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アクアリウムは踊らない 感想

!!!本記事にはゲーム本編のネタバレがあります!!!


0. はじめに

  • たくさんの方が素晴らしい感想や考察を展開してくださっているので、ここで目新しいことは不可能に近いです。なので、ここでは従来の感想や「なるべく重複しないように」考察を書き連ねていこうと思います。

  • スクリーンショット多めで文章は少なめです。

ご容赦ください。

このゲームは?

2024年2月に橙々(だいだい)さんからリリースされたフリーゲームです。
ジャンルはホラー嫌いが作る水族館フリーホラーゲーム

制作期間は8年間にも及んだとのこと。
小学1年生は中学3年生になっちゃうし、
大学1年生は博士後期課程3年生になっちゃいます。恐ろしい時間です。

『アクおど』は、私が一人で作ったゲームなんですけど、元々は大学の時の友達4人から、「これからフリーゲームのホラーゲームを作りたいんだけど絵を描ける人がいないから手伝って欲しい」と言われたのが関わったきっかけでした。
(中略)
気づいたら全員グループを退会してたので、もう一人で作ろうって。元のメンバーが作っていたシナリオやマップもほぼ終わっていたんですけど、それは全部捨てて1から自分で作り直しました。

『アクアリウムは踊らない』サウンドトラックレコード盤発売記念
制作者・橙々さん×音楽・真島こころさんスペシャル対談
より

8年かけた『アクアリウムは踊らない』リリースは「うれしい」よりも「寂しい」の方が大きい感覚でした。約8年間かけて1人でずっと作っているゲームだったので、キャラクターへの思い入れがありすぎて……。

8年かけて作り上げた『アクアリウムは踊らない』が大ヒット 
制作者・橙々の“創作ルーツ”とあふれる情熱
より

幼馴染の「ルル」と水族館へ行くことになった「スーズ」。
だが突然ルルが行方不明になってしまう。

スーズはルルを追い、恐怖の水族館へ迷い込んだ。
すると「レトロ」と名乗る謎の人物が、突然襲いかかってきた。

館長の妻であり、脱出のためスーズに手を差し伸べる「クリス」。
水族館に閉じ込められ続けている少女「キティ」。

脱出のヒントはただ一つ…
水族館の生物になり彼女たちの“秘密”を解け
―――裏切り者は、誰だ

https://daidai7742.wixsite.com/aqua-dance/story より抜粋

なんということでしょう。このゲームには『裏切者』がいるのです!
そいつが黒幕で、その黒幕を倒せば『恐怖の水族館』から脱出できるに違いありません!

この5人の中に、黒幕が…

https://daidai7742.wixsite.com/aqua-dance/character より抜粋
キービジュアルにも『裏切者は誰だ』

1. ゲームをプレイして

初見でプレイして私の脳内に浮かんだのは、導入から序盤はIb、中盤のSF的冒険はOMORI、中盤~終盤で明かされる世界観はまどマギのような印象でした。
意外にも(?)、デスゲーム的な印象は薄かったように思えます。

■プレイ時間、難易度

私が初めてEDにたどり着くまで、およそ3.5時間程度でした。プレイ時間の目安として、全ED回収までは4~5時間程度です。

ゲームの難易度としては易しめに作られていると思います。
セーブポイントや体力回復ポイントがかなり頻繁に点在してゲームオーバーになってもすぐにやり直せる点、謎解きも公式サイトに各謎毎にヒントが3個載っているなど、途中で詰まることは少なくサクサクと進めます。

■序盤(怪異対峙~レトロとの出会い)

スーズが親友のルルを探すために『恐怖の水族館』に迷い込んでしまいます。この導入はIbに近い印象でした。
実際、いくつかの名作フリーゲームを参考にしたと作者様のインタビュー記事で公言されていました。

特定のゲームから大きな影響を受けたりはしていないのですが、『Ib』や『霧雨が降る森』、『殺戮の天使』、『青鬼』、『ゆめにっき』などの名作は、ゲーム全体のシステムや雰囲気、わかりやすさの面で参考にさせていただきました。

