ボビー吉野×ARATA「令和の少年隊ダンス論」トークイベント全起こし③「じれったいね」編
②の続きです。
トークイベント、前半戦も大詰めです。当初は1曲についてそんなに長く語るのは難しいのではないか、とおふたりもちょっと心配していたのですが、あれよあれよとマニアックなダンス談義は熱を帯び、盛り上がっていきました。ARATAさんが度肝を抜かれた2曲目に選んだのは「じれったいね」ハンドマイク白シャツver.(正確には真っ白ではなく刺繍などもあり)です。どうぞ!
Text by 高岡洋詞
Photograph by 宮田浩史
3人の織り成すケミストリー「じれったいね」
高岡 ARATAさんの2曲目にいっちゃっていいですか?
ARATA 大丈夫です。「じれったいね」なんですけど、これはすごいですね。全部すごいんですけど(笑)。(再生)音楽がもう、ちょっと違いますよね。シンセサイザーの雰囲気というか。
ボビー これは(筒美)京平先生かな。
ARATA 《AH…》の入りから「かっこよ!」みたいな。ちょっとなんだろ、今っぽいなって感じました。個人的には、音の作り方が。いやー、かっこいいです。ひとつひとつのフォルムの正確さというんですかね、ここでまずつかまれる。(停止)3人のケミストリーじゃないですけども、織り成す美しさってたぶんこれなんだろうな、っていうのが、とりわけ伝わったのが「じれったいね」だなって思っていて。揃い具合というか、美しさがすごいです。フロアに入ってもすぐにまた起き上がるとか、膝を立てる動きがけっこう多いなって印象を受けたんですが。
ボビー まぁそうですね。僕が好きなんですね、きっとね。
ARATA ジャズやバレエのポーズでもあるじゃないですか、男性が膝をつくみたいな。
ボビー 多いですね。これはけっこう、つま先で立ち気味から入るんで、ちょっと大変なんですよ。
ARATA 足の甲ですよね。そこから立ち上がるっていうと、足首の柔らかさみたいな。
ボビー そうですね。
ARATA (再生)この《AH…じれったいような》っていう部分は、音ではなく歌詞をすごく長くとっていく踊り方じゃないですか。そこは何かコンセプトというか、作り方として決めていた部分はあるんですか。
ボビー それはないですね。聴いて、歌詞とメロディの流れで。
ARATA 《KISSをして》のちょっと脚を上げるときの角度の揃いがいいですね。僕はミュージカルを見るのが好きだったんですけど、みんなが一歩下がりながら脚を上げて、顔を正面に向けてまた歩いていくみたいな、整える瞬間ってあるじゃないですか。あれが好きだったりするんで、こういうのを見るとそのフレーバーをすごく感じます。
ボビー 少年隊にはミュージカルの感じは基本的にすごくありますからね。
ARATA なるほど。ここですね、僕が気になったのは。《YOU》(指差す動き)のところ。
ボビー 本当はここもちょっとズレているんですけど、音が。「ズンパーパーパン」っていう音(3連のフィルイン)はオケにあとから入れ込んでいるんです。
ARATA その後の「パーン!」っていう弾ける音、これが気持ちいいです。もう決め技みたいな感じで。
ボビー そうです。振りができてから、そこにあとで音を入れ込んでもらって。
ARATA ダンスの構成ありきで音を作ってもらうっていう。
ボビー もともと(レコードには)この音はないんですよ。
ARATA (停止)もうちょっとスネアが弱かったとか?
ボビー いや、このアクセントがなかったんです。
ARATA あ、そうなんですね。えーっ、じゃあ音楽も作っちゃったみたいな?
