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汗をかかない反骨精神──イマニュエル・ウィルキンス来日公演

2022年に発表されたイマニュエル・ウィルキンスのセカンド・アルバム『The 7th Hand』は、個人的にはその年のアルバム・トップ10にランクインするお気に入りだ。早く生で観たいと心待ちにしていた来日公演が実現した。

メンバーたちが入場するときから聴衆もノリノリ。「待ってました」的な。俺と同じ心持ちの人が多かったんじゃないかな。

Immanuel Wilkins(as)
Paul Cornish(p)
Rick Rosato(b)
Kweku Sumbry(ds)

2024.10.18 (Fri) @ブルーノート東京 2nd Set

シンプルなワンホーン・カルテットの編成は、セカンドに劣らず素晴らしい出来栄えだったデビュー作と同様。本人のアルトを機軸とした、引き締まったインタープレイの応酬を堪能した。抽象的なモチーフの反復で雰囲気をつくっていく手法は、ことさら新しくはないが堂に入っている。

ドラマーのクウェク・サンブリーは、デビュー作から最新のサードまで継続して起用されているだけあって、ウィルキンスからの信用が厚いのだろう。彼のプレイがコンボの土台を強靭なものにしていた。リニアな推進力と細分化したリズムワークのバランスが絶妙で、レコードで聴くよりパワーがある。

肝心のウィルキンスはどうだったか。音量はそれほど大きくないが、インプロパートでかなり細かいメカニカルフレーズを延々繰り出すのが印象的。アルト奏者でありながら、コルトレーン~ブレッカーのテナーの系譜にあるのが面白い。ただ不思議なのは、ゴリゴリではなくやけにスムーズなところだ。解像度が高い割にとげとげしくなく、極めて滑らかに流れていく。いかにも新世代といった個性である。

セカンドの『The 7th Hand』のラストを飾る“Lift”は、26分を超える全編がノイジーなフリージャズ大会となっていたが、実はメンバーたちは比喩的な意味で「汗をかいてない」と感じる。今回のライヴのアンコールでもいわゆるフリーをやって会場は盛り上がったが、メンバーたちは燃焼しつつも覚醒していて、まったくもって聴感はクールなのだ。

『The 7th Hand』

アフロ・アメリカンの歴史を見据えたシリアスな創作態度は、先輩のアンブローズ・アキンムシーレに通じる。しかし、抵抗や格闘の熱に身を任せるようなことはしないし、概念や思想に走ることもない。ジャズの反骨精神を継承しながらも、アウトプットの形はあくまで端正で洗練されている。

その意味では、同じアルト系のアンソニー・ブラクストンがやっていたことをメインストリームに寄せているような感覚があった。かっこいいはずだよね。

パーカー、ドルフィー、オーネットといった偉大なアルトの先人たちを彼はどの程度聴いてきたんだろう。エモーションを棚上げにして空間を漂わせるようなフレーズの作曲センスは、ウェイン・ショーターを思い起こさせる。ウィルキンスの音楽のルーツをもっと知りたいと思った。来日を機になんらかインタビュー記事が発表されるといいのだが。

いずれにしても、ウィルキンスは2020年代のジャズを牽引するキーパーソンである。引き続き注目していきたい。

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