8年かけて作り上げた『アクアリウムは踊らない』が大ヒット
制作者・橙々の“創作ルーツ”とあふれる情熱
より

それではゲームスタートです。

水族館をクリスが案内してくれます…ありがとう…
クリスも美しいよ…

序盤は驚かし系ホラーが既に最高潮です。緊張の糸がずっと張りっぱなしでホラーアドベンチャーの洗礼をうけます。

親友のルルを探すため、誘われるように『恐怖の水族館』へやってきたスーズ。

文字化け。うまいこと日本語に復元できたりすると文章になりそう
大胆な告白を受ける。「好き」という気持ちを正直に伝えるって難しいよね。
誘われるようにしてクラゲを調べると…
ここの再確認ホントに怖い
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
レトロとの出会い

途中で合流したクリスと共に、『恐怖の水族館』を脱出していきます。

ク、クリス…

クリス…好きなのら…
裏切者の毒牙をクリスに向けてはいけない。漏れは固く誓った。
なのに…なのに…





クリス………?

なんでだよぉぉぉぉぉぉぉおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭
クリスが首を吊っている…?自殺?いや…さっきまで一緒に脱出しようと約束したのに…😭

きっと誰かが自殺に見せかけた殺人を犯したに違いない。許せない😡

クリスと別れてから、クリーピー(この世界の魔物)に襲われているところをレトロに助けられます。

レトロと『恐怖の水族館』を脱出することに

序盤を通しての印象として、ホラーの緊張と水族館の美しさがマッチしていて、ゲームをプレイしていて全く飽きがなく、絶妙な緩急が心地よくシンプルに凄いなという気持ちでした。
昨今のフリーゲームはビジュアルのクオリティが高く枚挙に暇がないほどですが、本作のビジュアル的美しさはトップレベルではないでしょうか。

1枚絵が本当に綺麗で美しい
ドット絵の表現も神秘的で綺麗


■中盤(キティ合流~クリーピーから逃走)

レトロと共に先に進みます。
中盤は驚かす系のホラーが減って、恐怖の水族館の異世界的側面を楽しむパートに入っていくような印象です。OMORIでいうヘッドスペースを冒険しているような感覚に近いでしょうか。

ホラーゲームって、どうしても背景が同じようなものになりがちなんです。たとえば学校が舞台なら学校、病院が舞台なら病院と、背景が固定されがちなんですが、『アクおど』では緩急をつけたかったので、水族館という舞台ではありつつ、図書館やバーを入れたり、背景でもできるだけ飽きさせないようにすることは意識して作りました。ぜひマップも注目していただけるとうれしいですね。

8年かけて作り上げた『アクアリウムは踊らない』が大ヒット
制作者・橙々の“創作ルーツ”とあふれる情熱
より
図書館with海洋生物
バーでコウペンちゃんにご挨拶。

同時に、極致に追い込まれた人間の末路もこの辺りから徐々に顔をのぞかせてきます。中盤から合流したキティ、彼女もこの『恐怖の水族館』に迷い込んでしまっているらしいのですが…

脱出することに異常な執着心…怪しい…
あ!レトロを殺ろうとしている瞬間だ!
正体表したね

なんと、裏切者はキティだったのです!
ゆ、許せない…クリスを殺したのもお前なんだな……!


『恐怖の水族館』に長く居すぎるとクリーピー(この世界の魔物)と化してしまう
キティはスーズも殺ろうとするが‥
第二の殺人が起こってしまった…

キティも、殺された……?

キティが死んでもスーズは『恐怖の水族館』から脱出できる気配はありません。キティは裏切者じゃなかった…?


中盤の1枚絵。美しい…


■終盤(病院へ向かう~ED)

少し時系列は遡って、視点がルルへと変わります。

ルルとの行動を通して、キティは一緒に脱出する決心をしてくれるのだが…

キティ…裏切者だったけど改心してくれたんだね…😭
???!?

どういうことだっピ!?そんなわけ…
黒幕は…クリス………?


視点がスーズに戻ります。

注目してほしいところは、マップだとやっぱり図書館のエリアです。あとは駅のエリアがすごく上手にできたと思っていて、見ていただきたい部分にはなりますね。

8年かけて作り上げた『アクアリウムは踊らない』が大ヒット
制作者・橙々の“創作ルーツ”とあふれる情熱
より

終盤はオリエント急行のような列車に乗り込んで目的地へ向かいます。このあたりもホラー色は薄く、SFや冒険譚の色が強く出ている部分という印象でした。

駅のホームマップ。海洋空間と融合して幻想的。

チリちゃんのようなグソクムシからも謎を出されました。

謎を解いたらお礼に謎を貰いました?????????????

