ChatGPTの著作権問題を分かりすく解説!訴訟事例や商用利用についても紹介
OpenAIのChatGPTやMidjourneyなど、生成系AIの発展が急速に進んだことによりAIと著作権の関係が問題視されています。
これまで、AIが生成したものに著作権法は適用されるのか、AIの学習に著作物を使用することは法的に許されるのかなど、AIの著作権法に関する線引きは曖昧でした。
6月19日に文化庁は「2023年度著作権セミナー「AIと著作権」」というテーマでセミナーを開催し、AIと著作権についての国の見解を明らかにしました。
しかし難解な言葉や専門的な内容が多く、理解するのが難しい方もいるかと思います。そこで今回は、文化庁のセミナー内容を基に、AIと著作権の関係を誰でも理解できるように解説します。
ぜひ最後までご覧くださいっ!
ChatGPTにおける著作権問題とは
ChatGPTは便利なツールですが、気をつけなければいけない点もあります。その1つが「著作権問題」です。
ChatGPTを運営しているOpenAIの利用規約には、「ChatGPTに生成されたコンテンツのすべての権利および利益は作成者にある」とされています。
ただし実際に使用する際には、著作権やプライバシーに関する法的な問題には十分注意が必要となってきます。著作権を理解しないままChatGPTを使ってしまうと
他人の著作物に基づいてChatGPTを使用し、そのまま商用利用した
生成コンテンツが著作権を侵害しており、訴えを起こされた
このような状況にもなりかねません。著作権・商用利用についてきちんと理解した上で、利用するようにしましょう。まずはAIを使う上で大切な、著作権の考え方を見ていきます。
AIと著作権の基本的な考え方
AIと著作権では、「AIを作る時の学習データに著作物が含まれている問題」と、「AIが生成した小説や絵などに著作権があるのか」ということの2つがあります。
これらの、AIと著作権の関係を理解するためには、まず著作権法の基本的な考え方を把握する必要があります。
著作権法では、以下の2点が重要視されています。
著作権者の権利・利益の保護と著作物の円滑な利用のバランスが重要である
著作権は、「思想又は感情を創作的に表現した」著作物を保護するものであり、単なるデータ(事実)やアイデア(作風・画風など)は含まれない
なんか難しく書かれてますねー。では、一つずつわかりやすく説明していきます!
著作権者の権利・利益の保護と著作物の円滑な利用のバランス
簡単に表現すると「著作権者とユーザーの両方がハッピーになるようにしましょう」ということになります。
ジブリの映画「千と千尋の神隠し」を例に考えてみましょう。ジブリは、著作権を持っている。そのため、「千と千尋の神隠し」から得られる興行収入などはジブリのものです。
これは、ユーザーは面白い映画が見れた!それに対するありがとうという気持ち、応援する気持ちでお金を払う。ジブリは、いいものをユーザーに届けて、お金をもらった。このお金でまたいいものを作れる。
という両者のニーズが満たされ、著作権者とユーザーの両方がハッピーになっているからこそ実現しています
しかし、このバランスが取れていないと問題が起こり得ます。
仮に「著作権者の権利・利益の保護」が「著作物の円滑な利用」よりも優先され過ぎた場合。
つまり、ジブリ側は、利益優先だ!とか、パクられたくないからあんまり放映したくないんだ!となり、作品を見る人をないがしろにした場合のことを考えてみましょう。
多分、1回の視聴に数万円など高額な鑑賞料を設定してしまう可能性もあります。ジブリが映画の著作権を過剰に主張し、映画館での上映やテレビ放映を制限する可能性があります。
一見、著作権者に利益があるように見えますが、映画の鑑賞料が高過ぎれば人々は映画を見なくなり、するとジブリの利益が減ります。ジブリの利益が減ると、次の映画を作成する資金がなくなり、面白い映画を作れなくなってしまい、結果的には著作権者のジブリとユーザーの人々両方が損をするという結末が考えられるでしょう。
逆に、「著作物の円滑な利用」が優先され過ぎれば、どうなるでしょうか?
