キャッチフレーズ(3)
俺たちは、啓太から出演者のリストを見せてもらっていた。
・笑B:馬場啓太(3年1組)、別所貴之(3年1組)
・トマトスープ:緒川雄市(3年4組)、矢野克己(3年7組)、橋本巧(3年8組)
・紅白歌合戦:猪俣新之助(3年4組)、星野香澄(3年2組)
・わんらぶ:宇崎希望(3年3組)、越野メグ(3年8組)、遠山沙里(3年8組)
など・・。
「お前のコンビなんて読むの?」
「ワラビーだよ、ワラビー。知ってんだろ」
そういえば、2年のときに啓太がお笑いを始めるという話をしてきたことがあった。俺は大して興味がなくて、聞き流していたけれど、こんな名前を言っていた気がする。
「動物のワラビーとかけてんの?」杏奈が率直な疑問を口に出す。
「まあ後付けだけどね。軽快に笑いを届ける感じが出てるでしょ?」
「じゃ、それで良いじゃん。じゃあお前らは『軽快に笑いを届けます』で決まりね」
俺はさっと決めて次にいきたかった。何せ20組もいるのだ。だけど啓太は、さすがに扱いが雑すぎると思ったのか抵抗した。
「いやいやいや、もう少し議論しようぜ。もっと良いのがあるかもしれないじゃん」
「そんな時間はない」俺は冷たく言う。
「時間をなくしたのはお前だろ?もう少し考えようぜ」
そう言われると、俺も立場がない。
「そうそう。まずは練習だと思ってさ、啓太くん達で練習練習」なぜか杏奈は張り切っている。
「笑Bはどういう感じのネタなの?漫才?コント?シュール系?」
「俺がボケて、貴之がツッコむんだけど、俺は突拍子もないことを言う感じで、貴之が冷静な感じかな」
「ふむふむ。当日はどんなネタやるの?」
「漫才から『じゃあ、やってみるか』みたいな流れで、コントに入るの。ネタは夏休みの話で、『夏休み何してた?』『毎日プール行ってた』みたいな」
「時事ネタとか、毒ってある?」「それは無いかな」
二人のやり取りを黙って眺めていた俺に、杏奈が気づいた。
「おーい、潤。何ぼーっとしてんのよ。アンタも参加しないと」
「いや、お前すげえなと思って。ちゃんとインタビューになってるもんな」
「私の感想は良いから、聞きたいこととかないの?時間ないんだよ」
実際、俺はびっくりしていた。こんなにテキパキと進めるものだとは想像もしていなかった。こうやって聞き取って、ポイントをつかんで、なんだか俺もできそうな気がしてきた。
「確かに、貴之は冷静だもんな。お前がネタやっているイメージはできてないけど、『するどいツッコミと予測不能なボケでかき回す』みたいなのはどうだ?」
バシッとハマる感触があった。だけどそれは、俺だけだったみたいで、二人の表情は硬いままだった。しばらく間があって、なぜかその間は、ジェットコースターが坂のてっぺんから急降下を始める直前のような妙な緊張感だった。一度坂を上ったジェットコースターは、下りるしかなかった。
(つづく)