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徹底的に「生」で鍛えられた少年隊の怪物エピソード

「令和の少年隊ミュージック論」全起こし⑥

⑤の続きです。読者やリアルタイム視聴者のみなさんからの質問、まだまだ続きますよ! 今回は、2021年10~11月に、ジャニーズ事務所退所後初のソロディナーショーツアーに挑んだ植草克秀さんのお話からスタートです。鎌田俊哉さんは、昨年も今年も植草さんのディナーショーを音楽面からがっつりサポートされています。

12/25(日)~26(月)は待望の錦織一清&植草克秀クリスマスディナーショー大阪公演ですね! https://www.curtaincall.tokyo/futarino_info/

休憩中の鎌田さん。スマホリングがレコード。お洒落!

Text by WE LOVE SHONENTAI編集部
Photograph by 宮田浩史

「人生で今が一番あいつ真面目にやってるのかもしれない」

スージー 静岡県のデカメロンちゃん、ありがとうございます。「植草克秀ディナーショーの制作に関わってどんなことをお感じになりましたか?」
鎌田 植草は少年隊の中では一番サボってた感じってみんな思ってたかもしれないけど、実はポテンシャル高いな、みたいな。あれだけ1部、2部で曲も曲順も変えて、歌って踊ってができちゃって、それを2日連続とかできちゃって。リハーサルもすごい一生懸命やってんですよ。俺なんかにも「鎌ちゃん、ちょっとバンドまとめてよ」って厳しいし。ちょっと悪い言い方をすると、人生で今が一番あいつ真面目にやってるのかもしれない(笑)。
スージー 昔はやんちゃだったかもしんないけど、今はね。
鎌田 昔は「ちょっとサボれるところはサボろう」って感じだけど(笑)。植草は愛らしいというか、好かれるんですよね。根っから明るいし、裏表がなくて単純だし。なんかかわいがられる。ファンからもそうだと思うんです。ダメなとこも見えてるけど、それも全部いいみたいなね。生まれついての愛されキャラなんですよ。ジャニーさんなんかも、よく植草に「You、もう知らないよ、もう。大変だよ、もう。Youヤバいよ」とか言いながらも、かわいがっているという。
スージー 今日、メンバーの人間性とかフラットな制作プロセスについて聞いて、「あー、いいな」って思いましたね。むしろ今の音楽界にないものがすべてあるなって思うんですよ。当時、少年隊は逆に完成されたイメージっていうか、ベルトコンベアで作るみたいにシステマティックにポップスが量産されてるイメージがあったの。だから惜しかったなっていうか、勘違いしてたんだろうと思いましたね、今。
鎌田 そうそうそう。外の人たちはみんな、すごくかっこよく想像してくれてるんですよ。
矢野 そういうイメージありますよ。やっぱり。
鎌田 SMAPなんかもね、実は平成7年7月7日、『SMAP 007〜Gold Singer~』発売っていうの、新聞の一面広告やったんですよ。そんときね、僕、業界の人から「鎌田さん、この日にこれを出す逆算でデビューしたんですか?」って言われたんですよ。「すごいですね、ジャニーズ事務所」って言われたんですよ。「違う、たまたま……」って。
[*編集部註:イベント時、鎌田さんは『SMAP 008』とお話しされていましたが、のちに『SMAP 007』であることを確認したので、内容を修正しました]
高岡 (笑)
矢野 いいですね。名盤ですしね、あれは。
スージー あーー。
鎌田 誰も計算してない。みんな勝手に想像して美しい物語を作ってくれるけど、実際はもう後手後手で、こんなんなって「うわー」ってやってんですよ。
スージー どうですか矢野さん、ジャニーズ研究家として。僕は一素人として、少年隊は完成されたプロフェッショナル、一分の隙もない完璧なものと。に対してSMAPは、どっちかっていうと人間味っていうか、ややズッコケの部分とかもあって……と思っていたんですけど、今聞いたそのフラットな部分とか、みんながアイデア出してその場でハーモニーを付けてる感じが魅力だと思って。そういうのの結果として、少年隊は完成品のように見えた感じが僕はする。どうですか?
矢野 まったく一緒で、僕も少年隊は完成されたもので、SMAPのほうが、もうちょいわちゃわちゃしながら作ったようなっていう印象がありましたね。ただ、どう見せたいかっていう違いでもあるから、結局、少年隊はディズニーランド的、非日常的で、SMAPはもうちょい日常的っていう。シブがき隊はどっちかっていうとSMAP寄りかもしれないみたいな……。
鎌田 そうそうそうそう。
矢野 感じだったんで。トップダウンみたいに思ってたけども、言われてみればそれはただの表に出てきたイメージだから。わちゃわちゃやってああいう曲ができあがってきたっていうのは、うれしい話でしたね。