つまり、ユーザー側が安く映画を見たいんだ!とか自由に映画を使わせろ!と過度に主張したケース場合です。
そうなれば、一般人による著作権を無視した無許可の上映や配信が行われるかもしれません。タダ同然で映画が放映されるかもしれません。
これも、一見ユーザー側が得するように見えますが、ジブリが映画から収入を得ることができなくなれば、映画を作るための資金がなくなり、良い映画が作れなくなります。そうなれば、素晴らしい作品をユーザーが見れなくなり、こちらもお互いが損をする形になります。
これらは現実では起こり得ない極端な例ですが、このような事態を避けるために、著作権法は著作権者の利益とユーザーの利便性のバランスを保つことを重視しています。
著作権は、「思想又は感情を創作的に表現した」著作物を保護するものであり、単なるデータ(事実)やアイデア(作風・画風など)は含まれない
理解していただきたいことは、著作権とは「人間の個性や具体的な表現を持つ作品」を保護する権利であるということです。著作権の対象外となるものを見ていくと理解が深まるかと思います。
以下のようなものは著作権の対象外です。
単なる事実が表現されているもの
人間以外(動物やAI)が作ったもの
他人が作った著作物をまねたもの
作品として具体的に表現されていないもの
「単なる事実」とは、例えばデータが該当します。2000年から2019年までの10年間の日本の人口推移のデータは歴史的事実ですので、これに対して著作権を主張することはできません。
また、「人間以外が作ったもの」については、チンパンジーやAIが描いた絵などが該当します。チンパンジーやAIは人間ではないため、彼らの作品は著作権で保護されないのです。
「他人が作った著作物をまねたもの」は、模写をイメージすると分かりやすいでしょう。模写は既存の作品をコピーしたものであり、作成者の個性は表れません。どれほど精巧なモナリザの模写を描いたとしても、それはオリジナルのモナリザではないため、著作権の対象にはなりません。
最後に、「作品として具体的に表現されていないもの」についてです。ここにはアイデアや絵の技法が含まれます。あなたが素晴らしいアイデアを持っていても、それが頭の中にある限りは存在を確認することはできません。
そのため、それが書籍や商品として具体的に表現されない限り、著作物とはみなされないのです。
では、具体的にはどのようなものが著作物とみなされるのでしょうか?著作物に含まれるものには、小説や詩、俳句などの言語的な創作品や日本舞踊やバレエなどの無形の芸術品も含まれます。
以下に著作物の具体的な種類がまとめられた画像を載せましたので、ご覧になってみてください。
著作権はこのように、「人間の個性や具体的な表現を持つ作品」を保護する権利です。
すこし内容が難しいので、まとめますね。
「人間の個性や具体的な表現を持つ作品」に含まれないものとして、データなどの単なる事実、チンパンジーが描いた絵のように人間以外が作ったもの、モナリザの模写のような他人の著作物をまねたもの、そして頭の中のアイデアなどの作品として具体的に表現されていないものがあります。
上記に該当しないものは著作物として、著作権に保護される可能性が高いです。
著作物と認められるものとして
【人間が作ったオリジナルのもの】
小説
脚本
振り付け
絵画
写真
建造物
などがあります。以上が文化庁の発表したAIと著作権の基本的な考え方の内容となります。何となく理解できたでしょうか?
ここまでの内容を簡潔にまとめると以下のようになります。
著作権法では、「著作権者とユーザーの両方をハッピーにすること」が重要とされている。
著作権は「人間の個性や具体的な表現を持つ作品」を保護する権利と定義されている。
次はこれらを踏まえた上で、AIと著作権の関係について説明します。
現状のAIと著作権の関係
文化庁は、AIと著作権の関係を探る際、「AIの開発・学習段階」と「生成・利用段階」の2つに分けて考察する必要があるとしています。具体的には、「AIそのものを作成するプロセス」と「AIが創り出した成果物」は、著作権の解釈がそれぞれ異なります。
それぞれ詳しく見ていきましょう!
