているかは知らないが、味方にすれば頼もしい存在であることは確かだ。
「我々が強請れば階級ぐらい上げてくれそうですね」
「そうだな――この際頼んでみるか?」
「冗談ですよ。どんな理由があるかは知りませんが、徳田には徳田なりのルールがあって、その範疇でやった事じゃないんですかね?」
「今時軍事メーカーの倅が、義侠心に駆られて軍人になるなんて考えられないからな」
冗談交じりに言う私に草薙さんは現実的な言葉を口にする。
「ええ。恐らくあの中で、誰よりも前線の現実を知っているはずです」
「……そうだな」
私の現実味を帯びた言葉に、草薙さんはやや哀しい口振り頷く。そう、知らないわけがない。自企業の売り上げが、軍からの発注数が何を裏付けているか、解らないわけがないのだ。徳田位の歳ならば、身内はその意味を教え説得を試みているはず。徳田はそれを跳ね除けこの場に居る……きっとそのはずだ。