おそらく3人のなかで一番冷静な矢野さん。『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)の著者。

アイドル嫌いが作ったアイドルソング

スージー なんか鬼川さんが盛り上がってますけど、面白いコメント来てます?
高岡 えーと、これ面白かったですね。「鎌田さんのお気に入りは、『君だけに』『ABC』『仮面舞踏会』の順とおっしゃっていましたが、理由はありますか?」
鎌田 「ABC」は、ああいうメジャーで、循環コードだけで最初から最後まで押しきるみたいなのができた。僕はバンドマンだったから、アイドルとか歌謡曲はやるつもりもなかったんだけど、ジャニーさんに「たぶんダメだと思うけど、(アイドルや歌謡曲が)嫌いなやつがやったほうがいいんだよ」みたいなことを言われてやり始めて、いろいろ話していくうちに……その頃のアイドルって、デビューして3年ぐらいでスーッと消えてたんですよ。5年持ったらよくて。だけどジャニーさんが言ってたのは、だいたい小学校の3、4年生でファンになって、中学2、3年生で卒業してっちゃうのを、「鎌ちゃん、卒業させないようにしたいんだけど」って。
矢野 いいですね。
鎌田 「そうですよね」って。それが僕のテーマになったんですよ、“卒業させないもの”って。それでメジャーの曲を作ろうとか、20年、30年経っても色あせないものにしようとか。(レコードの製造)工場に入る手前まで、ああでもないこうでもないってやってるのは、色あせないものにする努力をしてるというか。
僕は30年近く社長と一緒にやってきたけど、おばあちゃんと娘さんとお孫さんの三代でSMAPのファンクラブに入ってコンサートを見に来てくれているって聞いたときに、ジャニーさんと「なんとかできないかなぁ」って言っていたことができたんだな、って思えて。時間はかかったけども、「卒業させない」っていうことがね。まあ時代がそういうふうになってったことは大きいと思うけど。
矢野 ジャニーズだと先輩の曲を歌い継いだりとかもしますよね。ああいうのも、親子のコミュニケーションになるとか。
鎌田 そうそう、そうですね。
スージー この人(矢野さん)はもう、ジャニーズの歴史をフォーリーブスから追ってますから。
矢野 いやいや。
鎌田 ねぇ。
矢野 初代ジャニーズの渋谷コンサートのジャケットが、カリフォルニアのディズニーランドのジャケットなんですよね。そのときからエンターテインメントなんだなぁって。
鎌田 そうですね、そうですね。
スージー この前、WOWOWで『ウエスト・サイド・ストーリー』の1961年版を見て、「これかー、ジャニー喜多川を動かしたのは」って思いましたね。
矢野 そう。『ウエスト・サイド』はね。
スージー (指パッチンをしながら)これね、うん。
矢野 ありましたからね、これ。「君だけに」とかね、妄想しながら見てる。
鎌田 ジャニーさんはもう『ウエスト・サイド』なんですよ、やっぱり。スティーブン・スピルバーグの見ました?

スージー 見ました、見ました。あれを見て、1961年版を見て。あー、やっぱりこれはアメリカのエンターテインメントだなって。
鎌田 音楽の(レナード・)バーンスタインは、あれ作りながらもう1作、作ってたんですよ、同時に。で、映画のときはもう「じゃ、あとやっといて」みたいな感じで、彼の仲間がやってたんですよ。
スージー あ、そうなんですか。
鎌田 だからすごいんですよ。こっちやりながらこっちもやってて。それがあんな歴史を作るわけだから、すごいんですよ、バーンスタインって。
スージー 「トゥナイト」とか見たらもう、世界で一番美しいメロディだとか思うんですよ。
鎌田 ですよね。
スージー そんな感じだったのね。「こっち忙しいから」って。
鎌田 そう、そんなことなんですよ。