AI開発・学習段階
これは、「AIを開発する時、学習データに著作物が含まれるけど、問題になるのでは?」という話です。
先程「AIと著作権の基本的な考え方」で学んだ通り、著作権法では、著作物の権利や利益が保護されています。
すると、学習には大量の著作物が含まれているため、ChatGPTを始めとしたAIサービスを作るのは、著作者の権利を侵害していそうですよね。
ですが、文化庁の公式見解を参考にすると、ChatGPTは、小説や絵画の複製を目的に開発されたものではないので、問題ないということになります。このため、ChatGPTは著作権法違反にはならないわけですね。
次に、もう1つの段階である「生成・利用段階」について説明していきます。
生成・利用段階
これは、「AIが作り出した生成物に対して、著作権は発生するのか、発生するとしたらどのような扱いになるのか」ということです。
例えば、Midjourney*を使って生成した画像は、作成自体はAIが担当しており人間は手を動かしていません。「AIと著作権の基本的な考え方」の章で、著作権の対象外になるものとして「人間以外(動物やAI)が作ったもの」がありました。
(*Midjourney=テキストから画像を生成することができるサービス)
そのため、作っているのはAIだから著作権の対象外となる可能性があるように思えます。
しかし、文化庁の解釈としては、「AIが生み出した生成物は、通常の著作権と同様の扱い」となります。要するに、AIは筆や絵の具と同じツールでしかなく、あくまで作成者は人間と判断されると言うことですね。
生成AIが作り出した作品の著作権について考えていくと、「AIと著作権の基本的な考え方」で説明した2つの概念がそのまま当てはまることに気づきます。
つまり、
1.生成された物が既存の著作物とは全く異なるもので、
2.それを参考にして生成したと判断されなければ、
あなたの著作物として権利を主張することが可能だということです。AIは手法、ツールであるということですね。ヒトの手で作って怒られないなら、AIを使っても怒られない。
その逆も然り。ヒトの手で怒られるなら、AIを使っても怒られる。想像しやすいように、Midjourneyにプロンプトを投げて生成された画像を例に考えましょう。
あなたがMidjourneyを使ってオリジナルの画像を生成したら、そこに著作権は発生します。ですので、他人が無断でその画像を使用していたら、著作権侵害としてその人を訴えることができます。
例えば、この画像を見てください。
これはMidjourneyで生成された画像ですが、明らかにモナリザの特徴があり、モナリザを真似していることがわかります。そのため、この画像は著作権法違反となる可能性が高いです。
それでは、こちらの画像はどうでしょうか?
これは、Midjourney上で「バンクシー風にモナリザを描いて」とプロンプトで指示を出して生成された画像です。
ほとんどモナリザの面影はありませんよね。ここまでオリジナルと異なると著作権法違反にはならない可能性があります。
ただし、プロンプトで「モナリザ」と具体名を出しているため、意図的にモナリザを模倣しようとしたと判断され、著作権法違反の判断が下る可能性があります。
実際は、モナリザは著作権のないパブリックドメインであるため、いくらモナリザ似の画像を生成しても、著作権法上問題となることはありませんが…
注意しておきたいのは、著作権法違反の判断基準は、明確ではないということです。
法律は多くのケースに対応できるようにあえて曖昧に作られており、最終的な合法違法の判断は裁判で決まります。Midjourneyの画像についても生成したものが違法になるかどうかは、あくまで”可能性が高い”としか言えません。
とはいえ、著作物の模倣や営利目的などが明らかに違法であることはわかります。なので、実際にAIを使う際は明らかにアウトなラインさえ理解しておけば、基本的には著作権法違反と判断されることはないでしょう。
ここまで、文化庁が6月19日に発表したAIと著作権の関係について説明してきました。
これらはあくまで「現状の整理」という形で、現在の法解釈の話でした。ここからは、今後AIが発展をしていく中で、文化庁はどのように行動をしていこうと考えているのか「今後の対応」について解説していきます。
なお、AIによる犯罪について詳しく知りたい方は、下記の記事を合わせてご確認ください。
→AIによる犯罪を調べてみた|OpenAIが予測しているAI犯罪も紹介!