目的地の病院にたどり着くと、今まで息を潜めていたホラーが顔を出すようになります。

モニカ…?

あなたは幸せ?
ここでは誰でも幸せになれるの。なのにどうして幸せになろうとしないの?

そんな世界も、今は脅威にさらされている。あなたのせいだ。

あなたは必要ない。
今のこの世界は幸せで満たされている。

邪魔をしないで。
邪魔をしないで。

病院を出ると、いよいよ最後の闘いです。
真実から目を背けてはいけません。

クリス!?
クリス…?
クリス…!?
クリス…!クリス…?
クリス!?クリス!?

こ、怖いよぉ…

最終盤の「殺気」から「殺してあげない」にシームレスでBGMが繋がる瞬間が非常に心地よくて、クライマックスに到達したという緊張感が走ります。

殺気 / 鬼気迫る踊り場(アクアリウムは踊らないVer.)


殺してあげない / White Dead

クリスとのラストバトルです。
最後にレトロの深海の石をスーズ自身で壊すことを選択すると…

正規ルートのタイトル回収シーン。
サメとクリオネが最後に登場。二人とも綺麗だね…

二人とも館長やこの水族館のことが大好きだったのに…いや、大好きだったからこそこの世界、このゲームが生まれてしまったのかもしれない。
ただ黒背景に2匹がふわふわしているだけなのに、いろいろなことを考えさせられるED演出です。


2. ゲーム内謎解き

謎解きの個数は大小合わせて6~8個程度、難易度は比較的易しめといった印象でした。他の方の感想記事を読んでいても、概ね同じような感想だったと思います。

例として、1個目の謎を見ていきましょう。

状況:
①壁面には左から順に「アユ」「イカ」「サザエ」「サメ」が展示されている。
②近くの本棚には、展示されている生き物含め、10種類程度の生き物図鑑がある。(英名、生物の特徴が記載)
③同じく本棚に、下画像のような紙切れが見つかる。

「アユ」「イカ」「サザエ」「サメ」が展示

??????????????????????????????????????????????????????????????????????????

なんということでしょう。全く分かりません。

公式サイトのヒントを2つ見て、ようやく答えを出すことができました。
紙切れを見て有る無し問題かと思ってドツボにハマってしまいました。

これ以外の謎解きはノーヒントで出来たので、難易度自体は易しめということで問題ないかと思います

3. エンディング分岐

スーズとルル、キティが恐怖の水族館から脱出する

トゥルーエンドを見るために必須のイベントシーンに↑3つがあります。
「あなたに託すことで、その大切さを分かち合いたい」という
 クリス(本物)→スーズ
 スーズ→レトロ
 レトロ→スーズ
への特別な信頼と愛情が込められているようなイベントです。ここがクリス(偽物)との決定的な差だったのでしょうか。

【忘れてもいい 進み方を忘れた時だけ、思い出せ】
上手く言語化できないのですが、おそらくゲームを通して伝えたいメッセージのような気がします。相手の自立と支えの両立を願うレトロの優しい気持ちが、この簡単で複雑な文章から何となく読み取れました。

レトロから託された海中時計。これが記憶を持って帰るためのカギだったのでした。

トゥルーエンドは、上述のエンドに加えて後日談が追加されます。

相棒の『忘れてもいい』からのエンディング【忘れてやらない】
…おいたん、胸がキュンキュンするのら…

スーズとルルが恐怖の水族館から脱出する(キティの生死は不明)

スーズはルルと一緒に『恐怖の水族館』から脱出する。でもあの時の出来事は本当だったのか、二人にはもう確かめる術は無い。

生存はできたけどものすごく後味のスッキリしないED。「あ~これ絶対選択肢間違えた」と思わせてくれます。

スーズだけが恐怖の水族館から脱出する

水族館から離れた波打ち際で発見されたスーズ。でも『恐怖の水族館』に取り残された人たちの記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている。

レトロとの最後の約束を果たせないと、このEDか次のバッドエンディングが確定します。

恐怖の水族館から誰も脱出できなかった(黒幕の一人勝ち)

中盤でレトロに適切な治療をせずに、さらに最後の約束を果たせないとこのEDになります。

クリーピーと化したスーズを笑顔で見守るクリス。好きだ……

でも見方を変えれば幸せかもしれません。クリスと一緒にいられるからね…


4. 疑問点・考察

■現実世界にいたクリスは本物?偽物?
■なぜルルは水族館を一人で歩きだした?
■スーズとルル、キティ(+トイ)はなぜ『恐怖の水族館』に誘い込まれた?
■Dr.マンタは何者?
■Dr.マンタのPCに届いたメールは?

