秋の足音
シュポッ、と小気味良い音は、思ったより大きく、思ったより早く消えた。
声に出さず乾杯をして缶を合わせ、そのままビールを喉に流し込む。14時の公園。
「いやあ、すっかり秋だねえ」と僕。
「少なくとももう夏ではないねー」と君。チーズを前歯でねずみのように齧る。
「秋になると急に空が高くなるよね」
「そうそう、それにいろんな雲が散らかる」
「君の部屋みたいだねー」「あちゃー」
広い公園には他にも何組か、レジャーシートを広げて座っているカップルや家族連れがいる。
そのうち何組かは、僕らと同じようにアルコールを飲んでいる。
まだまだ暑いとはいえ、真夏の頃から比べると日射しもすいぶん柔らかい。
「あれ!?」と急に君が言う。「何なに?どうかした??」
「私たち、出会って今年ちょうど10年じゃん」
「そうだっけ?えーっと、えーっと、あ、そうだ。あのときはオリンピックは延期になるし、みんなマスクしてるし、すごいときだ」
「予備校に行ってみたら、オンライン講義だからって入れてもらえなくて」
「どうしようと思ってたら、君が来て同じ目に会って」
「何だか意気投合して」
「なんとなく同じ大学目指して」
「私だけ落ちて」
「それでもまあ、こうやって続いているわけだ」
「10年もねー」「まさかねー」
言葉は途切れても、君との会話が続いているような気がしていた。
出会った10年前から今日までの思い出をひとつひとつ思い出している。
それはまるで、大事にしまっていた宝物を箱から取り出し、きれいな布で拭いてまた箱の戻すかのようだ。風に触れさせ、柔らかい状態を保つ。
君は立ち上がって、ぐぐぐっと伸びをした。
「もう1本飲みますか」
「もちろん」
シュポッ、と小気味良い音は、さっきより小さく、今度は僕らの周りにいつまでも残っていた。