画像生成AIと著作権の関係
上記ではAIと著作権に関する基本的な考え方を解説しましたが、画像生成AIも考え方は基本的に同じです。
ここでは、以下3つの内容について解説します。
画像生成AIの著作権に対する文化庁の見解
画像生成AIの著作権を巡る日本とアメリカの対応
画像生成AIの著作権問題と対策
画像生成AIを仕事で活用している方は、ぜひチェックしてみてください。
画像生成AIの著作権に対する文化庁の見解
画像生成AIの著作権に対する文化庁の見解は以下のとおりです。
当記事の「生成・利用段階」で解説している内容と同じで、AIに細かいプロンプトを与えて画像を生成した場合は、基本的に著作権を主張できます。
ただし、AIが自律的に生成した画像では著作権が認められないので注意しましょう。
画像生成AIの著作権を巡る日本とアメリカの対応
画像生成AIの著作権を巡る日本とアメリカの対応には、若干の違いがあります。まず、アメリカでは、AIが生成した画像は基本的に著作権が認められません。
これは、2023年8月18日にアメリカのワシントンD.C. で、AI生成画像の著作権保護裁判において、「著作権が認められない」との判決が下ったことで有名です。
参考記事:画像生成AIの著作権は?著作権侵害にあたるケース・あたらないケースを解説
日本も基本的には同じ考えですが、文化庁の見解で解説したとおり、AIに細かいプロンプトを与えて独自性が認められた場合は、著作権が認められることもあります。
画像生成AIの著作権問題と対策
画像生成AIの著作権問題には、以下のようなものがあります。
AIが生成した画像は著作権に触れる可能性がある
AIが生成した画像で著作権を主張するのは難しい
画像生成AIは、インターネット上にある無数のデータを学習しているので、使用するモデルによっては著作物を学習している可能性があります。
また、アメリカで判決が出ているように、AIが生成した画像で著作権を主張するのは難しいのが現状です。このような問題に対して、以下の対策が有効です。
著作権フリーや商用利用OKの画像生成AIモデルを使用する
画像生成の際に細かいプロンプトを与えて独自性を出す
まず、画像生成AIで著作権フリーといえば、「Adobe Firefly」が有名です。著作権フリーの画像を学習しているので、生成した画像で著作権に触れる心配がありません。
また、画像生成の際に細かいプロンプトを与えれば、独自性が認められて著作権を主張できる場合があります。
なお、Adobe Fireflyについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
→【Adobe Firefly】商用利用可・著作権問題なしの画像生成AI!使い方、料金体系を徹底解説
Midjourneyは著作権上商用利用できるのか
Midjourneyの有料プランを契約すれば、生成した画像を商用利用できます。ただ、「生成した画像が著作権で保護されるのか?」「学習データは著作権に触れないか?」といった心配もあると思います。上記のような不安点を以下で解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
Midjourneyは有料プランなら商用利用が可能
Midjourneyは、有料プランユーザーにのみ商用利用を許可しています。
あなたは、適用法に基づいて可能な限り最大限の範囲で、サービスで作成したすべての資産を所有します。いくつかの例外があります。
・お客様の所有権は、本契約によって課される義務および第三者の権利の対象となります。
・あなたが年間収益 1,000,000 米ドルを超える企業またはその従業員である場合、資産を所有するには「プロ」または「メガ」プランに加入する必要があります。
