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予防接種とワクチン④ 麻疹と風疹

麻疹は1950-60年代までは、国内で毎年数千人の死者を出していた。
1990年代以降も毎年数十人が死亡していたが、国をあげた麻疹対策により死者数は激減し、2015年3月に日本の麻疹排除状態が認定された。

一方風疹は1990年頃まで5-6年毎に大規模な全国流行がみられていた。感染症発生動向調査では、2007年までは全国約3,000カ所の小児科定点より報告される定点把握疾患であったが、2008年から5類感染症全数把握疾患に変更となり、すべての医師に最寄りの保健所への届出が義務づけられている。

■麻疹の流行

2015年に麻疹排除状態が認定されてからも感染者は報告されている。これは海外由来によるものが多く、2019年は744例の報告があり、ここ最近で最も報告数が多い年となった。2020年は海外への出入りが減った影響か12例の報告のみである(2020/08/09まで)。

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■麻疹の抗体保有状況

日本では毎年、「感染症流行予測調査」が行われている。

感染症流行予測調査:予防接種法に基づく定期接種対象疾病について集団免疫の現況把握(感受性調査)および病原体検索(感染源調査)などの調査を行い、各種の疫学資料と合わせて検討し、予防接種事業の効果的な運用を図り、さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することを目的としています。厚生労働省、国立感染症研究所、都道府県・都道府県衛生研究所等が協力して実施している調査(国立感染症研究所HP)

感受性調査では抗体保有状況が調べられる。

ここで、麻疹の予防接種についてまとめる。
・1966年任意接種開始。
・1978年10月に予防接種法に基づく定期接種となる。当時の定期接種対象年齢は, 生後12か月以上72か月未満であった。
・1989年4月~1993年4月の4年間は, 麻疹の定期接種の際に麻疹ワクチンあるいは麻疹・おたふく風邪・風疹混合(MMR)ワクチンの選択が可能となった。
無菌性髄膜炎が有害事象として報告され社会問題となり、1993年MMRワクチンは販売中止に。
・1995年度から定期接種対象年齢が生後12か月以上90か月未満に変更。
・2006年度から麻疹風疹混合(MR)ワクチンが導入され, 接種対象年齢は第1期(生後12か月以上24か月未満)、 第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間の者)の2回接種となった。
・2008~2012年度の5年間は, 10代への免疫強化を目的として第3期(中学1年生相当年齢の者)、 第4期(高校3年生相当年齢の者)の定期接種が実施された。

社会問題となった当時接種対象年齢だった人はもしかすると摂取を避けているかもしれない。1994年接種義務から勧奨接種に変わったことも影響しているだろう。

2019年度の抗体保有状況をみてみよう(下グラフ)。
測定法について詳しくは割愛するが、PA法と呼ばれる方法で測定している。
1:16(赤)で抗体を有しており、1:128(緑)以上が発症予防の目安とされている。
2歳以降で95%以上が抗体を有しているものの、1:128未満の低い抗体価の人が全年齢におり、排除状態維持のためには注意が必要である。

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■排除状態維持のために

最近の麻疹症例では、ワクチン未摂取、1回のみ接種、接種歴不明の報告が多い傾向にある。
麻疹排除のためには、2回の定期接種率を高く維持する必要がある。また、海外へ行く際には、抗体検査や予防接種歴を確認し、必要に応じてワクチンを摂取する必要があるだろう。

<参考:2019年の流行状況>渡航前のチェックは重要

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■風疹の流行

風疹は発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症で3日ばしかとも呼ばれる。症状はさほどたいしたことはない(重症化例ももちろんある)が、免疫のない女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児にも感染して、出生児に先天性風疹症候群が発症してしまう。

2008年以降の推移を確認する。
2012-2013年に15,000人を超える大規模な流行が起きた。そのため45人の先天性風疹症候群が報告されている。
2014年以降は鳴りを潜めていたが、2018-2019年に再流行し、2019-2020で5例の先天性風疹症候群が報告された。

2020年は8/9までに85例の風疹報告数が上がっている。

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■年齢・性別で風疹の予防接種歴が異なる

自分がどこの年代に当てはまるか確認してほしい。

◎定期接種を受ける機会がなかった年代(未接種)

・1962年4月1日以前に生まれた女性
・1979年4月1日以前に生まれた男性

◎集団接種を受けた年代(接種率高い)

・1962年4月2日から1979年4月1日に生まれた女性

この世代の男性は、女性のワクチン接種による集団予防から、ワクチン接種をしていなくても罹患予防ができていたと思われる。従って、抗体を持っている割合が少ないといえる。

◎個別接種だが接種率の低い年代

・1979年4月2日から1987年10月1日に生まれた男女

この年代は、12歳以上16歳未満の期間に医療機関を受診して風疹ワクチンを個別に受ける制度であった。この年代の接種率は低く、2001年から2003年に定期接種が可能な期間があったが、対象者に伝わらず接種率の上昇につながらなかった

ちなみに私もこの年代だが、このことは全く知らなかった。
予防接種歴も曖昧だったので結婚した後に抗体検査を受けて抗体を保持していることを確認した。

以上まとめたものが下記である。
国立感染症研究所より拾ってきている。

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■風疹の抗体保有状況

2019年度の抗体保有状況(下グラフ)。
こちらは測定法、HI法と呼ばれる方法で測定している。
基本的には1:8(赤)あれば良いが、妊婦健診では1:16(黄)未満で低いと指摘される。

グラフをみると、30歳以上の男性の抗体保有率が低く、特に40-50代男性の保有率が低い

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■第5期定期接種

2018年7月以降の風疹流行を受けて、厚労省は「第5期定期接種」を導入した。

対象は、1962年4月1日から1979年4月1日生まれの男性で2021年度までを期間としている。抗体保有率が特に低い世代だ。

対象となる方にはクーポン券が送られ、これにより抗体検査とワクチン接種が無料となる。(ワクチン接種は抗体価1:8未満が対象)

この制度の目標は2つ掲げられている。

(1)2020年7月までに、対象世代の男性の抗体保有率を85%に引き上げる
(2)2021年度末までに、対象世代の男性の抗体保有率を90%に引き上げる

2020年5月で、抗体検査を受けたのは僅か11.3%、予防接種を受けたのは2.4%ということなので(1)の目標は届いていないのではないかと思われる。

■先天性風疹症候群を防ぐために

何よりも先天性風疹症候群の予防として、国内での風疹流行を防ぐ必要がある。そのためには、社会全体として、抗体検査、ワクチン接種に協力する必要がある。

妊婦さんに風疹ウイルスを感染させない環境を作らなければならない。


<予防接種とワクチン>
① 予防接種法
② インフルエンザ
③ ワクチンギャップ
④ 麻疹と風疹
⑤ ワクチンの組成
⑥ 副反応・有害事象


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