ボビー わりとそういうのは多くて、例えば「STRIPE BLUE」もそうなんですよ。僕が振りを付けたイントロや間奏の部分にCDに入っていない音を足したりしていました。
ARATA パフォーマンスに優先度を持っていって、その演出として音を足すっていう。だからかぁ。まんまと感動しているんで(笑)。歌いながら踊るところは、ダンスブレイクのときとは作り方ってやっぱ変わるんですよね。歌っているよなっていうことを意識しながら。
ボビー それはもちろん。
ARATA マイクの位置とか。
ボビー マイクの位置もそうですし、曲の世界観じゃないけど、要するに具体的に歌詞に全部当てていくことはないんですけども、たまに入れたりしながら。
ARATA 作るときはご自身で歌われたりとかするんですか、歌いながら動いたりとか。
ボビー そうですね。
ARATA ボビーさんも「じれったいね」を歌っていたと。
ボビー つけるときは勝手に歌っていましたね。みんなには聴かせないけど(笑)。
ARATA 誰も聴いたことがないんですね。ちょっと気になりますね、逆に。スタジオでひとりで鏡の前で歌っている姿を想像すると「なんかいいな」ってなります。
ボビー そうですか(笑)。
ARATA (再生)たしかに《ZIG-ZAG YEAH-YEAH》(左右に肩を動かしてから胴を伸ばす)なんですよね。ジグザグして、その後に《YEAH-YEAH》で上がっていく感じ。絶妙なバランスですね。
ボビー そう。歌詞に合わせるのと音にはめるのと、外して何もとらないのと、そのへんは意外と自由自在っていうか。あんまり当てはめ当てはめだとだんだん効かなくなってきちゃうので(笑)、そのあたりはあえてとらないで、後でとってみたりだとか、引っかかりみたいなものをつけていく。
ARATA (停止)ダンスのなかに音楽があって、例えば「パンパンパンパーン!」という音があったとしても、意図的にそこをとらなかったり、「パーン!」をしたりしなかったり、タイミングをボビーさんが見計らって振りを作っていくわけですよね。
ボビー そうですね。
「ない音」をダンスによって作る
ARATA 僕たちが感動するタイミングがちゃんと事前に計算されている。見ている人は「すごーい!」(拍手)ってなると思うんですけど、全部もうボビー先生の手の上で転がされている状態ですよね。本当にすごいです(再生)。
ボビー そんなことはないです。例えば今のとこ、全然(ビートが)入っていないですよね。
ARATA (停止)そうですね。《ちがう愛を》のところ、ちがう、ドン、あいを、ドン、となってはいない。ちがう、ウン、あいを、ウン、と何も鳴っていないところでとっていくっていう。音があるところで「パン!」とか「ドン!」と強めのことをするのではないんですね。
ボビー 自分で音を出すっていうイメージです。
ARATA これってたぶん、ストリート寄りの考え方なんですよ。今の時代も、スタイルによるとは思いますけど、振付を作っている方たちって音を聴いて「この音があるからこの動きをする」っていうアプローチをとることが多いんです。(ビートが)ないところで(動きを)生み出すっていうのは、例えばフリースタイルで踊っていたりとか、知っている曲で自由に踊ることに慣れている人があえてやることだったりするので、ない音をとろうっていう意識がすでにすごいことというか。
高岡 ない音を作るっていうことですね、ダンスによって。
ARATA そうです。でも適当にがむしゃらにやるんじゃなくて、その前の軌道から「これ成立するよね」っていうことをやっているんです。今の、ちがう、ウン、あいを、ウン、の、前に行って、後ろに行って、っていう動きにそれがあるっていうお話でした。
高岡 ダンスは物語ですね、そう考えると本当に。
ARATA (再生)本当にそうですね。どう作るかは振付師さんの物語になると思うので。(停止)やー、すごいです!