・他人の画像をアップスケールした場合、これらの画像は元の作成者が所有したままになります。
貴社の管轄区域における現在の知的財産法の状況についてさらに詳しい情報が必要な場合は、貴社の弁護士にご相談ください。作成したアセットの所有権は、その後の月にメンバーシップをダウングレードまたはキャンセルした場合でも存続します。
なお、Midjourneyの有料プランは、以下3種類に分かれています。
ベーシックプラン:月額10ドル
スタンダードプラン:月額30ドル
プロプラン:月額60ドル
それぞれのプランは、生成できる画像の枚数などが異なります。Midjourneyで生成した画像を商用利用したいなら、予算に応じた有料プランを契約しましょう。
Midjourneyで生成した画像は著作権で保護されにくい
基本的に、Midjourneyで生成した画像は著作権で保護するのが困難です。画像の作成者の手があまり加えられておらず、AIが作ったと判断される可能性が高いと考えられます。
ただし、「画像生成AIの著作権に対する文化庁の見解」でも解説しているとおり、日本の文化庁の見解では、独自性が認められれば著作権を主張できるとされています。
したがって、生成した画像の著作権を主張したいのであれば、細かなプロンプトを与えて他人が真似できないような画像を作りましょう。
Midjourneyの学習データが著作権に触れる可能性は低い
Midjourneyの学習データが「著作権に触れるのではないか?」と不安を感じている方は多いと思います。ただ、基本的にMidjourneyの学習データが著作権に触れる可能性は低いと考えて問題ありません。
理由は、画像生成AI「Stable Diffusion」と「Midjourney」に対して提起された集団訴訟が裁判所によって棄却されたからです。
参考記事:画像生成AI「Stable Diffusion」や「Midjourney」に自作品の著作権を侵害されたとするアーティストたちの集団訴訟が裁判所によって棄却される
それでも、入力したプロンプト次第で、生成した画像が著作権に触れる可能性はあるので、十分注意して画像を生成しましょう。
AIと著作権に対する今後の対応
文化庁によると、今後の対応は以下の3つです。
上記の「現状の整理」等について、セミナー等の開催を通じて速やかに普及・啓発
知的財産法学者・弁護士等を交え、文化庁においてAIの開発やAI生成物の利用に当たっての論点を速やかに整理し、考え方を周知・啓発
コンテンツ産業など、今後の産業との関係性に関する検討を進めていく
これらの対応により、文化庁はAIと著作権の関係性をより多くの人に知ってもらい、より快適にAIを利用できる環境を整えることを目指しています。
生成系AIはつい最近世の中に広まったばかりなので、法律の整備が追いついていない部分もあります。今後、どのようにAIに関する法整備が進んでいくか、日本政府の動きに注目です。
この記事で説明したAIと著作権についての内容は、誰でも理解できるようにまとめたものです。そのため、文化庁のセミナー内容を完全に網羅しているわけではありません。
さらに詳しく理解したい方は、以下の文化庁の令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」の動画とPDF資料をご参照ください。
「AIと著作権」の動画:令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」
PDF資料:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf
以上が現状のAIと著作権の関係についての説明でした。現在、日本だけでなく世界中でAIと著作権の法整備の議論が進んでいます。ここまで話題となっているということは、実際にAIの生成物が原因で訴訟に発展した事例はあるのでしょうか?