■現実世界にいたクリスは本物?偽物?

『恐怖の水族館』にいたクリスは碧色の巻き髪である
→髪色からして現実世界にいたクリスは偽物である可能性が高い

ストーリー終盤で館長は白骨化していたので、現実世界の館長はおそらく死んでいる
→今のビアンカ水族館は実質クリス(偽物)の支配下にある?

■なぜルルは水族館を一人で歩きだした?

スーズの発言から、普段からふらふらした多動な子だった?
(実際、クリスが解説をしている時に急に画面左へ歩いて行ってしまっている)

クリス(偽物)が裏で糸を引いていた可能性は低そう?

■なぜスーズとルル、キティ(+トイ)は『恐怖の水族館』に誘い込まれた?

年パスやプレミアムチケットを持っているような信奉者的存在を狙っている
→好きな存在になれる・一緒にいれる事は幸せなことだから問題ない、というクリス(偽物)の曲がった思想によるもの?

そもそもクリス(偽物)の意思で人間を『恐怖の水族館』へ送り込むことが出来るのか?


■Dr.マンタは何者?

本作で最も謎が多い人物です。

この世界の裏事情で精通している人物です。
人間の頃の名前を知っている!?!?!?!?!?!?

おそろしいことに、何もわかりません!
・元々ビアンカ水族館の生き物で、レトロやクリスと同じくこの世界に住んでる
・元々人間で、完全に意識を失うまでの間、医師を務めている
あたりが可能性としては高いのだろうけど、それぞれの手掛かりとなるようなものは作中にはありません。

■Dr.マンタのPCに届いたメールは?

誰から来たメール?
→メールの文面から、送り先に対する憎悪がある。
クリス(偽物)から?

誰宛てのメール?
この世界を壊そうとしているレトロ?
→だとしたらなぜDr.マンタのPCへ?

…色々疑問点を書き連ねましたが、正直どれも推測の域を出ないもので、公式からのアンサーもおそらくゲーム内では描写されていないように思われます(見逃しあったらすみません)。

ここは各々の想像で補完するか、続編が出るのを気長に待っていたいと思います。

続編は作りたいなと思ってます。さっきも少しお伝えした通り、結構含みをもたせた状態で完結させているので、まだ掘り下げたいキャラとか過去の話があるんですよね。その内のどれかをゲームという形で私の手から届けられたらいいなと思っているところはありますね。

『アクアリウムは踊らない』サウンドトラックレコード盤発売記念
制作者・橙々さん×音楽・真島こころさんスペシャル対談
より

5. まとめ・おわりに

  • レトロとクリス(偽物)の願いによって造られた世界

  • 悪/正義とは何か?

  • ゲームからのメッセージ性

  • フリーゲームとは思えない全方面のクオリティの高さ

このゲームを語るうえで魅力な点や考察したい点はいくつもあると思います。ネット記事を見ると作者様も次回作に意欲的だったり、ドラマCDなどのメディアミックス展開もあるようなので、伏線回収や新作などまだまだ楽しみがありそうです。

■(追記)サメの図鑑があった本棚

最後のクライマックスシーンでクリス(偽物)から逃げている最中、サメの図鑑があった本棚を調べると…

本棚を序盤で調べる。誰が書いたのかはまだ不明。
最後のページが読めるようになっている。クリス…

目的は同じだけど思想は違う二人。
あそこまで事態が進んでしまったら、クリス(両方)や美術館内で非業の死を遂げた皆を救うにはああするしかなかったのか…?


この場を借りて、ゲームに関わった全ての方々(?)にお礼を申し上げます。そして、この記事を読んでくださった皆様もどうか素晴らしいゲーム体験を。

これから遊ぶ方も、どうか自分のペースでこの作品の魅力を堪能していただけたら幸いです。

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