ボビー ここで一個はとっているんですけどね、全部。
ARATA あー、そっかそっか。(再生)《カンジてる》のところもすごいですね。この脚のロールっていうか、膝がぐーっと下に入って(左から右へ動く)。
ボビー 深く入って。
ARATA 深いですね。そしてこの抜きというか。うん、いやー、セクシーでござる! この「ダダダダ」で一気にクライマックスに持っていくと。
ボビー そうですね。
ARATA 一気に大きくなりますもんね、動きが。おほほほーっ! すっごい、今の。
ボビー もうこっからジャズの世界にようこそです。
マニアックなアクセントで不意打ち
ARATA 『ウエスト・サイド・ストーリー』ですよね。ダンスブレイクっていうんですか、間奏の「ダダダダ」の後の「フォー!」ってなった後のダンスの脚の高さだったりとか、姿勢もクッと一個上に上がるような感じがあります。「アー」って(踏ん張るポーズに)なったときの植草さんの表情も、目にスイッチ入る感じというか、渋いっすねー。(停止)この足元ですよね。これがたぶんポイントというか、こだわりですよね。
ボビー そうです。そのまま普通に足先をクロスして上げるんじゃなく、その手前に入れています。
ARATA これはやばいです。ヒガシさんの上(半身)のロールの後にアングルが切り替わって、3人が映ったところで、足元を見ていただくと、両方のかかとをちょっとだけ外に開く一瞬があるんですよ。「入れるんだ! そこで」っていう。本当に一瞬、「ワー(大きな動き)、クッ(一瞬の小さな動き)、ワー(大きな動き)」みたいな。不意打ちパンチ。そのあとの脚を上げたときがみなさんの印象に残るんじゃないかなって思うんですけど、その手前で実は「クッ」とアクセントを入れてるっていう。そこにぜひ注目していただけると。これすごいですね。
ボビー かなりマニアックですね(笑)。
ARATA いやー、超マニアックですけど、(視聴者も)これ話していただいたらもう「知っている人だな」って。「これはボビー先生のお気に入りだって言っていたよ」って言ってみてください(笑)。(再生)やー、ジャンプ高いです。華が伝わってくるというか、豊潤ですよね、パフォーマンスが。ちょっと見せる(曲げた右肘に左前腕を添えて右手で花が開くような仕草)。いや、すごいなー。(停止)ここ(両腕を開いて肩の関節を前後に入れて抜く)、ちょっとシルエットにこだわりがあるんですか。
ボビー 肩をわざと……。
ARATA 前に出すっていう。
ボビー ジャズのボブ・フォッシースタイルのニュアンスをちょっとつけていますね。要はわざと猫背にするっていう。
ARATA こっち(肩を引いて胸を張る)がデフォルトだからこそ、肩を入れたときが目立つというか。あえてとりにいくスタイルですね。いや、すごいダンスブレイクですね、本当に。
ボビー はい。
ARATA (再生)あとは表情が皆さん本当に天才的に……あ、今「ダンダンダンダン」(肩をジグザグするところであとから入れた音)ありましたね。
ボビー これも入っているんですね、はい。
ARATA やばい。長くなっちゃうので次いきましょう(笑)。
高岡 すみません、9時になってしまったので、一回休憩を挟んで後半戦にまいりたいと思います。
ARATA あーこれ、全然いけるな(笑)。
ボビー 心配してたんですけどね。
ARATA 1時間、全然余裕ですね。
高岡 取り急ぎお疲れさまです。21時10分に再びおふたり戻っていらっしゃいますので、ご覧くださっているみなさんもお茶など飲んで、前半のお話を整理してみてください。聞いていて思いましたけど、僕自身は全然ダンスができない人間なものですから、なんとなく「うまいな」とかなんとなく「速いな」と思うだけですけど、ARATAさんの解説でものすごく具体的に「この部分のここがすごい」というのがわかりました。めちゃくちゃ細かいところまで大事なポイントがあるんだなって。
ARATA 本当にすごいですよ、びっくりしていますもん、もう。ずっと聞いていたいです。「本当? もう9時なの?」みたいな(笑)。時が経つのが速すぎて。
高岡 ボビーさんもうれしいですよね、きっと。
ボビー そうですね。誰かに気づいてほしくてってやっているわけじゃないんですよ。単純に自分のこだわりで入れているだけのことを、こうしてわかってくれるのはすごくうれしいですね。
ARATA いやぁ、これは伝わっちゃいますよ(笑)。伝わらないほうがおかしいですよ、っていうぐらい。やっぱりダンスに慣れている人ほどわかるものなので、ヒットとかアイソレーションとか細かい動きがわかってくると、もう一回見たときにたぶん全然違うと思います。なんとなく見ているだけでも、この1時間で目が全然違うものになったと思うので、休憩時間にいろいろ見てみてください。
高岡 はい。とりあえずありがとうございました(拍手)。
≫≫≫④へ続きます!
★増刷記念!第2弾トークイベント★
2022/3/26(土)20:00-22:00 @ 本屋B&B
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