AIの使用が、著作権侵害の訴訟に発展した事例
AIの生成物が原因で訴訟に発展した事例は存在します。しかも、大手のAI企業が訴訟の対象となっているケースが多いです。以下に特にセンセーショナルな2つの事例をご紹介します。
AIの画像生成に関する集団訴訟
人工知能(AI)によって生成された画像を巡り、Stability AI、Midjourney、DeviantArtの3社が集団訴訟を起こされました。
Stability AIは画像生成AIであり、Midjourneyも同様に画像生成のサービスを提供しています。一方、DeviantArtはアーティストコミュニティであり、ユーザーが作品を公開したり共有したりする場を提供しています。
今回、DeviantArt上で共有された著作権で保護された作品が無断でダウンロードをされ、Stability AIやMidjournyの画像生成AIの学習に使用されていることが問題視されているとのことです。
訴訟では、直接的な著作権侵害、間接的な著作権侵害、DMCA違反、パブリシティ権の侵害、契約違反、不正競争防止法違反などの複数の違反が主張されているようです。
参考文献:画像生成AI「Stable Diffusion」と「Midjourney」に対して集団訴訟が提起される
ChatGPTやGitHub Copilotの著作権に関する集団訴訟
Microsoft、GitHub、OpenAIは、人工知能(AI)をトレーニングするためにオープンソースのコードを使用していることから「オープンソースプログラマーの仕事から利益を得ている」と集団訴訟を起こされています。
具体的には、GitHubが開発したAIツール「GitHub Copilot」によって、オープンソースプログラマーの著作物が不正に使用されていると主張されています。
しかし、Microsoft、GitHub、OpenAIは裁判所に対して訴訟の棄却を要求。彼らは、GitHub Copilotがオープンソースのコードから得られた知識を使用しており、著作権侵害は行っていないと主張しています。
参考文献:Microsoft、GitHub、OpenAIが「AIツールによる著作権侵害訴訟」の棄却を裁判所に要請
この2つの事例は、AI技術が進化する中でアーティストの権利や知的財産権をどのように保護するかという、まさに「AIと著作権」の重要な問題が提起されています。
ChatGPTの使用が著作権に触れるケース
ChatGPTの使用で著作権に触れるケースを以下4つに分けて紹介します。
文章や小説を生成したケース
画像を生成したケース
ソースコードを生成したケース
学習データを読み込ませるケース
以下では、「なにを」「どんな方法」で生成したらChatGPTの使用で著作権に触れる恐れがあるのか?というポイントをみていきましょう!
文章や小説を生成したケース
ChatGPTで文章や小説を生成したケースでは、すでに世の中に出ている小説や記事の文章と似ていると判断されれば著作権に触れるケースがあります。
とくに、プロンプトを入力した段階で参考にする著者や著作物を指定する際は注意が必要です。
また、ChatGPTはインターネット上に存在する無数のデータを学習しているので、生成された文章をそのまま商用利用すると、意図せずとも著作権に触れてしまうケースがあります。
画像を生成したケース
当記事の「生成・利用段階」でも解説していますが、生成された画像が著作物とまったく異なり、参考にしたと判断されなければ著作権に引っかかることはありません。
逆に、著作物を参考にして画像を生成したり、特定の人物に寄せたイラストを生成すると著作権に触れる恐れがあります。
プロンプト次第で生成画像のオリジナリティが変わってくるので、特定の人物や画風に寄せる際は、十分注意して使用しましょう。
ソースコードを生成したケース
当記事の「ChatGPTやGitHub Copilotの著作権に関する集団訴訟」でも解説していますが、ソースコードの生成を巡って集団訴訟されたケースが存在します。
したがって、基本的に生成したソースコードをそのまま商用利用するのはおすすめできません。ただ、どのようなサイトにも使用されている一般的なコードであれば、そもそも著作権で保護されていないので問題なく使用できます。
学習データを読み込ませるケース
当記事の「AI開発・学習段階」でも解説していますが、ChatGPTを使用する目的が以下に当てはまるケースでは、著作権に触れる可能性があります。
著作物をAIに複製させるための使用
似たような作品を生み出させるための使用
上記に当てはまらず、著作物から必要な情報を抽出するためであれば、学習データを読み込ませても著作権に触れる心配はありません。
ChatGPTは著作権があっても商用利用できるのか
上記のような訴訟事例があると、商用利用できないのではと思う方が多いと思います。しかし、結論から言うとChatGPTは商用利用可能です。
ChatGPTの利用規約
繰り返しになりますが、ChatGPTは商用利用ができます。
その理由は、ChatGPTを運営しているOpenAIの利用規約に、「ChatGPTに生成されたコンテンツのすべての権利および利益は作成者にある」とされているからです。
ただし、著作権やプライバシーに関する法的な問題には十分注意が必要です。
ChatGPTが学習したデータには、著作権保護されているものも混在している可能性があります。そのため、ChatGPTによって生成されたテキストが既存の著作権付き文章と極めて近い場合、著作権問題が生じる可能性があります。
また、ChatGPTが出力するテキストには嘘の情報や不適切な内容が含まれることも考えられるため、出力された文章には人間による最終チェックが不可欠です。
さらに、OpenAIは集めたデータをサービス向上に活用するため、入力したデータはOpenAIに使用される可能性があります。そのため、企業秘密や個人情報を入力するのは避けましょう。
これらの点を考慮し、ChatGPTの利用規約とコンテンツポリシーに従っていれば、商用での利用や利点を享受することに問題はありません。
ChatGPTの商用利用の料金
ChatGPTを商用利用する場合の料金設定はどうなっているのでしょうか?
