アクアリウムは踊らない 感想
!!!本記事にはゲーム本編のネタバレがあります!!!
0. はじめに
たくさんの方が素晴らしい感想や考察を展開してくださっているので、ここで目新しいことは不可能に近いです。なので、ここでは従来の感想や「なるべく重複しないように」考察を書き連ねていこうと思います。
スクリーンショット多めで文章は少なめです。
ご容赦ください。
このゲームは?
2024年2月に橙々(だいだい)さんからリリースされたフリーゲームです。
ジャンルはホラー嫌いが作る水族館フリーホラーゲーム
制作期間は8年間にも及んだとのこと。
小学1年生は中学3年生になっちゃうし、
大学1年生は博士後期課程3年生になっちゃいます。恐ろしい時間です。
なんということでしょう。このゲームには『裏切者』がいるのです!
そいつが黒幕で、その黒幕を倒せば『恐怖の水族館』から脱出できるに違いありません!
この5人の中に、黒幕が…
1. ゲームをプレイして
初見でプレイして私の脳内に浮かんだのは、導入から序盤はIb、中盤のSF的冒険はOMORI、中盤~終盤で明かされる世界観はまどマギのような印象でした。
意外にも(?)、デスゲーム的な印象は薄かったように思えます。
■プレイ時間、難易度
私が初めてEDにたどり着くまで、およそ3.5時間程度でした。プレイ時間の目安として、全ED回収までは4~5時間程度です。
ゲームの難易度としては易しめに作られていると思います。
セーブポイントや体力回復ポイントがかなり頻繁に点在してゲームオーバーになってもすぐにやり直せる点、謎解きも公式サイトに各謎毎にヒントが3個載っているなど、途中で詰まることは少なくサクサクと進めます。
■序盤(怪異対峙~レトロとの出会い)
スーズが親友のルルを探すために『恐怖の水族館』に迷い込んでしまいます。この導入はIbに近い印象でした。
実際、いくつかの名作フリーゲームを参考にしたと作者様のインタビュー記事で公言されていました。
それではゲームスタートです。
序盤は驚かし系ホラーが既に最高潮です。緊張の糸がずっと張りっぱなしでホラーアドベンチャーの洗礼をうけます。
親友のルルを探すため、誘われるように『恐怖の水族館』へやってきたスーズ。
途中で合流したクリスと共に、『恐怖の水族館』を脱出していきます。
クリス…好きなのら…
裏切者の毒牙をクリスに向けてはいけない。漏れは固く誓った。
なのに…なのに…
なんでだよぉぉぉぉぉぉぉおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭
クリスが首を吊っている…?自殺?いや…さっきまで一緒に脱出しようと約束したのに…😭
きっと誰かが自殺に見せかけた殺人を犯したに違いない。許せない😡
クリスと別れてから、クリーピー(この世界の魔物)に襲われているところをレトロに助けられます。
序盤を通しての印象として、ホラーの緊張と水族館の美しさがマッチしていて、ゲームをプレイしていて全く飽きがなく、絶妙な緩急が心地よくシンプルに凄いなという気持ちでした。
昨今のフリーゲームはビジュアルのクオリティが高く枚挙に暇がないほどですが、本作のビジュアル的美しさはトップレベルではないでしょうか。
■中盤(キティ合流~クリーピーから逃走)
レトロと共に先に進みます。
中盤は驚かす系のホラーが減って、恐怖の水族館の異世界的側面を楽しむパートに入っていくような印象です。OMORIでいうヘッドスペースを冒険しているような感覚に近いでしょうか。
同時に、極致に追い込まれた人間の末路もこの辺りから徐々に顔をのぞかせてきます。中盤から合流したキティ、彼女もこの『恐怖の水族館』に迷い込んでしまっているらしいのですが…
なんと、裏切者はキティだったのです!
ゆ、許せない…クリスを殺したのもお前なんだな……!
キティも、殺された……?
キティが死んでもスーズは『恐怖の水族館』から脱出できる気配はありません。キティは裏切者じゃなかった…?
■終盤(病院へ向かう~ED)
少し時系列は遡って、視点がルルへと変わります。
ルルとの行動を通して、キティは一緒に脱出する決心をしてくれるのだが…
どういうことだっピ!?そんなわけ…
黒幕は…クリス………?
視点がスーズに戻ります。
終盤はオリエント急行のような列車に乗り込んで目的地へ向かいます。このあたりもホラー色は薄く、SFや冒険譚の色が強く出ている部分という印象でした。
チリちゃんのようなグソクムシからも謎を出されました。
目的地の病院にたどり着くと、今まで息を潜めていたホラーが顔を出すようになります。
病院を出ると、いよいよ最後の闘いです。
真実から目を背けてはいけません。
こ、怖いよぉ…
最終盤の「殺気」から「殺してあげない」にシームレスでBGMが繋がる瞬間が非常に心地よくて、クライマックスに到達したという緊張感が走ります。
殺気 / 鬼気迫る踊り場(アクアリウムは踊らないVer.)
殺してあげない / White Dead
クリスとのラストバトルです。
最後にレトロの深海の石をスーズ自身で壊すことを選択すると…
二人とも館長やこの水族館のことが大好きだったのに…いや、大好きだったからこそこの世界、このゲームが生まれてしまったのかもしれない。
ただ黒背景に2匹がふわふわしているだけなのに、いろいろなことを考えさせられるED演出です。
2. ゲーム内謎解き
謎解きの個数は大小合わせて6~8個程度、難易度は比較的易しめといった印象でした。他の方の感想記事を読んでいても、概ね同じような感想だったと思います。
例として、1個目の謎を見ていきましょう。
??????????????????????????????????????????????????????????????????????????