「甘やかさなければ、人間、なんでもできる」

スージー あ、また来た。鹿児島県のデカメロンちゃん。「あれだけダンスしながら歌う少年隊ってすごい」と。「鎌田さんの話とボビーさんのインタビューでシンクロした、少年隊の怪物エピソード。踊れるように曲を作っていない、歌えるように振り付けしていない。なのに歌える、踊れる。あと、モニタースピーカーがないのに、勘と気配で……」。
矢野 それはほんとにすごい。
スージー それを詳しく聞きたいそうです。
鎌田 武道館でコンサートをやったときのことですね。リハーサルが始まりました、バンドもいてやってますと。そしたらメンバーが下に降りてきて、「鎌田さん、あそこで歌ってみてよ。ちょっと俺たち、こっちで聴きたいから」って言われて、ステージに上がってニシキのマイクで歌ったら、なんにも聴こえないんですよ、自分の歌が。モニターがないの。「あれ、あいつらこんなとこで歌ってんの?」とか思って。踊るから邪魔になるし、(客席から)足元見えないからって、スピーカー置いてないんですよ。
スージー はいはいはい。
鎌田 で、袖の向こうの奥のほうでバンドの生音がパーッと鳴ってて、何にも(聞こえない)。勘と気配であいつらやってんですよ。
矢野 それはほんとに考えられないですよね。
スージー もちろんイヤモニもない。
鎌田 もちろん。それで育っちゃってるから、それが日常になってるわけ。それであるとき、ステージにモニターが邪魔にならないところに置けるようになって、自分たちの声が聴けるようになった状態でリハーサルしてたら、ニシキが「すいません、俺の声がそこから出ちゃってんですよ。消してくれます?」って(笑)。
スージー 逆にね、逆に。
鎌田 「あると歌えないのかい」みたいな。だから、そういうことなの。人間は、甘やかしたらどこまでも甘やかされるけど、甘やかさなかったら、どこまでもなんでもできるんですよ。
高岡 『令和の少年隊論』有数の名言、出ましたね。
スージー ちょっとジャニーさんみたいになってません(笑)?
鎌田 SMAPもね、ニューヨークに行ってレコーディングやってて。向こうのレコーディングスタジオなんてのは、ものすごい劣悪な環境なわけ。
スージー そうなんですか? むしろすごい……。
鎌田 すごいと思うじゃないですか。機材なんかも日本のほうがいいし、モニターも普通は日本だと、ヘッドホンして、(テーブルの上を指しながら)ツマミがいっぱい付いてて、ここにリズム、ここに全体のバランス、ここにピアノ、ここに歌、ってバラバラに入れてあるんですよ。ニューヨーク行くとツマミ1個。
矢野 マスターがないから(笑)。
鎌田 で、バッと(ツマミを回して)開けると、「ゴーーー」とかいって、バランスなんか取れてないじゃんって。で、ドンカマだけ聴いてやってんですよ、世界の超一流ミュージシャンが。みんなお互いの演奏を聴いて阿吽の呼吸で弾いてるのかなって思ったら違う。「ゴーーー」っていってるなかで適当にやってるのが、歌心になっちゃってるんですよ。
スージー へー。

「ゴーーー」、ヘッドホンとツマミを再現中。

鎌田 あいつらはそれで育ってるから、その環境で歌心満載な演奏ができちゃってんです。
スージー ビートルズの来日公演(1966年)、PAなしで、歓声で全然(音や歌が)聴こえなかった。でも、音源聴くとわりとハモってますよね。
鎌田 そう。できるんですよ、やれば。だって昔のグレン・ミラーかなんか、戦争中、ラジオ番組で演奏してるけど、ビッグバンドがいて、コーラスがいて、リードボーカルがいて、MCがいて、めちゃくちゃバランスいいんですよ。たぶん、エンジニアが2つぐらいマイク持って……。
スージー LとRだけのね(笑)。
鎌田 だけどその人たちは勘と気配でやって、絶妙な演奏と歌とコーラスになってるわけですよ。少年隊もそう。自分の声があると、「消してくれます?」って。だから慣れって怖いんですよ。
スージー あー。
矢野 すごいですね。
鎌田 テクノロジーが人間の能力を全部奪っていくわけですよ。昔はコンピューターなんかなかったから、めんどくさいこと全部、手でやってたわけでしょ。そんときはすごい高かった能力が、今はアリンコぐらいになってるんですよ。
スージー ロックンロール業界でもね、キャロルが(演奏が)うまい説ってあるわけですよ。
鎌田 うまいですよ。昔の人たちってみんなうまいんですよ。
スージー キャロル、ザ・スパイダーズ、チェッカーズ。人前で数やってると。
鎌田 そう、うまいですよ。
スージー テクニックとかじゃなくって。
鎌田 田原もマッチも少年隊も、全部生でやってたから。今のタレントなんかより圧倒的なうまさがあるんですよ。テクノロジーはね、ダメですよ。
スージー ザ・スパイダーズは当時ジャズ喫茶やライブハウスで1日5公演とかやってて、テクニックは別として、一体感のグルーヴがあったり、モニターが貧弱でも、ちゃんとバンドの演奏ができたっていう、その感じが少年隊と一緒だ。
鎌田 だからそれはうまいってことなんですよ。プロだってこと。
スージー テクノロジーは悪だ(笑)。なるほどなー。

・・・・・・⑦最終回へつづく!

『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)の著書もあるスージーさん。

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