結論ですが、料金はChatGPTの使用方法によって変わってきます。
GPT3.5モデルであれば無料ですが、安全性や正確性を考慮すると、使用方法は限定的です。GPT4を使う場合は「ChatGPT Plus」に加入する必要があり、月額20ドル(2023年12月現在で約2,800円)がかかります。
またアプリを連携させたり、より高度な使い方をするためにはAPIやAzureといったシステムを活用する必要があります。この辺りは用途によって変わってくるので、料金について詳しく知りたい方は以下のOpenAIのサイトをご覧ください。
参考記事:OpenAI「Pricing」
ChatGPTを商用利用する際の注意点
実際にChatGPTを商用利用する際には、以下のような点に注意しましょう。
正確性の確認: ChatGPTは有用なツールですが、その回答が常に正確であるとは限りません。特に、専門的な知識を要する内容については専門家の意見を求めるべきです。
著作権の問題: 本記事でも解説していますが、ChatGPTによって生成されたコンテンツが他の著作物との「類似性」や「依拠性」を持つ場合、著作権侵害の問題が生じるかもしれません。生成されたコンテンツを商用利用する際は、著作権法を遵守し、必要に応じて著作権者の許諾を得る必要があります。
情報漏洩の防止: ChatGPTを使用する際は、機密情報の漏洩に注意する必要があります。特に、OpenAIの外部サーバーに保存された情報は、ChatGPTの学習に利用される可能性があるため、機密情報や個人情報を入力しないようにすることが重要です。
ChatGPTは上手に使えば便利なツールですが、使用にはリスクも伴います。注意点に気をつけながら、安全な利用を心がけましょう。
なお生成AIのリスクについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
→生成AIの企業利用・開発のリスクとその対策を解説!開発失敗事例も紹介
ChatGPTを利用する際に著作権違反しないための対策
ChatGPTで生成したコンテンツは商用利用可能ですが、著作権侵害を起こさないために細心の注意や対策を打つことが重要です。
そこで、以下で著作権侵害をしないための対策方法を3つ紹介します。気づかないうちに著作権侵害を起こしていた、なんてことになりかねないように、ぜひ参考にしてください。
業務でChatGPTを利用する際ルールを決める
業務でChatGPTを利用する際は、明確なルールを決めましょう。
ChatGPTを利用する際のルールや禁止事項を決めておかないと、知らぬ間に著作権侵害を起こす可能性があるからです。例をあげると、生成AIによって生成されたコンテンツを公開する前に行うチェック項目を設けるなどです。
このようなルールや禁止事項を決めることで、著作権侵害のリスクを低減させることが可能になります。
コピペチェックツールを使用する
ChatGPTなどのAIによって生成されたコンテンツであっても、著作権保護された文章を取り込む可能性があります。
ChatGPTで作成したテキストが、既存のWebコンテンツと重複または類似していないか、コピーコンテンツチェックツールを使用して検証することが必要です。
定期的に利用規約を確認する
現状では、ChatGPTによって生成されたテキストやコンテンツは商用での使用が可能です。ただし、規約がいつ変わるかは不明なので、OpenAIの利用規約やポリシーを定期的にチェックすることが重要です。
さらに、状況に応じて専門家のアドバイスを求めて、適切な対応を取ることが必要になります。
なお、ChatGPTを導入するときの注意点とその対策について詳しく知りたい方は、下記の記事を合わせてご確認ください。
→ChatGPTの日本企業導入事例をまとめて紹介!業務に導入するメリットや注意点も解説
ChatGPTの著作権侵害についてよくある質問
最後に、ChatGPTの著作権に関してよくある質問を掲載しておきます。
ChatGPTの著作権は誰に属しますか?