なんということでしょう。全く分かりません。
公式サイトのヒントを2つ見て、ようやく答えを出すことができました。
紙切れを見て有る無し問題かと思ってドツボにハマってしまいました。
これ以外の謎解きはノーヒントで出来たので、難易度自体は易しめということで問題ないかと思います
3. エンディング分岐
スーズとルル、キティが恐怖の水族館から脱出する
トゥルーエンドを見るために必須のイベントシーンに↑3つがあります。
「あなたに託すことで、その大切さを分かち合いたい」という
クリス(本物)→スーズ
スーズ→レトロ
レトロ→スーズ
への特別な信頼と愛情が込められているようなイベントです。ここがクリス(偽物)との決定的な差だったのでしょうか。
【忘れてもいい 進み方を忘れた時だけ、思い出せ】
上手く言語化できないのですが、おそらくゲームを通して伝えたいメッセージのような気がします。相手の自立と支えの両立を願うレトロの優しい気持ちが、この簡単で複雑な文章から何となく読み取れました。
レトロから託された海中時計。これが記憶を持って帰るためのカギだったのでした。
トゥルーエンドは、上述のエンドに加えて後日談が追加されます。
スーズとルルが恐怖の水族館から脱出する(キティの生死は不明)
スーズはルルと一緒に『恐怖の水族館』から脱出する。でもあの時の出来事は本当だったのか、二人にはもう確かめる術は無い。
生存はできたけどものすごく後味のスッキリしないED。「あ~これ絶対選択肢間違えた」と思わせてくれます。
スーズだけが恐怖の水族館から脱出する
水族館から離れた波打ち際で発見されたスーズ。でも『恐怖の水族館』に取り残された人たちの記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている。
レトロとの最後の約束を果たせないと、このEDか次のバッドエンディングが確定します。
恐怖の水族館から誰も脱出できなかった(黒幕の一人勝ち)
中盤でレトロに適切な治療をせずに、さらに最後の約束を果たせないとこのEDになります。
でも見方を変えれば幸せかもしれません。クリスと一緒にいられるからね…
4. 疑問点・考察
■現実世界にいたクリスは本物?偽物?
『恐怖の水族館』にいたクリスは碧色の巻き髪である
→髪色からして現実世界にいたクリスは偽物である可能性が高い
ストーリー終盤で館長は白骨化していたので、現実世界の館長はおそらく死んでいる
→今のビアンカ水族館は実質クリス(偽物)の支配下にある?
■なぜルルは水族館を一人で歩きだした?
スーズの発言から、普段からふらふらした多動な子だった?
(実際、クリスが解説をしている時に急に画面左へ歩いて行ってしまっている)
クリス(偽物)が裏で糸を引いていた可能性は低そう?
■なぜスーズとルル、キティ(+トイ)は『恐怖の水族館』に誘い込まれた?
年パスやプレミアムチケットを持っているような信奉者的存在を狙っている
→好きな存在になれる・一緒にいれる事は幸せなことだから問題ない、というクリス(偽物)の曲がった思想によるもの?
そもそもクリス(偽物)の意思で人間を『恐怖の水族館』へ送り込むことが出来るのか?
■Dr.マンタは何者?
本作で最も謎が多い人物です。
おそろしいことに、何もわかりません!
・元々ビアンカ水族館の生き物で、レトロやクリスと同じくこの世界に住んでる
・元々人間で、完全に意識を失うまでの間、医師を務めている
あたりが可能性としては高いのだろうけど、それぞれの手掛かりとなるようなものは作中にはありません。
■Dr.マンタのPCに届いたメールは?
誰から来たメール?
→メールの文面から、送り先に対する憎悪がある。
クリス(偽物)から?
誰宛てのメール?
この世界を壊そうとしているレトロ?
→だとしたらなぜDr.マンタのPCへ?
…色々疑問点を書き連ねましたが、正直どれも推測の域を出ないもので、公式からのアンサーもおそらくゲーム内では描写されていないように思われます(見逃しあったらすみません)。
ここは各々の想像で補完するか、続編が出るのを気長に待っていたいと思います。
5. まとめ・おわりに
レトロとクリス(偽物)の願いによって造られた世界
悪/正義とは何か?
ゲームからのメッセージ性
フリーゲームとは思えない全方面のクオリティの高さ
このゲームを語るうえで魅力な点や考察したい点はいくつもあると思います。ネット記事を見ると作者様も次回作に意欲的だったり、ドラマCDなどのメディアミックス展開もあるようなので、伏線回収や新作などまだまだ楽しみがありそうです。
■(追記)サメの図鑑があった本棚
最後のクライマックスシーンでクリス(偽物)から逃げている最中、サメの図鑑があった本棚を調べると…
目的は同じだけど思想は違う二人。
あそこまで事態が進んでしまったら、クリス(両方)や美術館内で非業の死を遂げた皆を救うにはああするしかなかったのか…?
この場を借りて、ゲームに関わった全ての方々(?)にお礼を申し上げます。そして、この記事を読んでくださった皆様もどうか素晴らしいゲーム体験を。
これから遊ぶ方も、どうか自分のペースでこの作品の魅力を堪能していただけたら幸いです。