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【湯守の話】4西屋湯守の365日
前回の記事で、白布温泉が非常に湯量豊富であること、その源泉温度が57~58度あることをお話ししました。これを適温とするには、水道だけでは到底賄えない相当量の水を加えなければなりません。
そこで湯守が登場します。
今日は、湯守として日々どんな作業をしているのかをお伝えします。
白布の各旅館では、山を流れる豊富な沢水を温度調整に利用しています。
西屋では、三十三観音付近の沢から引いている消火用水の一部をメインに使用しています。
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手前に立てかけてあるのは水を通すための配管です。湯守のマストアイテム。
その日の気温、天候、昼夜の温度差、沢の水量(水圧)…
山の様相は春夏秋冬日々変化します。その小さな変化を捉えつつ、様々な太さの配管を細かく使い分け水を落とす量と位置を調整する(少しでもズレると温度が激変します)。時には必要量の水を確保するため山へ奔走することもあります。こうして年中調整作業を続け、常に適温で温泉を提供することが西屋湯守の役目です。
季節ごとの様子をご紹介します。
春
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水量は比較的安定していますが、昼夜の気温差が激しいので、時間帯や気象条件に合わせた細やかな調整が必要です。
夏
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年によっては雨との戦い、またある年は水不足との戦いです。
大雨ともなると上流の支流が土砂で止まったり逆に増水で手が付けられなくなったりします。やはり天気予報からは目が離せません。
秋
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秋はひたすら落ち葉との戦いです。メインの水路である三十三観音の沢の取水口は、その季節となるとあっという間に落ち葉で詰まります。当然ながら山へ行く回数は他の季節の比じゃありません。早朝から時には夜間まで足しげく三十三観音に入り、全力で水量を確保します。
冬
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最も過酷な季節です。湯滝風呂は吹き抜けを広く取っているのでどうしても極寒になります。お風呂は熱すぎてもぬるすぎてもダメ。他の季節以上にブレなく「最適」を目指さなければいけません。さらに、ここ白布温泉は県内有数の豪雪地帯。大雪に埋もれた三十三観音の水場に行くこと自体重労働になります。
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沢も完全に雪の下に隠れます。真冬ともなると-15度近くまで気温が下がり、時には沢の凍結や上流の突発的な表層雪崩によって、完全に水が来なくなることも珍しくありません。
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何処にいるのか一瞬分からなくなることもあります。
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夜の森へ入った時の様子。当然周囲は真っ暗です。
冬は、果てしない重労働と細心の作業の連続です。
それでも、決して休むことはありません。
温泉の流れが幾百年絶えることがないように。
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勘と経験だけを頼りに向き合う、温泉と水との言葉なき対話。
懐深い自然の恵みへの感謝、そして湯守としての誇りを胸に、
今日も一人出で湯のほとりを目指します。