基本的に著作権は、ChatGPTに文章や画像を生成させたユーザーにあります。 また、ChatGPTで生成したコンテンツによって得られた収益もユーザーに還元されます。
ただし本記事でも解決したとおり、ChatGPTで生成したコンテンツが他者の著作物に類似している場合や、他人の著作物を改変してコンテンツを生成した場合は、著作権法違反に問われる可能性があります。気をつけながら活用しましょう。
ChatGPTを社内利用しても大丈夫ですか?
社内利用も可能です。実際にChatGPTを導入して、社内の生産性を上げることに成功している企業もあります。ただし社内利用の際に気をつけなければいけないのは「情報漏洩」「誤った情報を発信する可能性」などのリスクです。利用する際には、社員教育やシステム構築が必要になってきます。
ChatGPTのプロンプトに著作権があるとどうなる?
ChatGPTのプロンプト(指示)に他者の著作物を使用し、無許可で要約・改変した場合には、著作権侵害に当たる可能性があります。 プロンプトの内容にも十分注意する必要があります。
ChatGPTの商用利用のAPIの料金はいくらですか?
GPT-4のAPI利用料は、通常版と32K版(高機能)で値段が異なります。
①GPT-4のAPI料金
インプット:1000トークンあたり0.03ドル
アウトプット:1000トークンあたり0.06ドル
②GPT-4-32KのAPI料金
インプット:1000トークンあたり0.06ドル
アウトプット:1000トークンあたり0.12ドル
料金について詳しく知りたい方は以下のOpenAIのサイトをご覧ください。
参考記事:OpenAI「Pricing」
生成AIの著作権には注意しよう
今回の記事では、文化庁の6月19日のセミナー内容をもとに、AIと著作権の関係について説明しました。
ChatGPTは商用利用が可能です。OpenAIの利用規約では「ChatGPTに生成されたコンテンツのすべての権利および利益は作成者にある」とされています。ちなみに、画像生成AIであるMidjourneyも有料プランに加入すれば商用利用ができますよ!
ただし実際に使用する際には、著作権やプライバシーに関する法的な問題には十分注意しながら使うようにしましょう。文化庁は、著作権法では著作権者の権利保護と著作物の利用のバランスが重要であり、単なるデータやアイデアは保護されません。
また、AIと著作権の関係には「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」の区分があり、それぞれに異なる著作権の解釈が存在します。
AI開発・学習段階では、データを学習させる過程での著作権法違反については条件付きで容認される可能性がある。一方で、生成・利用段階では、AIが生成した作品に通常の著作権が適用されます。文化庁は普及啓発や専門家の意見を取り入れつつAIと著作権の関係を整理し、今後の法整備に向けた検討を進める方針を示しています。
さらに、世界ではMidjourneyやOpenAIなどの大手AI企業の訴訟事例もすでに起きている現状です。世界的にも、AIの技術が進歩する中でどのように権利を守っていくかが重要となってくるでしょう。