共感を探究しよう!
ここ一年くらいで最も興味のあるテーマの一つに「人は共感をどう学ぶのか?」、そしてそれを「どう教えると効果的なのか?」という問いがあります。
共感への興味
背景には、カスタマーサポートという業界で研修を担当していた経験があります。カスタマーサポートの仕事は、お客様と直接コミュニケーションを取り、サービスの顧客満足度を高めるというものです。
カスタマーサポートというと、一般的にはお客様が抱える問題に対して、それを直接的に解消する解決策を提供すれば良いと思われがちですが、そう容易いことではありません。
問題に直面しているお客様は、強い否定的な感情や不安を感じられていらっしゃる場合もあります。そのため、単に解決策を伝えるだけではなく、相手の感情や状況にあわせてやり取りを行う必要があります。つまり、コミュニケーションの内容だけではなく、どう伝えるかということへ十分に配慮しなければなりません。機器の操作方法など、手順が一つに定まっているものをハードスキルと呼ばれるのに対し、こうした人の状況や気持ちにあわせてどう情報を伝えるかといった正解がないスキルはソフトスキルと呼ばれます。
当時、私が所属していたのは外資系の企業だったのですが、特に日本の市場はお客様からカスタマーサポートのソフトスキルに対する期待が大きく、顧客満足度を上げるのが難しいと言われていました。
相手の状況や気持ちに寄り添ったサポートを提供するためには、そもそも相手がどんな気持ちを抱いているのか、つまり相手に共感する必要があります。
共感を教えるにはどうすればよいのだろうか?
仕事上の必要性をきっかけに、興味を持ちました。
共感をどう捉えるか?
共感を教える難しさは、まず共感がどのようなものかをどう定義するかにあります。
共感が、ほかの人の真実の感情を読み取って、同じ感情を抱くということであれば、超能力に近いスキルになってしまいそうです。将来的にはテクノロジーが感情の読み取りを可能にするかもしれませんが、現時点で実際に活用できるものは少なさそうです。
また、仮に相手の感情を正確に読み取れたとしても、本人自体が自分の感情を正確に捉えることが容易でないということを想定すると、相手から見て取れる状態をどう相手に伝えるかというコミュニケーションの問題が生じてくるのではないかと思います。つまり、相手から読み取った情報をどう共感的に伝えるのか、という堂々巡りの問いに直面することになります。
共感をどう捉えればよいのか? そうした問いを抱えて、いろいろな本を調べていたところ、カウンセラーの杉原保史さんの著作の中で、はっとするフレーズに出会いました。
共感は、個人の境界線を越えてあなたと私の間に響き合う心の現象、つまり、「人と人とが関わり合い、互いに影響し合うプロセス」のことなのです。ですから共感は、ただ相手とぴったり同じ気持ちになることを指すわけではありません。むしろ、互いの心の響き合いを感じながら関わっていくプロセスであり、それを促進してくための注意の向け方や表現のあり方などを指すものです。
杉原保史(2015)「プロカウンセラーの共感の技術」創元社 P21
異なる背景や経験を積み重ねてきた相手の本当の気持ちをそのニュアンスを含めて理解することは用意ではありません。
また、相手の気持ちを理解していることを示したとしても、それが相手との良好な気持ちを築く上では逆効果になってしまうこともあるかもしれません。たとえば、悩みを打ち明けてくれた人に対して、「その気持わかるよ」と伝えて、「あなたに私の気持ちがわかるわけがない!」と相手を怒らせてしまった経験はないでしょうか。
人には他者に自分のことをわかってもらたい、という感情がありつつも、「ほかの人に解ってたまるか!」というアンビバレンツな思いを抱えている部分があるようです。
こうした人の心理の難しさを踏まえて、どう人とより善く関わっていくか?
こうしたポジティブな姿勢が新鮮でしたし、共感に着目して業務を改善したいという実践的なアプローチを志向していた自分にとって参考になりました。
共感の探究に向けて
人と良い関係を作る実践的なスキルとして共感を捉えるというアプローチに立って、カスタマーサポートのソフトスキル研修を実施しました。
職場での事例を取り入れたり、DiSC理論という人間の関係性を捉える理論を取り入れることで、顧客満足の改善など、一定の成果を上げることができたように思います。また、それに加えて、研修受講者のみなさんからは、自分の担当業務のパフォーマン向上以上に、自分自身の他者との関わり方を見直す機会にも繋がったという声ももらいました。
私自身、それまではゴール達成志向、つまりいかに問題の解決に向けた最短のプロセスをたどるか、プロジェクトの目標を達成するかに加えて、他の仲間といかにより善く協同していくかということに目を向けることによって、仕事に対して前向きに捉えることができるようになったのではないかと思います。
共感は、実は仕事やプロジェクトを進める上で、基盤となるスキルなのではないか? そして、それを身につけることで、より善い働き方をできるようになるのではないか? そうした着想を得ました。
おそらく社会人だけではなく、学校でも学ぶべきスキルなのではないか?と思います。
引き続き、学術論文や書籍を調べて、共感はどのようなもので、どう学ぶ/教えることができるかを探究してみたいと思います。